序章
午前五時。空が白み始める時間帯を、その男は最も嫌った。深夜の時間帯は生活音もなく静かで心地よく、昼夜逆転の生活をしている彼にとって、楽園のようなものだった。雀の鳴き声や郵便受けの音が聞こえ始め、世界は動き始める。
彼は今から寝ようかと迷った。何も好き好んで昼夜を逆転させているわけではない。一日一日に満足感がなく、ずるずると夜更かしをしてしまい、なし崩し的に現状に至っている。毎日治そうと考えるが、規則正しい生活に戻したところで、毎日やることがないので結局、今の生活習慣を維持してしまっている。
午後十一時に寝て、翌朝の午前七時に起きる……といった生活を維持するのは彼にとって困難だが、午後六時に起きて翌朝午前十一時に就寝するという生活は規則正しく守っている。
(ひょっとして、俺は夜行性なのでは)
ただ単に体内時計狂っているだけだと思われるが、彼はよくそう考えていた。
仕事を三ヶ月ほど前に辞めたので、彼は毎日やることがない。一方で、金はまだまだあるので、働く必要もない。むしろ、金はなくなるどころか増え続けていた。
毎月の末の午後八時には、ある男が大金を持って自宅に訪れる手はずになっている。だから、金は増える一方で、働く必要もなかった。そのため、会社は辞めた。
「はあ~あ……」
彼はため息をついてみた。夜に金が入るまで暇だと一瞬思った。よく考えてみたら、金が入ったところで、やりたいことや人生で達成したい目標もないので、暇には変わりないと考えを帰結させた。
そして、夜まで今後の人生について考えてみることにした。