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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
最終章 雪の降る街―活動編―
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第二五八話 改良版【不知火】

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)


 雪翔(ゆきと)さんの部屋に置いてあるテレビから、朝のニュースが流れていた。六月五日、金曜日。天気は、雪。


『異常気象が続く端段市(たんだんし)では、今日から明日にかけて、さらに荒れる見込みとなっています――』


 大雪を背景に、アナウンサーは髪を風に乱されながら伝えてくれた。死人(しびと)が生息する端段市でも、こうして身体を張って現場の様子を伝える人がいるのだと思うと、なんとも言えない気持ちになる。殲滅は難しくても、昨日のうちに数を減らしてくれて良かったと思う。


「ねぇ、本当にやるの? バレたらやばいよ?」


 せっせと用意をしている(りゅう)に、私はあまり気乗りしないふうを装って言った。


 (なぎ)とあいか先生、結衣(ゆい)博士が(なお)君のところへ向かうのを見送ったあと、隆は雪翔さんに部屋を借りてもいいかと尋ねた。【不知火(しらぬい)】を使いたいとは言えずに用途は伝えなかったけど、雪翔さんは快く了承してくれた。


 護衛の必要を確認され、部屋の鍵を受け取りながら『今日も大丈夫な日だと思います』と断った隆。昨日と同じ、『大丈夫』。

 深く追求することなく頷いた雪翔さんに代わり、(せい)ちゃんがまた『イチャラブすんなよ』と忠告してくるので慌てて首を縦に振った。


 宿の外には出ないことと、部屋から移動する際は連絡することを星ちゃんに義務づけられ、約束してから移動した。

 現在私は、隆と二人きりであの部屋にいる。


「よくないってことは、俺も自覚してるよ」


 隆は作業の手を止めようとしない。携帯の地図アプリから端段市博物館の場所と大きさを確認して、見えない『糸』を作り出している。『糸』は博物館地下にいる直君のところまで繋がっているそうだ。


「けどやっぱ、待ってらんねぇんだ。昨日は先生の手前ゆったり構えてたけど、情報はできるだけ早く欲しい。そんでもし俺が知ってもらいたい話に近づいたら、どうにか教えて掘り下げてほしい。『当日』のことをみんなにも伝えられたら事前に対策だって……」


 理想を口にしてから、隆はああ、と呟いた。


「『どうにか教える』ができねぇから、こんなのしても意味ないか」


 まじないに阻まれることを視野に入れていなかったらしい。自分の行為に理由を見いだせなくなった隆に、私は苦笑した。


「凪たちにとっては大した話じゃなくても、隆が聞いたらピンとくる話はあるかもしれないよ」


 結衣博士が記録してくれるはずだけど、これからのことを知っている隆だからこそわかる話もある。伝えられなくても、隆の中で情報がアップデートされるのはいいことかもしれない。そういった話をしどろもどろに伝えると、今度は隆から笑われた。


「【不知火(しらぬい)】やめろって言わないし。なんだかんだでお前も知りたいんだろ」


 見透かされて、さっと視線を逸らした。


「けど、見るのも聞くのも俺だけでやるから」


 期待させておいて、ぽいっと放り投げられたような気がした。納得いかない表情を隆に向ける。心配と後ろめたさが入り交じった微笑みを返された。


「怖い思いさせたくないんだ。臨世(りんぜ)はもう普通に起きて、話して、動いてる。見ないほうがいい」


 嫌なことを思い出させるのは避けるべき、という考えらしく、隆は「俺が必要だと思ったらその都度伝えるから」と話を切り上げる。

 私には見えない『糸』を指で触って確認して、よし、と頷いた。


「これならたぶん、気づかれないはずだ」


 私もその辺りを触ってみるけど、そこにはなにもない。温度も感じない。


「全然わからない」

「だろ?」

「うん。【不知火(しらぬい)】って言っても前に使ったのとは全然違うね。もっと火の玉っぽかったのに」


 私が知ってる隆の【不知火(しらぬい)】は、炎を二つ作り出して、相手と自分のところに置いて透視、盗聴ができる技だった。小さい炎を作る必要があるから、見つからないよう工夫しないといけなかったけど。


「今回はな、【熱線(ねっせん)】に【不知火(しらぬい)】の要素を加えてるんだ」


 隆は一本、私にも見えるサイズの灼熱の金属線を作る。それを徐々に細くして、肉眼では見えないほどになる。


「この時点で透視、盗聴の炎を上から被せる。そんでまた細くする」


 数秒見えていた小さな火の玉が見えなくなる。またなにもない空間になった。


「【大賢(たいけん)(やり)】あるだろ。【ほのお(やり)】に【回禄(かいろく)】を纏わせて作った攻防一体の武器。理屈はあれと同じ。もとになる技に別の要素を組み合わせて、ちょっと便利にしたのが今回の【不知火(しらぬい)】かな」


熱線(ねっせん)】を極限まで細くすることで、相手には見えないけど、使用者の隆にはその場が見える、聞こえる。一定以上の圧力が加わると蜘蛛の糸みたいに簡単にちぎれるからそこになにかがあると気づきにくい。それと、微弱ながら攻撃までできる代物らしい。


 隆は北海道に来てから、炎のキューブを攻撃重視からテクニカルな方面にシフトし始めている。技を組み合わせるという思考と実現が、私たちマダーにとってどれだけ難しいものであるか。その難易度を本人は全くわかっていないようだった。


「でも私、昨日変だなって思ったよ? 触ったとき静電気みたいな妙な感じが……」


 言って、いま自分で触ってもなにも感じなかったことを思い出した。そうそう、と隆は笑う。


「さすがに炎の温度が下がるイメージはまだ俺にはなくて、どうしても刺激が消せなくてさ。そこは(しゅう)に協力してもらった」


「え、ちょっと、巻き込んだの!?」


「あいつも同じこと言ってた。『普通僕を巻き込む?』って。その割には楽しそうだったけど」


 真面目なフリして全然真面目じゃねぇ、と苦笑しながら隆は説明した。

 最近隆と秀で考えていたコンビ技、【熱願冷諦(ねつがんれいてい)】。これまではお互いの色がキューブに差すだけだったのが、もしかしたら能力の受け渡しもできるんじゃないかと試してみたところ、本当にできたのだという。


 いつの間にそんなことしていたのかと思えば、昨日の深夜らしい。秀がゴミ箱当番で起きていたから、連絡して試してもらったとのこと。


「心配してたよ、お前のこと」


 隆は少し、話すトーンを落として言った。私はすぐには返事ができない。秀がなぜ私を心配しているのか考える。合間を置いて理由に思い当たると、ついため息が出た。


「……秀だけじゃない。みんなもう知ってるよね」

「たぶんな」

(りん)ちゃんたちも……。私が直君を死人(しびと)化させた張本人だって、気づいてどう思ったかな」


 右腕の傷跡を含め、ずっと隠してきたことだ。誰も踏み込んで聞いてきたりはしなかったけど、こんな形で知られるなら話しておけば良かった。


「んな気にしてねぇと思うぞ」


 俯く私を隆が軽く覗き込む。私は顔を上げて隆を見る。


「当時はさ。人が死人になった初の事例ってことで、周りの被害もあったし、隠さなきゃお前が嫌な目で見られるから隠そうって話になっただけで。いまじゃ特別珍しいことでもないしさ」


「意思から死人になるって、いまでも(まれ)だよ?」


「でも、ゼロじゃない」


 怖い記憶でもあるし、無理して言うことじゃなかったよと、隆は言葉を選ぶように間を空けながら言った。

 窓から差し込む朝の光が、隆の赤っぽい髪を照らしている。

 私は自分の右腕に手を当てた。


「帰ったら、話さないとね」

「別に無理する必要は……」

「ううん、私が言いたいの。それに、隠しててごめんって謝らなきゃ」


 全部は話せないかもしれない。だけど、知っているのに知らないふりをさせるような、友だちに気をつかわせるようなことはしたくない。

 もう決めましたと態度で示し続けると、隆は仕方なさそうに息を吐いた。つけていたテレビを消す。部屋が静かになる。

【第二五八回 豆知識の彼女】

秀ちゃんウキウキ


キューブや勉学には真面目なものの、結構悪いこと好きな秀。透視、盗聴と聞いて『なにそれ面白そう』と思ったそうな。この日は平日で学校に行っていますが、球技大会で【可視化(アイスコンタクト)】を使っていたのと同じように、キューブは展開せずに【熱願冷諦(ねつがんれいてい)】だけ使っています。上手くいったか教えてよ、と隆に言って電話を終えたそうです。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 死人化した理由》

直樹が死人になった理由を考えるのと、【不知火(しらぬい)】から声がぼそぼそと。

どうぞよろしくお願いいたします。

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