女の子になると言うこと
蓮と猫のコスプレをした日から次の日。
碧は朝食後浮き足立つ心を鎮めるように大掃除をしていた。
そして一段落着いてから額を拭い、時計を見る。すると時刻は9時を過ぎており、予定の10時もう少しという時間になってた。
あぁ、緊張してきた。
朝食べたパンが逆流しそう。
しかし時間は無情にすぎていく。そして過ぎればお客さんが来るのだ。未だ慣れぬ相手。そう、碧の第二の友達、楓である。
蓮の幼馴染という事で知り合った楓であるが、凛とした強さと美しさをかね持つ彼女。本来関わりが持てるはずもない高嶺の花のはずが運命とはどう転がるとも分からず友達という関係になっているのだ。
しかし恐れ多いことは事実なのでどうも接し方が分からないのである。
緊張するなぁ。
会いたいと言われたが、どんな用事があるのだろうか?そんな疑問と不安でナイーブになっていると10時になる前にピンポーンとドアチャイムが鳴った。
時間的に鳴らしたのは楓だろう。
碧は念の為服の乱れや髪を整え慎重にドアを開く。するとやはりそこに居たのは楓であった。碧が顔を出すなり微笑みそして軽くてを振った。
「おはよう、碧ちゃん」
「お、おはっ、おはようございますっ」
緊張からか吃ってしまった。
どうにもコミュニケーション能力が欠如しているからか、会話の最初はつっかえてしまう。吃音とは違うが、コミュ障特有の習性である。
「えっと、まずは、その・・・お上がりください」
「ありがとう、碧ちゃん。それじゃあお邪魔するわね」
ドアを大きく開き楓をもてなす。
楓はお礼をしつつ、「あとこれつまらない物だけど」と紙袋を手渡された。
中身を覗くとそこにはオシャレなお菓子であった。
こ、これは菓子折りと言うやつだろうか?結構高そうだけど、これホントに貰っちゃっていいものなの?
碧がお菓子を見て楓を見てをしている間に、まさか手土産を貰っていいものかと悩んでいるとは露知らずそのまま玄関で靴を脱ぎ、居間へ向かう楓。碧は置いてけぼりにされながら、念の為にお菓子を慎重に運びながら後を追った。
楓は数回はこの家に来ているので、勝手知ったる風に椅子へと腰掛けた。
ボクは案内はいらないのだと知ると、急いで急須にお茶を入れる。
それから何かつまめるものを・・・、そう考え、多分ボクにくれたであろう菓子折りを覗く。すると中には高そうなカステラが入っていた。
・・・予定変更。
お茶っ葉はまた次の機会に使うとして、いつの日か買ったっきりになっていただろう紅茶のティーパックを探した。そしてしっかりと賞味期限を確認した後カップへと沈める。
勿論先に作るのは楓用のもので、次に出涸らしを碧がいただく。
それならお菓子とお茶をお盆に乗せると楓へと持っていく。
「あのっ、カステラ、ありがとうござます。それと楓さんも一緒に、これ・・・」
「あら、これは碧ちゃんにあげたものだから私はいいのに」
楓はそう言いながらも、固辞しても仕方がないので有難くいただくことにした。
まずはお茶を飲み、そしてフォークでカステラの端を切り取ると口へ運ぶ。
ボクもそれを見ながらどんな物かと舌鼓する。
「っ・・・おいしい」
考えるよりも先に感想がこぼれた。
目をぱちくりさせ、間違いで無いことを確認するべくもう一度食べる。すると甘すぎずそれでいて奥深い味わい。もう外装からして高価なものだと分かっていたがこれで確信した。
楓は分かりやすいボクの反応にクスッと笑みを見せながら「でしょ?」と賛同した。
「これ数量限定でなかなか手に入らないのよ。私はちょっとしたつてで手に入りやすいから食べ慣れてるけど、他所の家に持ってくとすごく喜ばれるのよ」
数量限定が手に入るつて?よく分からないが手に入りずらいのは納得だ。
だってすごく美味しいもん。現にボクの手は止まらない。
パクパクパク、ズズー
がむしゃらに食べて、口がかわいたら紅茶で湿らせ甘くなりすぎた口をリセット。そして再度食べる。
なんだかお菓子とかグルメとか、そういうの興味なかったけどハマりそう。
「そんなに喜んでくれるなんて持ってきたかいがあったわ」
「はいっ、ありがとう、ございます」
最初は楓が来るということで大慌てであったが、このカステラだけで会いに来てくれたこの日が良いものとなった。現金で都合のいい奴であるが美味しものには弱い碧であった
碧はぺこりと頭を下げ、それからまたカステラへとフォークを入れた。
楓はその様子を見てお茶を啜ると息を着く。
そして手を机に置いてから真剣な顔を作った。
「ところで・・・、話は変わるんだけどね、碧ちゃん」
「むぐ?」
カステラをもきゅもきゅと口に運びながら首を傾げると、楓は意を決して話し始める。
「碧ちゃんは今、どんな下着を受けているのかしら?」
「ぼふぅっ!?」
カステラのパサパサした小片が口から舞った。
はいっ!?え、なに?下着っ!?
飛んだカステラを地味に避けながら、気まずそうに楓が続けた。
「下はね、分からないけれど。少なくとも上は付けてない・・・わよね?」
上ってもしかして・・・。
ボクは楓の視線を辿りながら一緒に上、つまりは胸の部位を見る。
そこにはシャツ1枚ごしにも少しはわかるふくよかな膨らみ。その下着といえば、つまりはブラジャーである。
それを付けてるか付けていないか?
何故それを楓が気にするのだろうか。これはなんだろう、下の話がしたいてきな?そういうことに鈍い碧はなんて言っていいか分からず質問で返した。
「ど、どうして急に?」
「そのね、碧ちゃん。今回こうして時間を作ってもらった理由でもあるのけれどね、落ち着いて聞いて欲しいことがあるの」
「は、はぁ」
どこか胡乱な言い回し。
「多分、碧ちゃんはどう認識してるか分からないけど、碧ちゃんが思っているよりずっとね、その・・・碧ちゃんの胸には女性らしさが出ていると思うのよ」
「??」
思わず胸を再度確認してしまった。
まぁ、小さいとはいえ男の時とは完全に別物になっているのは分かっている。それに気づかないほど馬鹿じゃない。
「だからね、私としては下着をしないまま薄いシャツ1枚というのは、ちょっとオススメしないかな」
「・・・ああ」
すごい時差があったがようやく気がつく。
なるほど。なるほど・・・。
「ちなみに聞くけど、碧ちゃんブラって持ってる?スポブラとかでもいいわ」
「も、もってないです」
そういうことには全く気にしてなかったが、そっか、確かにそういう配慮は至らなかった。
正直ノーブラでも支障はなかったためどうでといいやとか思っていた。形とか、間が悪ければ透けるかもしれなのか。でも碧はずっと家にいるし、今でもどっちでもいいかなって思ってたりする。
だがこうして改めて指摘されるとどうも意識してしまう。
男の体だったとしても透けてるなんて言われれば少しは意識するだろう。それと同じである。
「そうなの?
でもお母さんとか、知り合いとかそういう話にならないかしら?」
「ボク、お母さんもういなくて。それに友達も・・・」
「ーーえっ、その、ごめんなさい」
楓は目を見開き短い驚きの声をあげた後、直ぐに謝った。しかしボクは手を振って軽く笑う。
「いえ、大丈夫です。お母さんの顔も見た事ないので、ボク全然気にしてないです。それに友達も今はれんも楓さんもいるし」
「そう・・・でもそれでもごめんなさい。
その代わりと言っては何だけど、その分私が色々と教えるわ」
「楓さん・・・」
ボクは感極まり声が震えた。
友人として接してくれるだけでも、碧にとっては嬉しいのに、それなのにここまで良くしてくれるなんて。
決して涙ぐんでしまうのも仕方がないことであった。
「あっ、それにあの事も色々教えなきゃね」
「ーーえ?あの事?」
「ええ。これよ」
そう言って楓が取りだしたのはビニール袋。それを机にお気中身を取り出すと、そこには・・・ナプキン?
「れんから少し聞いたけど、初めてで悩んでるって聞いたわ。
その様子だと女の子の日の事も最低限な事しか蓮から教わってないでしょうし、その対処も分からなそうだから教えるわ」
「は、はい」
確かにあの日は訳分からないことだらけで怖かった。だから教えてくれらのならば素直に嬉しい。
蓮から教えてもらうにも限界はあるし。
「それとこれも教えるわ」
ドサッ
次に楓が取り出したるは紙袋・・・って、大きいな、どこからそんなに取りだしたんだろう。こんなに荷物持ってきてるなんて気づかなかった。
「これは私のお古で申し訳ないけれど、小さい頃に来ていた服よ」
ん?ふく?
チラッと中をのそ覗けば確かに可愛らしい服が見えた。しかし小さい時のって・・・、果たして何歳ぐらいのものが気になったが聞かないことにした。流石の碧でも少しは気にしているのだ。男の時でも、女の子になった今でも。
「碧ちゃん、見た限り服あまり持ってないでしょ?女の子なんだから、それも教えていくわ。
まぁそれは持ってきたものだけだと限りはあるし、今から買い物に行くのだからその時にでもじっくりとね」
「はぁ・・・・・・・・・はい?」
いま、なんて言った?
「か、買い物?えーっと・・・あっ、この後楓さんが買い物に?」
「え?まぁこの後行くつもりよ、私と言うより、私達だけど」
「?」
私じゃなくて私達?なぜ複数形。
ボクは楓の真意を考え、ひとつの仮説を立てた。
「・・・・・・ああっ、なるほど。これから友達と会うってこと?」
そして次は楓がボクの言葉に楓は眉を寄せた。
「これから会うと言うより、もう会ってるのだけど?」
「んん?」
どういう事だ。




