新しい仲間……その正体はよくある展開
翌朝………まあ、部屋まで踏み込む輩が居なかったのは不幸中の幸いなのん。部屋のクリーニング代なんて出したくないん………でも、一階の食堂がまさに食道な惨状になってたのん。え、意味が分からない………私も分からないん。
「オラは何もやってねぇん、何も悪くねぇん。だからミズキッキは睨むのやめーや」
「睨んでないわよ……まあ、何もやってないのはあたしたちがよく分かってるから安心しなさい」
パジャマパーチーみたいな事をしてましたん。枕投げ大戦ではありんせん。まあ、お陰でカルアっちとシーラっちの事は分かった気もするん………あいつら、ただもんじゃないん。え、激気操れる時点で普通じゃないって……そんなもん使えないみたいなのん。
さて、改めて現場検証……ぺろ、これはペロリスト。ちゃうちゃう、テロリスト級の仕業ですん。ただ、犠牲者は昨日うろちょろしていた小物たちみたいなん…せっかくの経験値が台無しだ。それ以上にホラー的なお店で食事をしなきゃいけないのであればSAN値ピンチなん。
床やら壁におびただしいほどの血痕…そこらへんに転がる小物たちだったもの。ゲームなら死んだら消えたり棺桶入ったりしそうだけど、そのままなん。SAN値直葬なん。
そして、その中で私たちより先に食事をしている黒髪のおんにゃのこ………
「犯人はお前だっ!」
「見れば分かる」
ミズキッキのノリが悪かった…人を指差しちゃいけないとかって言って欲しかったん。でも、警察ならまだしも何の技量も防衛スキルも無い自称探偵が犯人追い詰めたら反撃されると思うん………あれ、これ戦闘イベントなん?
「お主らもこやつらと同じようなタイプか………わらわは寝不足なのじゃ。隣の客が明け方近くまで騒いでおったからの。同じようになりたくなければ黙っておれ」
そう言って食事を続けられてあらせられますぞ。というか、その隣の客はよく喋る客だったんやね……心当たりありまくりなん。やっぱ戦闘イベントちゃうん?
「ここは殺してでも朝飯を奪い取るって展開だと思うん」
「黙ってろ」
「黙ってなさい」
「黙ってましょうね」
冗談に対しての四面楚歌は辛いん…別に頼めば出て来るとか言って欲しかったん。最大の敵は身内におったん。でも、空腹は最大の敵なんです。
「……半分で良ければ分けてやるのじゃ。あまりにも量が多かったからの。ほれ、そっちの3人も相席で良ければこちらへ来るのじゃ………むさ苦しい連中でなければわらわとしても敵対するつもりは然程ないのじゃ」
◇
まあ、敵対しても勝ち目は薄いし下手に寝不足の原因だと知られれば危険なわけで、あたしたちは彼女の言葉に従い同じテーブルへと落ち着く事にした……というか、他のが壊れてたり血糊ベッタリだったりで選択肢はなかったのだけれど。
改めて目の前の少女を見る。背丈はあたしたちと同程度で、長い黒髪……そして………
「改めて自己紹介するのじゃ。わらわはキルシュ…このような者じゃ」
そう言って目立つ指輪を付けた左手で黒髪を搔き上げると、見えたのは尖った耳……それはつまり、魔族という事だ。まあ、こんな惨劇を起こしておいて人間ですって方が怖いけどね。
「ナルシストですね、分かります」
「分かってないじゃん」
約1名の天然は放置して………あれ、何であたしは魔族の耳の事を理解していたのかしら?
それに一瞬、脳裏に見知らぬ幼女の姿がよぎった気もするけど、まあいいや。
確か、一応は人間と魔族の仲は良くないって話だったけども根絶やしとかって状態には至っていないんだろう。いや、この状況を見れば憲兵とか来そうなものだけど。
それはともかく、魔族の土地に行こうとするあたしたちからしてみれば悪い事ではない。説得か懐柔か…脅迫ってのは無理そうだから、これらで仲間か一時的な同行をしてもらえば領地を超える事が容易になるかもしれない。
「……成歩堂。つまり、尖った耳は魔族の証なんすか………それでは、人工生命体とか神にも魔王にも凡人にもなれる主人公とかもこの世界に実在するんですのん?」
「またバカな事言ってる……」
カルアとシーラの説明を受けてその結論はどういう事なのか脳みそ開けて調べてみたいわ………
「人工生命体のぉ………それはさておき、神にも魔王にも凡人にもなれなかった村人なら、この世界の創世記におったようじゃがの」
「あなたもそんなバカな話に乗らなくていいから」
ノリが良いのは嫌いじゃないけど、めんどくさいのは葵だけでお腹いっぱいです……いや、まだ何も食べてないけどね。とりあえず、注文しよ。
◇
互いに改めて自己紹介をしつつ食事と相成ったわけではあるが、本当にこやつらは今も前世も危機感が足りぬのじゃと呆れながらもカルアとシーラに目配せをする。
察しの通り、わらわはキルシュのアバターを纏ったチェリア・ブロッサムそのものじゃ………同様にカルアのアバターを纏ったアレア、シーラのアバターを纏ったカレア。つまりは、初期勇者パーティの面々といったところじゃ。もっとも、目の前の元ソレイユ以外の面々は既に死亡しておるメンバーを除いてあの時使命を果たし消え去ってしまったらしいのじゃ。
全ては、あやつを救う為に。この世界すらその為に作り上げた紛い物の箱庭でしかないのじゃからの。わらわたちはこれから、かつての勇者パーティの歩んだ道を………辿るわけないじゃろう。そんな手間すら惜しい。
かつても、召喚されたソレイユと従者であったアレアとカレアに似たような感じで出会い、真の敵である女神へと共に歩んだ……ゲガエルやエンシェントドラゴン、ロータスとクロバーにカスミを加えて。
じゃが、今回はあまりにも明白な程に仲間が何処に居るのか分かっておる…山登りは堪えるのぉ。いや、今はそう仕向けるのが堪えるのじゃ。
「ふむ………魔王に会って保護を求めるとな。それは構わぬのじゃが、そう易々と会えるとは思わぬ方が良かろう。謁見を申し出るにはそれなりの理由が必要であろうな」
「………召喚された勇者って理由じゃあかんのん?」
ペラペラと初対面の相手に召喚された勇者だと語るのは前と変わらぬのぉ………やっぱアホじゃろ。
「その証拠たるものをお主らが持っておれば簡単にいこうが……無さそうじゃの。どう見ても一介の冒険者にしか見えぬ。まあ、持っておったとしても本当に持ち主か否かを判断しようがなければ会えぬな」
「……まあ、そうよね。仮にも王に会うのならそれなりの理由と身分証明出来るものが必要よね………」
「ならば、今からそれ相応の理由を得ればええと思うん。歌会始に向けて和歌を習うん」
「会うのは天皇陛下じゃねぇからな」
このやり取りを見ていると、やはり違和感を覚えてしまうのじゃが…されどそれこそがわらわたちの真の目的でもあるので致し方ないのじゃ。
とにかく、あやつらもこの世界に馴染んだであろうし不確かではあるが目処は立った。
「そういえば………魔王様は、とある鉱石を求めておると聞いた事があるのぉ。もしかすればそれらを持って行けば会ってくれるかもしれぬ」
とにかく、山へと導く為に嘘を吐く。まあ、実際にあやつらを封じておる素材はこの世界では稀少な鉱石として人気が高いのも事実であるし………元を知るわらわとしては微妙な気分じゃがな。
◇
魅惑的な鉱石のお話出ました。これでさいきょうのつるぎとか作るんですね、分かりますのん………更にそれを魔王に献上すると闇の世界を漏れなくプレゼントしてくれるという親切設計ですん。そして私は闇のデュエリストとして装備を銀色で固めるん……
あれ、離せって言ってる私と羽交い締めにしてくるミズキッキの姿が目に浮かぶん。どぼちて?
「でも、魔王に会って世界を半分貰ってもあんまり嬉しくないん。鉱石売って売って売りまくって大金持ちになるのも悪くないん」
「それが出来る程に身分証明出来ないでしょ…服とか買い取ってもらうのでさえ一苦労だったのに。それに大量に採掘するなら色々手続きとか許可とか要りそうだし」
唯一の堅物ミズキッキが夢をへし折ってくるん…異世界人に法とか関係ねぇと思うん。暴力でどげんかせんといかんのん。
「そこは信頼出来る者を使えば良かろう…少なくともそこにいる獣人たちはそうではないのかの?」
「自分たちは、まあ……その………」
「元奴隷に身分証明出来るもんなんて無かろうもん。つまり、私たちは陽気な不審者集団なのん」
自分で言ってて虚しくなったのん。無国籍と言っておけば良かったん……いや、まだ向こうで死亡認定はされとらんはずなん。つまり、無国籍じゃないん………だからどーした?
売るのがダメなら赤いジャケット着てドロボーすればええだけなん。とりあえず、採掘用のスコップ盗んでくるん。いきなりビーム撃ってくる店主の居ない店を狙うん。
「さあ、今から店主の目を盗んでスコップをくすねる練習するん」
「何の脈絡もない事を唐突に言うな」
「………こんな不審者であるなら、尚更魔王に会うのは困難じゃぞ?」
キルシュたんの容赦ない言葉の攻撃が胸に突き刺さるん。だから、やけ食いしたるん。肉や、肉もてこい。
とりあえず腹ごしらえしてからいくらでも山登りの話聞いてやるん………あれ、これ勇者系ファンタジーじゃなくて登山系ほのぼの世界なん?
登山用具買う金あったかしらなのん………無かったらビバークとかしなきゃいけないじゃないですか。防寒具とか無いと氷の精霊とかに会えんのん。居るかどうか知らんけど。