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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
最終章 雪の降る街―活動編―
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第二五九話 死人化した理由

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)


「……臨世は」


 神妙な顔で言って、いや、と隆は首を振った。


直樹(なおき)は、さ。なんで、未来に手を上げたんだろうな」


熱線(ねっせん)】バージョンの【不知火(しらぬい)】を微調整しながら、隆は続ける。


「当時はさ、未来にされたことが憎くて、悔しくて……なんも考えられなかった。でもいざ自分も死人化してみるとさ。意外と、前向きな要素でもそうなってしまう場合もあるんだよなと思って」


 隆は私に顔を向ける。その顔があまりにも申しわけなさそうだったから、私は微笑んでみせた。


「隆の死人化した理由、嬉しかったよ」

「……そりゃ、どうも」


 隆は後頭部に手を当てる。わかりやすい照れ隠しだった。


「直君が死人化した理由は……私もわからないんだよね」

「未来もわかんねぇか」

「うん。でも、あのときの直君は……なにか、怖がっていたように思う」


 当時のことを考えると、頭に霧がかかったようによくわからなくなる。怖がった私のために凪が施してくれた【デリート】によって、あの日のほとんどが思い出せない。集中して引き出そうとしても、それらは虫食いになって繋がりを持ってくれない。


「私のなにかを見て……引き攣った顔してた」


 なにを見たんだろう。私のなにを怖がったんだろう。

 綺麗だと言ってくれた青い瞳が急に怖くなったんだろうか。

 私の言動が普通の人とは違ったんだろうか。

 それとも、隆が東京に引っ越したことによって、私が思う以上に私は荒れていたんだろうか。私の中で、隆の存在は大きすぎる。近くにいなくなって、気持ちが(すさ)んでいたのは覚えがある。


「繋がった」


 隆の真剣な声に、私は思考をストップした。隆にしか見えないし聞こえない【不知火(しらぬい)】の糸を、さっきまで隆が触っていた部分をなんとなくで掴み、自分の耳に近づける。隆が、あっと声を出す。ちゃんと掴めたらしい。


「おい……」

「私にも聞かせて」


 隆は戸惑った表情をする。


「いや、でも……」

「私も聞く。私も、きちんと向き合う」


 自分の手がかすかに震えているのがわかる。こちらが聞いていると向こうはわからないとはいえ、ずっと避けてきた人物との接点に、怖いという感覚をなくすことはできない。けれど、


「逃げないって誓った。私のために動いてくれる人たちの負担を、私も一緒に背負いたい。だから、お願いします」


 ダメだと言われても絶対退かないと伝えるべく、私は隆の目をじっと見た。頬の傷跡に視線を奪われそうになりながら、動かずにいることしばらく。糸からなにかが聞こえてきて、隆がぴくっと反応する。会話が始まっているらしいけど、私が持っている糸にはゴニョゴニョとした雑音しか聞こえてこない。


 隆は聞こえてくる音の波にしばらく集中していた。ゴニョゴニョが小さくなってきた時点で糸を一旦膝の上に置く。一つ約束しろ、と前置きをされた。


「無理して聞こうとするな。未来が聞かなくても、俺がちゃんと聞いてるし見てる。だから、しんどいと思ったら迷わず手を離せ」


 私が頷くのを見てから、隆は私の持つ糸に触れた。調整するように指と指を合わせて擦る。不協和音がきちんと声に変わった。

 凪の声、あいか先生の声。結衣博士と、少し久しぶりな気がする(みなと)さんの声。そこに、もっと久しぶりな――もうずっと思い出さないようにしていた彼の声が、高らかな笑いと悲鳴を交互に響かせていた。

【第二五九回 豆知識の彼女】

死人化した理由は二人とも知らない


まだ話には出ていませんが、死人になる原因である意思が何だったかは知っています。ただその意思を捨てるに至った理由がわからない、といった状況。態度が急に変わってしまったことだけが未来の頭の中でなんとなく残っています。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 同情》

隆視点に移ります。

不知火(しらぬい)】を通して臨世の前へ。

どうぞよろしくお願いいたします。

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