第32話 攫われたチサ
ザザーッ、ザザーッ、パァアアン
ザザーッ、ザザーッ、パァアアン
俺は目覚めた。どれほど眠っていただろうか。
俺は顔に乗せていたワカメを払い除ける。
時間は既に夜で、月明かりが俺を優しく照らしていた。
俺の瞳からは『何故か』涙が流れていた。いや、『何故か』ではない。
俺は遂に別の大陸へとたどり着くことができたのだ。俺は寝起きでありながらも、今までの3年間を偲んで無意識に泣いていたのだ。
そんな時ふと、俺は気づく。
「あれ??チサは?」
俺は焦って周囲を見回す。というか、なんで俺に波が...
「うお!こんなところまで水が来てやがる!!?」
漸くクリアになった頭で俺は海から離れた。
そして俺が疲れで倒れている間にチサが何処にいったのか不安で辺りを駆け、声を荒げる。しかし、見つからない。一瞬流されたかと思うものの、その考えは直ぐに否定される。何故ならよくよく砂浜に目を凝らすと、かなり薄くはなっているものの、俺が歩いただけでは無い足跡が大量に残っており、車輪と思われる跡だってあった。
俺は即座に悟る。そうここにはチサはおらず攫われたのだと。
そう結論付けると俺は、即座に行動に移る。海外の目と鼻の先にある100mはあろうかという木々で覆われた大樹海へと足を踏み入れる。
「くそっ!!まさか俺が疲れで倒れた隙を狙ってくるとは。新しい大陸に着いて油断した...。チサ...!無事でいろよ。」
そういうや否や俺は駆け出したのだった。
ここは、大陸全土全てが巨木で覆われた『森の大陸』ジンの新たなる旅路はまさに波乱によって幕を上げるのであった。
その頃....チサはというと、未だなお、眠ったままだったが、自分の近くにあった暖かく優しい感じが離れたのを感じ取っていた。
(ん〜なんじゃ。なんだか寒くなってきたのう。)
そう思いまだ身体には強烈な怠さが残っているものの目を覚ます。
「んん〜!んんん?んん、んんん!んー!(ふぁあ〜あれ?喋れないのじゃ!捕まったのか!ジンー!)。」
辺りは十数人程度が手を繋いでもその幹を一周することができないのではないかという程の巨木が見渡す限りに並んでいた。ただ、巨木と巨木との間はその木の巨大さに比例して、結構な感覚があった。巨木がほぼ全ての光を持っていってしまうが故に巨木よりも小さな植物は皆、成長することができないのだ。
そんなわけでチサが今拐われて、荷車に乗せられて走っている場所は外の時間が殆ど分からぬほどに暗かった。
今チサは全身を縛られ、口には布を噛まされ、格子状の鉄で出来た檻に入れられていた。
身体は同一化の影響で非常に怠く、殆ど力が入らない。
(こんな縄、いつもの妾であれば解くのも容易であるのにのう。一体どれほど寝ておったのじゃ...?そういえば、ジンはどこじゃ?ジンは拐われておらぬのか?)
自分よりもジンの事が心配で居ても立ってもいられないチサは、同一化の影響で力の入らぬ身体で一生懸命にもがき始める。
ガン!ガン!ガン!ガン!
狭い檻にチサが暴れる音が響く。
「おおっと、お嬢ちゃん!海で倒れていたかと思ったらとっても元気じゃないですか!見た感じこの大陸の人ではなさそうですしねぇ。」
チサはそんな男の声にもまったく興味を示す事なく諦めずに檻の破壊と縄抜けを試みていた。
ガン!ガン!ガン!ガン!
「ほんと元気ですねぇ...傷モノにして怒られるのは僕なんですよー...はぁ。仕方ないなぁ。もう少し眠って貰いますよっと。」
そうしてチサの近くにいた男は持っていた大型のリュックから黒い木を取り出すとチサの入っている檻の中へと入れる。
「んんんん??んっ....!(なんじゃ??あっ....!)。」
その瞬間かなりの勢いで暴れていたチサは途端に静まる。先ほどまでの喧騒が嘘のように辺りが静かになるのだった。
「すみませんねぇ。いや、しっかしここまで強い力を持っている少女って何者なんですかねぇ?」
男はチサが暴れていた檻を見ると、格子が何本か変形しているのが目に入る。かなり嫌な予感が男の身を襲う。
男は急ぐ。自身のアジトへと。
嫌な予感は拭いきれないが、この少女を持ち帰れば、男の仲間達は更に一年生き延びる事ができるのだから....。男は感謝する。突然流れ着いた少女の存在に。見回りに出ていた自身の幸運に...。
ジンは焦っていた。だが、不思議とチサは無事でいるという事が分かった。テイミングの効果なのかは分からないが、チサと離れると心が寒くなり、チサが近づくと心が暖かくなることに気づいた。何故わかるかって?勘だ。だけど、この感覚はこの半年、俺の中で確かに培われてきたもので、間違う筈もなかった。
よって俺は自分でもよく分からない感覚ではあったのだが、それを頼りにチサを探していた。
ふと、俺はチサが止まったことを感じる。
きっと何処かの集落かアジトにでも着いたのだろう。俺は周囲を見渡し、使えそうな硬くて細長い木を十数本拾い上げると、俺が持つ一本以外を、つい先日思い出したインベントリに収納してゆく。
「少し心許ないが、これくらいしかやれる事がないからな...流石に丸腰で行くのは厳しいだろうし。」
そう呟いて俺は気配遮断を発動し、遠く離れたチサとの距離を猛スピードで詰め始める。
辺り一面真っ暗闇であるにも関わらず、体勢を崩したり、つまづいたりすることもなく。
巨木の数々を俺は追いつき追い抜き、時には躱し、走り続ける。
ジンはこの森に長く住むものも真っ青なスピードで走っていた。
この3年間の経験から、ジンは普通の世間での常識を完全に無くしていたのである。ジンに自分が異常であるという自覚は無いのだから。
そうしてジンは辺りに人影を見つける。
(当たりだな...この近くにチサの強い気配がする。だとしたらこれは見張りか...?何にせよバレたら面倒かもしれないな。倒そう。)
そうして音もなく俺は見張りへと近づいてゆく。気配遮断を使っているのだから、音どころか俺の動きで生じる全てが隠せてなきゃおかしいのだが。
そうして近寄ると2人いた。片方は、若干太り気味ではあったが、パワータイプなのだろう。鍛えられた腕が見える。もう片方は、斥候か?かなり細く身軽そうであった。どちらも同じデザインの木で出来た鎧と兜を着ていた。
勿論俺のことはバレておらず、木にもたれかかって雑談していた。
「いや〜さっきは驚いたよな。普段気がよぇぇだけのバッツの野郎が、まさか女の子を連れて帰ってくるんだからよう!」
太った見張りが言う。
(なるほどな。バッツって奴がチサを....)
俺は逸る気持ちを抑えながら2人の会話を聞く。
「本当だな。しかもかなり可愛い子だったよな。あれだけ可愛いなら、将来成長した俺の息子の嫁に欲しいくらいだ。」
(おい、そこのガリ!チサは嫁になんてやらんぞ。)
俺は娘を思う父親の気持ちとはこういうものかと一瞬思う。
「なあに言ってんだ!あの子は贄だ。これ以上俺達の村から犠牲者を出すわけにはいかねぇんだからな。」
(犠牲者?犠牲者ってなんだ?)
「ああ、そうだったな...くそっ!思い出したら腹が立ってきたぜ。アイツらさえいなければ...アイツらさえいなければ、俺達だってこんな深夜の見回りや他の集落の奴らと争う必要なんて無かったんだからな!」
(アイツらか。中々問題を抱えているようだな。)
「この話はやめるぞ!アイツらはどうしようもねぇんだ!今は俺たちが生き延びるために見張りをするぞ。」
ここで話が終わりそうだったので俺は尋ねることにする。こいつらを無視して村を襲撃しても良いがチサに万が一があっては困るからね。出来ることなら案内してもらった方が良いだろう。
「へぇ。その話、俺にも詳しく聞かせてくれないか?」
突然背後から突然聞こえたその声に男達は一瞬にして凍りつくのだった。
今回から前書きは無しで。ネタ切れです....
今日はですねぇ...人生で初めて髪の毛が指に刺さりました。頭掻いてて痛って思ったら、指から一本不自然に毛がね...
幸い血は出ませんでしたが、指に髪の毛って刺さるんですねぇ。皆さん頭を掻く時は注意しましょうね!
それでは第33話もよろしくお願いしますm(__)m
20/11/21
これから先が気になる!面白い!と思えた方は是非是非評価よろしくお願いします!




