表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
最終章 雪の降る街―活動編―
261/282

第二五一話 ナイト君

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)


「とりあえず、元気そうで安心したよ」


 からかいもそこそこに、ユキさんは俺に微笑んできた。


「熱は下がった?」

「あ……えっと、はい。測ってないけど、昨日みたいな身体の重さはないから、多分」


 平常心を取り戻すべく、自分の身体に意識をしっかり向けてみる。

 呼吸の苦しさも、頭の痛さや眩暈もない。昨日に比べてずっと動きやすい。半日かけてようやく、身体は熱を出す必要がないと気づいたらしい。

 ユキさんは微笑のまま頷いて、ここは? と、自分の胸を指でとんとんと叩く。


「昨日はうなされてたから。みんな隆君の心の心配をしてたよ」


 師走(しわす)にやられた精神攻撃が今後に響く可能性を懸念していたと、ユキさんは教えてくれる。


「ありがとうございます。大丈夫だと、思います」


 ハッキリとは言えないけど。でも、なにをされたかは覚えていても恐怖は感じない。自分が作り出した痛みだったからか、それとも危険と判断したからか、脳は俺が取り出せないほど奥底へ記憶を押しやってしまったらしい。


 ユキさんはあまり踏み込んでこない。相槌を打って、良かったと笑顔を見せる。

 妙な静けさが部屋を包んだ。真面目な話が終わったとみて、リイとマユがジト目を向けてくる。その視線に気づいたユキさんは二人の頭をぽんぽんと叩いた。


「……あんな状況で、言っちゃいけなかったですよね」


 うさぎたちの無言の圧力に耐えかねて、告白の話をする。昨日のことが全部ばれているなら、いっそのこと相談に乗ってもらおうと思った。ユキさんは特に迷う様子も見せず、そうだなと返してくる。


「告白してそのまま死んでいたら、未来ちゃんにトラウマを残したかもしれない」

「寝ちゃっただけでよかった……」

「気絶って言うんだよ。そのひび割れ、相当きつかったんだろう」


 ユキさんは怒るわけでもなく、冷静に指摘した。勢いで言ってしまったけど、ああやって口を滑らすだけでもまじないは許してくれないらしい。


 ――痛い?


 起きて早々、未来は俺の頬に触れて聞いた。ひび割れたことすら忘れていたくらい、痛みは全くない。でも未来は、寝ぼけながらも一番に俺の身を心配してくれたのだ。


「ただ……」


 ユキさんは本棚のほうへ顔を向ける。


「死を目前にして、弱気にならないほうが少数派だ。告白は当然とも俺は思うけどね」

「そんなものですか」

「そんなものだよ。経験者は語る、だ」


 ガラス玉をポケットから取り出して、ユキさんは俺に傾けて見せてくる。『メイ』と名が刻まれた特別なガラス玉。ヘンメイの結晶。


 俺が北海道に来てユキさんに渡した次の日には、結衣(ゆい)博士のところに持っていって復活のための話し合いをしたらしい。少し時間はかかるけど、俺が討伐してしまったヘンメイはいずれ本来の姿で戻ってくる。産月(うみつき)に操られていない、純粋なヘンメイが帰ってくるのをユキさんはずっと待ってる。

 ユキさんがヘンメイに向けていた感情は、恋だったのだろうか。


「ユキさん、それって……」


 部屋に上がって本棚から一つの本を取り出したユキさんに問いかける。持っているのは、昨日俺が気になっていた自殺の文字が書かれた本だった。


「死を選ぶことで、残された側がどんな気持ちなのか、どんな行動に出るのか……ご遺族が綴ったエッセイ集」


 ユキさんは楽にするよう言ってから俺にその本を差し出してきた。反省の体現だった正座を崩して、本を受け取る。中身は確かに、残された側の気持ちと、こうしていればよかったという、どうにもならない後悔がいっぱいだった。


「昨日、部屋を出ていくときの未来ちゃんの顔が、そういう方面に傾いてるなって思ったからな。もしこれを見つけてくれれば、ある程度は牽制になるかと思ったんだけど」


 ユキさんは、微笑を浮かべた。


「必要なかったか、ナイト君?」


 ヘンメイと同じ呼び方だった。お姫様を守る騎士みたいだと、会ったことのない俺につけたあだ名。


「いえ。ありがとうございます」

「自決を勧めたわけじゃないからな」

「わかってます。ユキさんはそんな人じゃないと思う」


 残された側の痛みがわかるユキさんが、未来にそんなことをするわけもない。


「信用してもらえて嬉しいよ。あと一時間もすれば朝ごはんだからな、用意して部屋に戻っておいで」


 じゃあまたあとで、と出ていくユキさんに手を振りかけて、俺はハッとして呼び止めた。


「ユキさん、昨日の臨世(りんぜ)の様子って聞いてますか」

【第二五一回 豆知識の彼女】

雪翔とヘンメイはお互いになくてはならない存在


また戦わせることになるならガラス玉から復活させない方がいいのでは、と実は悩んでいたユキさん。けれど戦うかどうかは彼女が決めることで、理不尽に奪われた命を取り返せるならと、覚悟を決めたそう。時間をかけて、ヘンメイの帰還を待ちます。また話せるようになったら、改めてこれからの話をしようと考えているようです。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 凪の役割》

伏せられていた、凪さんが臨世のもとへ行ったときの役割について。あいか先生は【()る】、結衣博士は補助、湊は【拘泥(こうでい)】。凪さんは『任せていいんだな』という司令官の確認にはいと答えておりました(第二〇〇話 明日の詳細)。

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ