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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
最終章 雪の降る街―活動編―
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第二六三話 記憶の返還

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)


「すいません。先生の話聞いたら、ちょっと……」


 後悔を吐き出した俺は、もう大丈夫ですと凪さんにお礼を言う。本当だろうかと気遣わしげに見つめられて、本当に大丈夫ですと両手を振った。そこでようやく、凪さんは微笑を浮かべる。


「あのころ……隆はよく言ってたよ。未来を殺したのは俺なんだ、って」


 久しぶりに、隆と呼ばれた。りゅーちゃんよりも、隆と呼ばれるほうが以前は多かった。


「未来を未来でなくしてしまったのは俺なんだって、心の健康を損ないながら自分を責めていた」


「……覚えてません」


「当然だよ。僕が消しちゃったからね」


 泣かないよう力を入れていた瞼を元に戻して、その言葉の意味を考える。


「【デリート】……ですか」

「そうだよ」


 まさか、と思い出すことがある。去年のいまごろ、俺が無意識に秀に言ったあの言葉。


 ――生きてくれ秀。もう、これ以上……これ以上大事なやつが死んでいくのは、もう見たくないんだ!!


 俺は口を手で覆う。思い当たる節があると気づかれたのか、凪さんは苦い顔をした。


「そうでもしないと、お前まで壊れてしまいそうで怖かったんだ。あとから混乱させるとわかってたけど、それでもいま考えさせる必要はない。悔いは悔いとして、きちんと受け入れられるようになるまで預かっておこうと思った」


 凪さんは俺のおでこに指を添える。じわりと温かくなってきて、同時にあのころの後悔と激しい感情を思い出す。


「大丈夫だよ」


 あのときの俺に寄り添うように、凪さんは優しい声で諭してくれる。


「お前は誰も失ってない。誰も死んでない。お前はただ、自分を許せなかっただけだ」


 同じ間違いをしないよう覚えておいて、背負う必要のない責任は捨ててしまいなさい。そう言って俺から指を離した凪さんは、困ったように笑った。


「記憶なんて、簡単にいじるものじゃないね」

「なにを今更」

「ほんと、今更だ。反省します」


 お互い情けない顔を見せ合って、同時に笑った。

 凪さんは静かに缶コーヒーを飲み切った。口から離してぼんやりと天井を見上げる。俺もリンゴジュースを喉を鳴らして飲んでいく。中身を空にしてから凪さんに顔を向けた。


「あの……先生のことですけど」

「うん」

「【()る】があんまり効かないなら、先生には宿にいてもらうって方法も……」


 無理させなくてもいいんじゃないかと遠慮がちに言うと、凪さんは首を横に振った。


「あの人が嫌がるんだ。自分の力が通じないとわかっていても、なにもしないで待ってることがあの人にはできない。そうやって逃げてしまえば、僕と同じようにキューブに嫌われるかもしれないからね」


 凪さんは決して見せようとはしない。だけど、今日もかなりの『拷問』を臨世にしていたから、凪さんのキューブの変色は進んでいるはずだ。


「ごめん。解決策はなにもないんだけど、伝えておかなくちゃと思って」

「いえ。ありがとうございます」


 備え付けられた回収ボックスに飲み切った二つの缶を入れ、俺と凪さんは部屋に戻る。扉越しに口論が聞こえてきた。



「ちょっと……どうしたの」


 凪さんが扉を開けて声をかけると、全員急に黙った。静かになった空間で、未来が国生先生となにかを取り合っているような光景が目に入った。取り成すように、ユキさんと結衣博士が国生先生を、流星さんとマユが未来の腕を掴んで引き離そうとしている。

 未来と国生先生の手の間から、銀に近い色の光が漏れている。未来が国生先生のキューブを奪おうとしていた。


「……あいかさんが、明日危ないことするつもりだから。そんなことできないよう、あねさんがあいかさんのキューブを取ろうとした」


 まだしゅんとしている紫音が、同じくしゅんとしていたリイと一緒に状況を説明してくれた。【()る】を跳ね除けるスキルがあっても、きっとこの方法なら避けられないはずだから。これなら、未来が臨世に会わなくても情報の全てを回収できる、と。


「そんな方法……ほんとに」

「あるんだよ、隆君」


 先生と未来の手を離させて、中立の立場としてユキさんは先生からキューブを預かった。二人が冷静になったら返します、と約束して。


「全員座れ。みかんでも食べながら話そう」

【第二六三回 豆知識の彼女】

あねさんと呼ばれることに未来は実は戸惑っている


紫音は未来のことをずっとあねさんと呼んでいますが、未来は内心なんでだろうと思っております。

紫音からすると、尊敬する隊長(凪)がとっても大事にしてる人だから、変なあだ名つけちゃダメだなぁとか考えていたり。かといって未来さんはなんか違うなあ、未来ちゃんは馴れ馴れしいなあ、お姉さんにしたいけど本当のお姉ちゃんじゃないしなあ……なんていっぱい考えた結果でした。気をつかわなくていい隆はすぐにイチで決定したそうです。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 リスキーな提案》

あいかが考える、情報を確実に得られる方法と危険。死人がいないはずの日中、襲われて死者が出る本当の理由。

どうぞよろしくお願いいたします。

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