トラウマ
今回はちょっと長め
閑静な住宅街を抜け駅近くまで行くと街も様変わりし、だいぶ都会な街並みへと変わる。そんな中なかなかお目にかかれないであろう2人の見目麗しい少女が並んで歩く。
1人はスラリと背が高いモデル体型をしており、さらに大和撫子を思わせる凛とした美しさをもった少女である。
長く美しい黒髪がさらにそれを引き立て、彼女が道行けば誰もが振り返り2度見する。しかしそれを意に返すことも無く歩く姿はその少女の強さを感じさせていた。
そして2人目はあどけなさが残り、まるで人形かのように整った顔立ちの少女である。背は高くはなく、幼い容姿と合わさり熟した色気は未だない。しかし色香とは別にどこか神秘性を感じさせる魅力を放ち、道行く人の視線を同じように集めていた。だが彼女の場合は少し弱気なようで、視線を浴びる度に自信なさげに自分の綺麗な黒髪の毛先を指で弄っていた。
普段可愛い子を見つければ声をかけようとするナンパ者も、この2人に関しては芸能人のようなオーラを感じとりなかなか近づけないでいた。
さらに誰が1番手になるか、そんな睨み合いの近郊状態に、ピリッとした緊張が走っていた。
そして、まさかそんな緊張感の真っ只中にいるとは想像だにしない碧は、楓の手に縋り付きながら無心でついて行くので精一杯であった。
自宅を出てから駅近くの繁華街に行くにつれ店も一人通りもドンドンと増えていく。碧もそれには気がついており、内心ガタガタビクビク震えていた。いや、もはや内心だけでは収まらず体が震え上がる。
「碧ちゃん?」
手先から来る震えが楓の指まで伝わったらしい。立ち止まると心配して声をかけた。その声で俯いていた碧は初めて顔を上げ、ぎこち無くニッと笑顔を作った。
「だい、じょーぶ。なんでもないです」
「そ、そう・・・」
そういう割には異常な反応を見せている。しかしここまで来てしまえばショッピングモールにかなり近づいている為、着いてしまえば大丈夫かなと楓は思った。
「あともう少しだから、もうちょっと頑張ってね」
楓が碧を励まし、碧はそれに応える為にまた笑顔を作った。それを見届けて、同時に周りを睨みつける。
視線の先には抜け駆けしようと声をかけて来そうであった男の2人組であった。楓に睨まれるや否や、体をビクッとさせて気まずそうに逃げて行った。そしてそれを見ていた心当たりのある人達も口笛を吹いたり誤魔化しながら雑踏へ消えていく。
「はぁ」
碧にバレないように小さくため息をついて、また進み始めた。
そして楓は考える。
普段からナンパされる事はあるが、こうして碧と歩いているとまるでナンパホイホイのように囲まれている。
これで碧の髪が銀色となるとなかなか想像したくない。染めていると思われれば硬派では無いと見られてしまう。言い換えれば軽い女だと思われかねない。
確かにこれでは碧の性格からして生活がままならないだろうなと感じさせられる。
しかし、そうなる事は目に見えているだけに今回はその対策もバッチリ決めてきた。
碧の様子を伺うようにチラリと見れば、黒髪という普段とはかなりイメチェンした碧がいる。勿論ウィッグである。
因みにそれにプラスして眼鏡もつけているのだが、カラコンは怖かったようで見本を見せただけで凄く怯えられた。
しかし眼鏡だけでもかなり視覚的効果はあるし、何より普段とのちょっとしたギャップが可愛かった。可愛い子は何をしても可愛いとは世の常でもあるし不条理でもある。
もはや珍しい青い瞳よりも可愛いが先に来るため、違う意味で視線を集めているがこれは最早どうしようも無いことなのである。というか碧がその容姿でいる以上、慣れて貰わなければ困る。
小さい頃ももっと周りからチヤホヤされても良かっただろうに、何故あのような部屋で粗雑な扱いを受けているのだろうか、と楓は疑問に思ってしまう。
まぁこれに関しては親と軋轢がある様で、碧も簡単に口に出さないので仕方がない。その代わりに私たちがサポートしてあげなければと誓うのであった。
そうして、そんな事を考えていればもうゴールはスグそこである。この街一番の駅近くの繁華街。そしてその中の1つであるショッピングモールである。
無事ここまで来れたことに一安心。
「碧ちゃん、もう着いたわよ。あとはぱぱっとお買い物してノルマ達成ねーーっ、あ、碧ちゃん!?」
楓が目的の折り返しまで来たことを褒めようと碧を見る。しかし、その姿を見た瞬間に楓は肝を冷やす。
なぜなら碧が溶けていたいたからだ。
と言うのは比喩的な表現だが、完全に楓の腕を支えにしなければ立っていられないという様相であった。
それに心做しか呼吸も荒いし顔から血の気が引いている。
楓はこれはいけないと碧の手を引きながら路地へと逃げ込んだ。手を引く際、手汗も凄いことになっていた事に今更気がつく。
周りを気にしすぎたための監督不行だった。楓はもう少し早く気づけていればと悔いながら碧をこの場から人気のいない所へ連れて行った。
そうして碧と一緒に逃げ込んだ先で、いまだ開店していない居酒屋へと続く階段にハンカチを置き、碧を座らせた。私有地であるが今は緊急事態であり、お店の人に言われたら謝るのでそれ迄は居させてもらおうと考えた。
「はぁ・・・はぁ、ふぅ」
碧は偶にしゃくり上げるような、不規則な呼吸を繰り返す。
やはり体調は優れないようであった。
楓は碧を支えながら、手を団扇にして風を送る。熱中症でもないし果たしてこれに効果はあるかは分からない。
しかしここに来てから見るからに碧の様子は正常に戻りつつあり、顔色の悪さは戻らないが呼吸は平常なものへと戻って行った。
「碧ちゃんっ、大丈夫?気持ち悪くない?病院行く?」
「は、はぃ。一応は、なんとか・・・」
碧は頭を振って強く否定した。
正直気分は最悪だが病院だけは勘弁であった。事情が事情であるために、最悪身元不明の孤児と扱われかねないからだ。
「あと、すこし・・・、少ししたら、治ります」
「本当に?それなら、いいけど」
楓はそれが強がりなのか疑うが、確かにここに来るだけでかなり良くなった感じはある。そして碧自身も強がりではなく本当の事であった。そして、少し落ち着いたら碧は心配する楓に話し始めた。
「ちょっとだけ、人が多くてびっくりしちゃいました」
「人が?」
楓は首を傾げた。人混みに酔うと言うやつだろうか?けれどもそんなに人が多い訳では無い。ならば、これは碧の抱える問題についてなのだろうかと推論を立てながら話を聞く。
「ボク、前にこの近くまで来たことがあって、その時、いっぱいの人に囲まれて、見られたり、それが頭の中から離れなくて」
碧は時折怯えながら、思い出しながら話していく。先程の影響か、語る途中で何度か息を切らしながら言う。
「それで怖くなっちゃって・・・あと、それにあの時、みんなから笑われて。それでもう訳が分からなくなって、この髪がいけないんじゃないかって、楓さんに黒くしてもらったり、なるべく人の顔を見ないようにしてたけど・・・でもそれが逆にみんながどんな顔してるんだろうって、想像するともっと恐ろしくて」
トラウマ、と言うやつか。
楓は目を涙を滲ませる碧の頭を撫で、胸に抱き寄せた。
「そっか・・・、そうよね・・・」
今日の男からの視線を思い返せばそれも頷ける。最近は特にパパ活だなんだと小さい子でも狙われるご時世だけに、その矛先が碧に向かう事だけは避けなければと楓は誓う。
そしてこの後どうしようかしらと、路地から見える小さな空をみさ眺めていると、ふと疑問が湧いてきた。
「でもあれ・・・。
碧ちゃん、ちょっといいかしら?」
「はぇ、なに?」
碧がきょとんとした顔で楓を見上げる。
「ねぇ、碧ちゃん?」
「・・・?」
「1つ聞きたいんだけど、碧ちゃんさっき人に笑われたって言ってたけど、それって本当なの?」
「う、うん。みんなボクを見て、変だからって笑ってた。
こうして変なところ楓に直してもらったけど、それでも怖くて・・・」
碧は顔に影を落としながら言う。
しかし楓はそこに合点がいかなかった。
抱いていた碧を身から離し、体を逸らして距離を置いて碧を見る。
「それ、本当に笑われてたの?」
「え?う、・・・うん」
自信なさげに碧が答える。楓にあまり良くない事を言われるのだと思っているのだ。しかしそれは勘違いであり、それを否定する言葉を楓は続けた。
「考えたんだけど、どうしても碧ちゃんを笑うってのが理解出来ないのよね」
「う、うぅ・・・、ん?」
思っていたのと違い、碧が間の抜けた表情をした。
「その時の状況は知らないけど、今日見た限りそのような人いなかったわ。むしろーー」
楓が何かを言いかけた。その時のことである。
「ままーーっ!」
そんな高く響く声が路地裏に響いた。
悲鳴に近いそれが鳴った方向を見ると、大通りへと目を向けると、下を俯き目を擦る幼い女の子を見つけた。
歳は計れないが多分小学低学年と言ったところだろう。
そんな女の子が母親を呼びながら泣いている姿に、直ぐに迷子になったのは想像がついた。
すぐそこにデパートがあるからそこではぐれたのだろうか。
楓は其の姿を確認すると、本能的な速さで動き出した。しかし今回は立ち上がっただけだった。なぜなら碧と手が繋がれたままであったためだったからだ。
「あいちゃん・・・?」
怯えた顔で楓を見上げる碧にハッとさせられる。
そこで改めて迷子の女の子を見てみると完全に周りの視線を集めていたのだ。やっと落ち着けた碧にとっては少し酷であるかと、一先ずこちらを優先して落ち着かせようと考える。
「あいちゃん、ちょっとごめんね。
私行ってくるからここで待っててね?」
「かえでさん・・・」
今の碧を1人にすることに若干の不安はあるが、ここからも見える距離なので大丈夫だと判断したのだ。
そこで優しく碧と繋がれた手を解いていく。碧もそれは仕方がない事だと理解しているので、抵抗もなく解かれた。
「ごめん、なさい、ぼく・・・」
「ううん、大丈夫よ。
だからちょっとだけ待っててね?」
自責の念に囚われている碧に気にする事はないと頭を一撫でしてから未だに泣いている女の子の方に向かっていく。
碧はその姿を見て自身との差に自己嫌悪した。どうしたらあのように強くなれるのだろうか。
楓はすぐさま女の子の所へ向かうと、中腰にし話しかけている様子である。
そして碧にしたように頭を撫で安心させていた。
その姿に強い憧れを持ちながらも、周りからの視線が集まるあの場へと行くのがどうしても怖くてたまらない。震えた足に力が入らず立てそうになかったのだ。
そんな自分自身が嫌で仕方がない。
何でこんなになっちゃったんだろう。膝を抱え楓を待っていると、楓と目が合った。
「へ?」
そしてその視線の先に気になった女の子も碧の方をむく。
「え?」
困惑しっぱなしの碧があたふたしても現状は変わらず、終いには楓が女の子の手を引いてこちらに向かってくるではないか。
碧は慌てふためきながら楓と女の子を出迎えた。
「碧ちゃんおまたせ。
やっぱりこの子お母さんとはぐれちゃったらしいのよ。そうなのよね?」
「うんっ」
泣き腫らし鼻をたまにすすることはあっても、返事も明瞭に答える女の子。相当楓に気を許しているように見えた。
碧はそれに対して持ち前の人見知りを発動させる。
「え、あっ、そ、そうだったんだ・・・」
碧はもう逃げ出したい気持ちに駆られた。
知らない人は子供が相手であっても苦手なのだ。寧ろ子供の方が何を話していいのか、怖がらせない話し方に意識しなければならず何て言っていいか分からない。
「それじゃあ自己紹介をしましょうか?
こっちの可愛いお姉ちゃんは碧ちゃんっていうのよ。
それでこの子は小春ちゃんっていうらしいわ」
「はいっ。小春っていいます、7歳です!」
「あ、えっと・・・お願い、します」
碧はぺこりと頭を下げた。
しかしその後に言葉が続かず、キョロキョロと楓の方を見る。
しかし楓が話を促す前に、小春という女の子は迷子で泣いていたことなど忘れ、碧という新しい興味へと移り変っていた。
「あいおねーちゃん、すっごくかわいい!
なんで目があおいの?宝石みたいでキラキラしてる!」
「えっ、えぇ!?」
距離の詰め方がおかしい。
目を覗き込むように顔を近づけてくるものだから、仰け反って身を離す。
しかしそれで終わるほど子供の無邪気さは留まるはずがなく、何で何でと碧に質問を投げかけ続けた。
いい機会かと碧と女の子を引合せて見たものの、さすがに可哀想かと楓は仲裁にはいる。
「小春ちゃんはオシャレに興味あるのね〜。
もしかしてデパートにお母さんと服を買いに来たのかな?」
楓がそう問いかけると、春はみを起こして威勢よく答えた。
「うんっ、そうなの!
だけどお母さん、いなくなっちゃって・・・、それで先に帰っちゃったのかなって、でんしゃのとこに行ってもいなくて・・・」
途中でトーンダウンしていく言葉に、今の状況を思い出してしまったようである。
しかしその言葉を聞いて合点がいったのと共に恐ろしさも覚える。
きっとデパートの館内にいれば迷子の放送を繰り返していただろう。しかしこうして出てしまえばなかなか保護してくれる人も少ない。
子供の突飛な行動はよめないなと改めて実感し、困っているであろう母親に何としても早くに知らせたいと感じる。
「そっか・・・、それじゃあお母さんも心配してるから戻らなくちゃだね?」
「うん・・・お母さんに会いたい」
涙ぐみながら、力強く答える小春。その姿に碧は感銘を受ける。こんな小さな子も頑張ってるのに、碧はこの路地裏からすら出れずにいるのだ。それはあまりに情けない。
それに、これでもプライドは持っているのだ。小学生の女の子の前でいい兄?姉?を見せたい為にちっぽけな勇気を奮い立たす。
今にもグズり始めるんじゃないかという小春に碧はおずおずと指を伸ばす。そしてちょんと頭へ乗せるだけのように触れると優しく撫でた。
小春は急な出来事にキョトンとしていたが悪い気はしないのか落ち着いている。
「小春ちゃんは、えらいね・・・えらい」
碧は本心からの言葉を伝えた。
こんな所で一人で、碧ならそんなに強くいられなかっただろう。こんな小さな子供に勇気づけられるなんて。
「ボクたちが、小春ちゃんをお母さんのところに連れてくから、だからそれまで頑張って、ね?」
「うんっ!ありがとうおねーちゃん!」
小春はそう言うと碧に抱きついた。
「わっ!」
ジャンプして碧の肩に手を回しぶら下がる。
力のない碧はそれを支えることが出来ず前かがみになってしまうが、小春は離れる様子がないので苦笑いしながらも頭を撫でた。
「碧ちゃん・・・」
そしてその姿を見て感動していたのが楓であった。碧の言葉はデパートに共に行きお母さんを探す内容であり、閉じこもっているだけだった碧からは考えられない言葉だったからだ。
小春の頭を碧が撫でているが、その姿につい涙ぐん出しまい更にその上から碧の頭を撫でる撫で撫でスパイラルへ陥っていた。
頼れる年上ムーブをしたい碧にとって複雑な気持ちになりつつも心地いいのは確かなのでそれを享受するのであった。
☆
撫で撫での幸せ空間の後、碧たちは三姉妹のような凸凹ぐあいでデパートへと向かった。
楓が碧の手を引き碧が小春の手を引きながら身を寄せあって進む姿は姉妹というよりまるでカルガモの親子のようである。
あの後背格好などが比較的近いことにシンパシーを感じたのか、友達のように仲良くなったためこのような並びとなったのだった。
しかしその可愛らしい大行進は否応にも目を引いた。しかし左に引率者、右には保護対象者とその板挟みとなり仲介する役に徹していたたま幾分か気も紛れていたのであった。
そうして目と鼻の先にあったデパートに着くと、自動ドアが開き心地い風が碧立ちを出迎える。
エアコン・・・文明の利器とはかくも素晴らしい。
碧はやっとゴールに着いたのだと感慨に浸る。
「よし、それじゃあ早速お母さん見つけましょうか?」
楓のその言葉で碧は本来の目的を思い出した。
そう言えばまだ始まってもいないことに。
げんなりしながら碧たちは案内板へと向かう。
インフォメーションセンターを探すためである。
そうして楓が探している間に、碧と小春はフードコーナーの案内を見てあれが美味しそうだこれが食べたいだと何気ない会話をしていた。
そしてレストランでお子様ランチを食べたいと語っていた。聞けば付いくる世界各国の旗を集めているのだという。
そういう物を食べた事のない碧にとって新鮮で大人ながらにお子様ランチというものに興味が湧いてしまった。
そんなこんなで2人してお腹を空かせていると、「見つけたわ」という楓の言葉で二人の会話はそこで終わる。
小春は「どこっ!どこっ!」とぴょんぴょんしながら楓へ聞くと、指をさしてこの通路上にあることを伝えた。
そして碧たちは3人手を繋ぎながらそこへ向かうとすぐであった。
慌ただしくインカムに向かって話しかけるスタッフの女性がいることに気がついた。
そしてそこ近くには落ち着きのない女性が1人。
「まま!」
小春はその姿を視界に入れると走り出した。
女性はその声にいち早く反応すると、こちらを向き応える。
「小春!」
2人は互いに歩み寄ると小春は女性の胸に飛び込んだ。間違いなく小春の母親なのだろう。2人は感動の再会を果たしたようである。
その時の小春の笑顔はとても微笑ましく、碧は思わず笑顔が綻んだ。
「ねえ、碧ちゃん」
「なあに?」
そんな光景を見ながら楓は碧に問いかける。
「小春ちゃん、頑張ったね。可愛くて、見てると笑顔になってこない?」
「え?」
碧はそう言われて改めて自分が二人を見て笑顔を作っていることに気がついた。笑顔と言うか、微笑ましい表情を。
「碧ちゃん。頑張ってる人だったり、可愛い子を見てると人って笑顔になるんだよ?」
「うん、・・・そうかも?」
それには納得できたが、中々話が見えてこずに首を傾げる碧。楓は未だに分かっていないようなので答え合わせをするように碧に説いた。
「さっき言おうとしてた事、まさにこれだと思うの」
「さっき・・・?」
「そう、さっき。碧ちゃんが笑われたって言ってたこと」
そう言わてやっと話が繋がった。自己評価が頗る悪い碧にはなかなか気がつけない事ではあったので、いまいち飲み込めてはいないが楓の言うことは見えてきた。
しかし腑に落ちないことも沢山ある。
今の自分が世間一般的に可愛いと言われる部類の容姿をしていることは認めるが、だからと言ってそれだけで今碧が小春立ちに抱いている感情にはならないのではないかと。
だがその事にも楓は答えを用意しているみたいで、その時の周りの気持ちになりながら碧に説明する。
「それはね、多分碧ちゃんの場合は・・・、子供のお使いとでも思ったのではないかしら?」
その時の碧はいつもより不安げで小さく見えてもおかしくない。楓はそういうが、碧はまだまだ疑問に残ることはある。
「・・・で、でもっ、それだけじゃないよ?ボク、写真もとられた。変だから、見世物にしようとしたんだと思うっ」
そう、碧のトラウマはそれだけではないのだ。
「そんな人がいたの?」
「うん。ずっと後ついてきた」
「それは警察に行った方がいいわね。
多分碧ちゃんが可愛かったから、その人はよからぬ事を考えたのよ。今日だって、微笑ましく見る人もいれば下心のある下品な目で見てたヤツもいたわ。
碧ちゃんの言うようなことを思ってる人はいないと思うけど、世の中色んな人がいるがらそこは気をつけないとね」
そんなことが、あるのか・・・。
碧はなかなか信じられず呆けてしまう。
一種の強迫症のような思考になっているため、碧では考えてもみなかった考察である。
「だからね、碧ちゃん。
人をみんな信じるのは良くないけど、だけど碧ちゃんが思っている以上にはみんな優しさで溢れているものよ」
「・・・で、でもーー」
「そうなのっ」
「ーーわぷっ!?」
碧はまたも楓の胸に取り込まれた。しかも今回はかなり強く抱かれているようで、豊満な胸が顔を圧迫する形になってしまう。
しかし碧が直ぐダメな方へダメな方へ考えが寄ってしまうから、強行突破しようしたのだ。
「んっ、んんんぅ!うん、ぐぅんんー!」
碧は胸元で何かを訴えている。だが最初の目的とはズレ、楓の中で湧いた悪戯心で直ぐには離さずこの体制を続ける。
まるで先程我慢した母性が時限式に爆発したようであった。
そうして小春達と碧達と2つのグループが各々抱き合う不思議空間が生まれるのであった。




