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ファンクラブ

お久しぶりです

長らく投稿できずに申し訳無い・・・

「あれ、やっべ」


「どうしたの、れん?」


 移動教室の道中にて、蓮は手荷物をまさぐると苦々しい顔をして立ち止まった。


「いや科学のノート忘れたみたいだ。

 ちょっくら取りに行ってくるは」


 碧達はいつものグループで話に華を咲かせながら向かっていたからか、気が付けば忘れ物をしていたことに遅れて理解した。

 蓮は肩を落としながらも仕方ないかと気持ちを切り替えた。


「え?ボクたちも行こっか?」


「いや、悪いから碧ちゃん達は先に行っててくれ」


 碧がそう声をかければ、蓮は自分のヘマで周りを巻き込みたくないのかそんな事を言い残す。

 その際に真尋に「遅刻しないでね」なんて見送られながら蓮は慌ただしく来た道を戻って行った。


 結構早めに移動し始めたからかなり時間はあるとは思うが。


 碧は小走りで走っていく蓮の後ろ姿を心配げに眺めていた。


「ほら、碧ちゃんも行きましょ」


「ぇ・・・あ、うん」


 碧は蓮の消えた先を見続けたが、楓に呼ばれると後ろ髪を引かれる様に皆について行くのであった。


 しかしその直後、碧の心配が的中するかのように蓮の消えた先へと黒い影が蠢くのであった。










「お、あったあった」


 そうしてそんなこんなで、程なくして戻った蓮は誰もいなくなった教室にたどり着いていた。


 そうして自身のバッグを漁ると案の定忘れていたノートを発見。時間を見ればまだ余裕がある事に安堵してから戻ろうとする。

 しかしその時である。


 ノートが見つかったことや時間的余裕があった事に安心したその隙を狙う何者かが蓮の背後に忍び寄っていた。


 そして蓮との距離が人一人分となった所で遅れて蓮も気がついた。しかしその反応はあまりにも遅すぎた。


 振り向くと同時にその男は蓮の頭へと紙袋を被せた。


「むぐっ!?」


 そして更に矢継ぎ早に男は蓮の体をヒョイッと米俵を担ぐように持ち上げると、どこかに運ばれていく。


 その間わずか数秒の出来事であり、蓮がその状況を理解する前に全ては終わるのであった。


 ☆


「ぷはぁっ・・・はぁはぁ、なんなんだいったい!」


 何も見えない。しかし椅子に座らされると胴の部分を確りと括られた後、頭にかぶらされていた紙袋を剥がされた。


 そしてやっと新鮮な空気を吸うことが出来るのと、突如視界が明るくなった為目を白黒とさせる。


 そしてやっと焦点が定まってきた蓮の視界に映るのは、普段は誰もいないはずの空き教室に10人ほどが蓮を囲んでおり、そしてその中でも代表と思われる人物が蓮の前に立ち相対していた。


「やぁ、五十嵐くん。またお会いしましたね」


 そしてその男はたしかに見覚えがある。それはたしかーー


「なっ、お、お前は宮野っ」


 そう、宮野とは以前蓮に接触してきた男であった。確か節度ある行動をしろとか何とか・・・。

 記憶では先輩だったとは思うのだが、この状況に余裕がなくつい以前の印象もあってか、呼び捨てで呼んでしまった。しかし宮野は気にする様子はなかった。


「と・・・、誰だこいつら」


 そして多少の冷静さを取り戻すことでやっと周りにいる人達に目を向けるが、これが本当に心当たりがない。

 しかも拉致るようなこのやり方、物騒すぎる。


 まるで蓮がなにか恨みでも持たれていたかのような・・・いや、そう言えばと以前殺害予告のような手紙を貰ったことがあったと思い出す。

 それにこの会長と自称していた宮野が率いている団体ーーーー何となくは当たりはつきはした。


「まぁ落ち着いてください。

 我々に残された時間は残り少ない。手短に、建設的な話をしましょう」


「そう思うなら10分休憩中にやるなよ!?」


 蓮のそんなツッコミが響くがそれに対し反応する者はおらず、あたかも蓮だけがおかしいかの様に話は続く。


「我々が貴方をここにお呼びした理由は、分かりますか?」


「さ、さぁ・・・、そもそもお前たちが何なのかも分かって無いんだが」


 なんて、心当たりはあるがここは何の駆け引きになるかは分からないがシラを切る。それに対して宮野は「ふむ・・・」と顎に手を当て考えた後に蓮を見て言った。


「その答えに関しては最早口にする必要もないでしょう。既に、我々が来た理由も此処にあるのですから」


 そう言って宮野は蓮の胸にトンと指を置いて顔を近ずける。触覚による刺激と、パーソナルスペースを侵される感覚にどうも気持ち悪いが、それ以上に蓮が首に下げているネックレスの先をピンポイントで指で当てて来たため脂汗を流し、まるで生殺与奪を握られているかのような錯覚に陥った。


 何故か?それはそこに碧から預かった合鍵があるからだ。


 ドンピシャに探り当てた事でそれが偶然だったなどということはないだろう。

 しかし何故彼らが合鍵を預かっているのを知っているのか、それもネックレスとして首にかけている事も。


「な、何が目的だ・・・、まさか鍵を奪いにきたのか?」


 蓮はかなり余裕が無いのか、そういう迂闊な事を言わない方がいいとは分かっていたがつい口に出てしまった。


 しかしそれに対して宮野はフッと鼻で笑った。


「な、何がおかしい・・・」


「我々がそれを?

 いえ、五十嵐くんは私たちを分かっておられませんね」


 宮野はクックックと絵に描いたような企みを含む笑みを浮かべたがそれが終わり次第眼鏡をかけ直すと蓮を囲む1人へ指を刺し言った。


「では君、我々がこの鍵を手にすることは10箇条の掟においてどの条項に抵触してしまうか、読誦してみてください」


 その言葉に少しだけ指さされた男は突然の振りにも関わらず平然と諳んじた。


「はっ!

 神聖不可侵の掟、第1条!

『御身、およびかの者の私物に、いかなる理由があろうとも許可なく触れてはならない。触れることは冒瀆と心得よ。』です!」


 は、は?

 掟?何なんだそれは。


「そうだね、流石です。

 しかし君にはすこし今回は簡単だったかな」


「いえ、当たり前のことです。もしそれが褒められるべき事なのだとすれば、全ては会長の読誦教育による教えの賜物です」


「はは、そんな謙遜することはない」


 そんなやり取りを目の前にして、蓮は目を丸くすることしか出来なかった。


 な、なんなんださっきから神聖やら読誦やらと宗教のように。しかしその内容は明らかに碧のことを指しているのだろう。


 なんと言うか・・・これはあれだ。何というか、ヤバい。そんな語彙力が失われる程に、知らないところでエライ事になってるのだと今更ながらに知った。


 だがまぁーー、その気持ちは痛いほど分かってしまうのが悲しいところ。

 蓮はそんなカオスな状況にも、うんうんと納得しながらも、そして確信に変わった。


 こいつら、あいちゃんの熱心なファンなのだと。俗に言うファンクラブと言うやつだ。しかもかなりパンチの効いたやつだ。


 その時にファンクラブがあったかは知らないが、以前から碧を好く者から手紙を出してきたり、会長と言われた宮野という男の接触くらいだったが、とうとうこうして強引な手を使ってくるようになったのか。


 今後こいつらがどういう出方をするのか、さらにこの状況で蓮が何をされるのかと戦々恐々としていると宮野は改めて蓮夜也へと向き合った。


「では本題に戻りましょうか。

 手短に我々があなたをお呼びした理由はただ1つ、とある噂を確認しなければと思いましてね」


「う、うわさ・・・?」


 なんなんだ一体。

 心当たりは・・・ないことは無いが、この宮野たちの前では何を言い出すか分からない。


「どうやら貴方は神器を手にして以降、平日も休日も劇の練習と託けて聖域へと入り浸っている様子」


 聖域って・・・、何かと思ったがあいちゃんの部屋のことか。


 しかし言い方はまどろっこしいがなぜその事を知っている。いや、と言うか託けてって・・・その言葉通りに劇の練習をしてんだが?


「その聖域にて、貴方はまさかまさかとは思いますが学生の本文を逸脱する行為に至っている訳ではないでしょうね?」


「は、はぁ!?」


 まさかの質問に、蓮は思わず素っ頓狂な声が漏れてしまう。

 しかし宮野は腕を大きく広げ演説をするかなように続けた。


「純粋で、穢れを知らぬ心。そしてそれを体現したかのように純白を纏いし肌と髪。その全てにおいて崇高なる彼女を、醜く穢れきった邪な欲望によって汚す様なことはある筈は無いですよね?」


「お前は何を言ってるんだ・・・」


 どこのポエマーだ。

 蓮がドン引きしながら辺りを見渡すと、周りは決して冗談では内容で悲壮感に溢れ、最悪なことを想定して既に泣き出してしまっている者もいる。


 お、おいおい・・・。


 蓮は逆に冷静になりながらも、こうして拉致監禁され詰問を受けている事への逆襲の機会なのではと考えられた。


 どこから情報を仕入れているのかは知らないが、こうして聞く限り碧のプライベートまでは踏み入っていない様子。寧ろそのデットラインを超えてたら即警察行きであった為、簡単な話だったのが残念ではあるが。


 しかしそんな奴らをギャフンと言わせられるのではないかと蓮はニヒルな笑みを浮かべてふんぞり返える。


「なんだお家デートの内容が気になるのか?

 そうだなー、そんな事を教える義理もないがここは一つだけ。あいちゃんの寝顔は最高に可愛かったとだけ言っておこうかな?」


 そうしてニマニマと笑みを浮かべる蓮。


 勿論哀しきかな、ここで言う寝顔とはなんの含みも無い文字通りの意味である。実は劇の練習の合間に休憩を挟んでいたその時に、碧が疲れて途中で寝てしまったことがあったのだ。


 その時は蓮の隣で肩に頭を乗せ、スヤスヤと眠る碧が可愛く、そのまま二人でお昼寝するといった一時もあったのだ。その後、碧が起きた時には寝てしまったことに平謝りしていたのだが、そんなところも微笑ましかったと心を癒されながら勝ち誇る。


 しかし、そんなミスリードが効かないのか宮野は蓮の話を聞いてもずっと不敵な笑みを浮かべたままで微動だにしない。

 蓮はおかしいなと周りを見渡すと周りは血の涙を流すものや怒りが抑えられず小刻みに震える者もいた。


 そうだ、そういう反応を待っていたのだ。それなのに宮野という男は一切表情を変えない所か、鼻を鳴らしてそれから指をパチンと鳴らした。


「副会長、例のブツを」


「ハッ」


 そうして副会長と言われた男が裏へと消えていく。それを軽く目で追いながらも、最後は宮野へ視線を戻す。


「あまり皆を刺激しないでください。中には血気盛んな者もいましてね、これでも抑えるのに苦労しているんですよ」


 そう言われた蓮は改めて辺りを見渡すと、確かに鼻息を荒くして今にも飛びかかって来そうな者がいた。

 怖っ。蓮はヒクヒクと頬を吊らせた。


 そうしているとやがて宮野の元に指示された副会長と呼ばれた男が戻ってきた。


「会長、これを」


「ああ」


 そうして宮野はその男に「ご苦労」と労いながら再度蓮へと向き直る。


「まぁ何が言いたいかと言えばね、そんな彼らの怒りを抑えるためにも、君にはこれを身に付けて頂きたいのですよ」


 そして宮野が手の中で広げたのは・・・なんだこれは?

 それを言葉で説明するのなら、本皮で作られたパンツのような形状であり、デリケートゾーン等には鉄の装飾もあしらわれている。しかしそれは本当に装飾なのか?

 何でだろう。初めて見るはずなのに、不思議とどういう使い方なのかが分かってしまう。


 しかしそれらが使われる時には漫画やアニメといった中で、何処かギャグとして扱われる物のはずだった。しかし今蓮はそれにかなりの恐怖を感じている。


「な、なんだよそれ・・・」


「おや、知りませんか?

 こちらは中世ヨーロッパ、11世紀にまで遡る深い歴史を持つものだと言うのに。さては歴史の勉強はされてはいない?」


「そんなものが授業に出てたまるか!

 でも知ってるわ、貞操帯だろそれ!」


 そう、それは貞操帯と呼ばれる拘束具であった。


「ふむ、ご存知でしたか。

 そうこれは過去に愛する妻が戦地へ赴く男性に身につけさせたという、愛の証です」


 あ、愛の証・・・なのな?

 歴史的経緯は初耳だがそんなものを付けるなどたまったものじゃない。何が愛の証だ!


「遠くにいても、私を忘れないでという思い。実に感動的だとは思いませんか?」


「全然!?」


「そして貴方も、これを身につけて愛を証明してください」


「い、いやだっ、やめろ!」


 蓮は縛られている椅子がガタガタと鳴らすほどに身を捩り体を動かそうとするが動かない。


「大丈夫、便尿に関してはその箇所に穴が空いている設計の様ですよ」


「そんな心配しとらんわ」


 蓮が渾身のツッコミを入れるが関係ない。

 貞操帯を広げながら段々と宮野は蓮へとにじり寄る。


「や、やめっ、やめろー!?」


 蓮の悲鳴が空き教室中に響いたその時である。





「れんー?」






 まるでここには似つかわしくない鈴の音の様な声が皆の耳に届いた。そして、それを聞いた時の皆の反応はあからさまだった。


「「「っ!?」」」


 ざわざわざわっ


「あ、あいちゃん!ここだ!」


 そして対照的に蓮だけは希望を見出したかの様に、地獄へと垂れ下がってきた蜘蛛の糸へと縋る。しかし声を上げて後悔をした。


 いや呼んでどうする!?


 蓮は情けなく碧へと声を上げたが、この様な危険な不審人物が跋扈する伏魔殿に呼び込んでしまって良かったのか。


 蓮がそんな思考に至っている間にも扉の向こうからは迷子の子供を思わせるような、不安げな碧の声がやけに静かとなったこの部屋に響いてくる。


「れん、どこぉ・・・?」


 しかし少しずつ、碧は蓮のいる教室へと迫ってくる。

 どうしようか蓮が頭を悩ませていると、そんな蓮以上に焦る人物が1人。

 いや本当は1人所ではなく、先程まで殺気立っていたもの達が情けなく慌てふためいていた。その中でも更に蓮が注目する人物は宮野であった。


 宮野はここに来て初めてポーカーフェイスを崩すように、微小ではあるが廊下に気が逸れてそぞろとなっている。


 蓮はそれを見て初めて勝ち誇るように顔を傾けて小さくも胸を反らす。


「早くこれを解かないと、あいちゃんが来ちゃうぜ?」


「ふむ・・・、これは流石に我々もお手上げですね。人員をここに集中していた為にあの方の護衛が手薄になってしまっていましたか」


 それは本当に護衛なんだろうな・・・。

 あまり聞き逃せない内容に蓮は半眼で睨むが何処吹く風。しかし貞操帯を奥に下げさせると直ぐに冷静となり周りに指示を出す。


「今回はこれで潮時の様です、ではそれぞれ皆様は解散するように」


 そして最後に、宮野は「ああ。勿論、その際には決してあのお方のお目汚しはしてはなりませんよ」と付け加えた。すると周りは訓練されているかのように答えた。


「「「はっ!」」」


 そうしてここいた者たちは各々行動を始める。


 扉を少し開けると鏡を使い廊下の状況を確認し次第去る者や、窓から一斉に飛び出し散っていく。


 ここ2階だが大丈夫なのだろうか?

 いやそんな心配よりも先に自分の心配だ。


「お、おいっ。この紐解いてくれ!」


「今回は名残惜しいですがこの度はここで引きましょう。ではまた次の機会にでも」


「あってたまるか!それと縄!」


「ああ、それとこのことは何卒ご内密に。

 あの方の平穏な高校生活を望んで立ち上がった集い、余計な不安は抱かせたくは無いのは通じあっていると信じていますよ」


 宮野は口元に指を当てて静かにするようにというジェスチャーを行った。そしてその指を教室の扉へと向けた。

 すると扉の曇りガラスの向こう側に小柄な人影が浮かび上がった。


 間違いない、碧である。


 その事に気を取られたその瞬間、振り返れば既に宮野の姿はなかった。


「なっ、や、やられた・・・」


 なんという手際。

 蓮は呆気にとられている間に、ガラリと扉が開いた。


「れん、ここにいるのーーーーーえ?」


 扉を開けた碧と目が合った。

 そして碧が目にしたのは誰もいない部屋でポツンと蓮が椅子に座っている光景であった。


「な、何してるの・・・?」


 碧は蓮のする事だからなにか意味があるはずだし、理解してあげたいと一生懸命考えたが碧の理解の外にあり申し訳なさそうにそう聞いた。


「こ、これは・・・あいちゃんこそ何でここに」


「ボ、ボクはれんが遅かったから心配で」


 そんな心配かけちまってたか・・・。


 蓮も蓮で好きな人に見せる醜態と困らせてしまっている現実に頭を抱えたくなった。


「いや、その前にだな。

 あ、あいちゃん!すまないっ、この縄を解いてくれないか!」


「え、え?縄?」


 碧が下へ目を向けるが、そこには何もなくただ蓮が1人で椅子に座ってるだけである。


「ほら、これなんだけどーーーあれ?」


 蓮が碧へアピールしようと椅子をガタガタと揺らして碧へ見せるように体をよじる。しかし本来であれば体と一緒に椅子も付いてきてもおかしく無いのに、蓮の体は椅子に縛られる事なく身が投げ出されると情けなく転げ落ちて床へ激突した。


「ええ!?」


 蓮が体を見ると、キツく縛られていたはずの縄がなく、体が自由になっていたのだ。

 しかし何故?あの一瞬で外したようには見えなかったが、それでも宮野という男の不気味さが勝る。


「れん・・・、だ、大丈夫?」


「ち、違うんだ、これには事情があってだなーーーー」


 キーンコーンカーンコーン


「ーーあっ」


 蓮が弁明しようとしたその時、10分休憩の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。

 その音がすると流石に悠長にしてはいられない。


 説明も虚しく蓮達は慌てるように次の移動教室へと向かうのであった。


 ☆


 その後、弁明が行えぬまま授業が始まった。

 蓮は己が決して奇行を行った訳ではないことを伝えたかったが、碧は気にしていないのか気を使われているのか、授業中に顔色を覗くがいつもと変わりない。


 その事に一安心をするが、ふと果たして碧はあの連中のことを知っているのかと疑問に思った。あの連中の発言的にはあのファンクラブ?のことは秘密にしているみたいだが、蓮に対して強行的な対応を見せてきたぐらいだ。

 碧に対して接触してくるのならば許せない。


 蓮は授業終わりに仲間内に遅れた事を揶揄われながらも碧へとこっそりと近づいて聞いてみた。


「な、なぁ、あいちゃん」


「どうしたの?」


「えっとだな・・・。

 あいちゃん、この学校で何か変わったことってないか?」


「変わったこと?・・・うーん」


 そう言われても、碧にとって学校生活すら久々で高校に至っては遅ればせながらも初めての事ばかりで普通が分からないからなんとも言えない。


 碧が斜め上に目線を向けて悩んでいると、蓮が具体例を出して確信に触れようとする。


「例えばほら、変な奴らに絡まれたとか、後をつけられてるなんて感じたことは無いか?」


 昔の碧であれば視線に敏感であったが、学校生活を送るようになってからは、人混みや周りに見られる事が多くなり慣れ始めているため中々難しい。


 それでも食い気味に聞いてくる蓮に対して碧も何かいい答えが無いかと模索するがやはりそれらしきものは見つからない。


 しかし、それとは別で不思議なことがあったなと思い出す。


「あっ」


「お、なにかあったか?」


「え?ううん。でも、れんが言ってるのとはちょっと違うんだけど、1つ不思議なことよくが起こるなって思ってて」


「不思議なこと?一体なんだなんだ?」


 机や下駄箱に怪文書の手紙が届くとかか?

 それとも拉致監禁されたり?


 蓮は碧の身に起りかねない危機を想像しては身の毛がよだつ。もしそうならタダでは置かないぞと。


「えっとね、この学校に妖精さんがいるのかなって思う時があるんだ」


 そんな憤怒に燃え盛る蓮とは裏腹に、碧は妖精だなんだとスピリチュアルな話をし始めた事に少しだけ恥ずかしそうに頬を掻きながらそう言った。


「よ、妖精!?」


「う、うん。

 そのね、前に教科書を無くしちゃったことがあったんだ」


「え?あ、ああ・・・、教科書ね?」


「そう。すっごく探しても無くて、どこいっちゃったんだろって思ったんだけど、気づいたらボクの机の上にあって、皆に聞いても知らないって言うんだ」


「お、おお?」


 蓮はどんな話が飛び出してくるのかと覚悟していたが、思っていたのと違い戸惑ってしまう。


 そして微妙そうな反応をする蓮を見て、碧は慌ててもっと妖精さんエピソードを続けた。


「でもね!その後、家に帰ったら教科書があって、よく分からないけど今二冊あるの・・・」


 何なんだそれは・・・。

 誰かに付けられてるとか声を掛けられたという話が出てくると思ったが、ひょんな話に戸惑ってしまう。そんな蓮が呆れた様な顔をしていたのを信じていないと勘違いしたのか、碧は慌てて別のエピソードを付け足した。


「それだけじゃないんだよっ。

 前なんてね、宿題するの忘れちゃってどうしようって困ってたのに、引き出しを見たらもうやってある宿題のプリントがあって・・・ボク本当にやった記憶無いのになんだよ?」


 信じて欲しいと必死に胸の辺りで小さく手を振りながら説明する碧は可愛らしく微笑ましい。が、蓮はその話を聞いて確信する。絶対あいつらだと。


 あいつらは一体何をやってるんだ。


 蓮は恐ろしいような、やる事がなんともちゃっちいと言うか、半分呆れる様に奴らの顔を思い出す。


「そうか、妖精か・・・」


 聞く限り碧に対して不利益を出してる訳では無いのだろう。ただ人によっては十分キモイし、特に碧なんて出会った頃は男の人に付きまとわれてイヤな思いをした事もある。


 蓮は今の碧の気持ちを聞いてみることにした。


「あいちゃんはその、妖精って言うのはどうしたい?

 少し心当たりがなくも無いから、やめさせようか?」


「え、れん、妖精さんと知り合いなの?」


「し、知り合いでは無いかなぁ・・・」


 蓮は顔を引き攣らせながら目を逸らす。

 知り合いと言うには余りにも好感度が足りない。


「そうなの?でもそれなら良かったの・・・かな?

 こういうのって、正体を知ったりしちゃうと消えていなくなっちゃったりするんだって、昔話でよく聞くんだ」


「あー」


 鶴の恩返し然り、西洋のブラウニーという伝承を思い浮かべる。どれも正体を知ったり見るとそのものの前から去ってしまうのだ。


 勿論碧も本当に妖精だなんだとは思ってはいないのだろう。現に付け足すようにこう言った。


「でも、教科書なくて困ってるだろうし。

 それに宿題は自分でやらなきゃだから、それはいいかなって伝えては欲しいかな」


 なんて、蓮に対して暗に線引きを示しながらも、この様な事で責める事はしないで欲しいと言った旨を伝えた。


「そうか・・・、まぁ多分伝わるさ」


 碧の見せる優しさに、蓮も胸がいっぱいとなりその気持ちを発露させるように頭を撫でた。

 それに対して碧もツンっと背伸びをして自身もその手を享受しようとする。


 基本この2人は何かに託けてイチャイチャ出来ればそれでいいのかもしれない。

 蓮もされた事や貞操帯などという悍ましいものをつけさせられそうになった事は思うところがあるが、今はそんな事どうでもいいように思えた。


 金持ち喧嘩せずとはよく言ったものである。こうして碧と共に満たされる蓮は友達以上彼氏未満としての余裕を取り戻すのであった。

もう少しギャグっぽく書きたかった回なので、気が向いた時にでも修正を行うかも知れません

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