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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
最終章 雪の降る街―活動編―
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第二四七話 当たり前の日常

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)


「ねぇ、謝ったりしないでね」


 結局未来が折れてパンを一緒に食べたあと、察したように釘を刺された。


「悪いのは私なんだから。隆はただ今後に繋がる手がかりと会話を試みて、そこで助けなきゃって思うなにかを聞いた。でもそれを知らない私が一方的に嫌だって否定して、隆に嫌な態度をとった。悪いのは私。隆が謝るのはちがう」


 未来は俺が反論できないようにまくし立てた。

 俺が気にする必要はない。全部自分のせいなんだと。


 産月に狙われるのも、そのせいで俺が危険な目にあうのも、みんながこうして動いている中で、自分一人、『守られる存在』であることがひどく情けないという本音も――。

 抑えていた感情も思考も全部とめどなく溢れてきて、話がぐちゃぐちゃになってくる。

 未来は静かに泣いていた。


「自分なんなんやろって、ここでずっと考えててさ。でもなんもわからんくて、いっそのこと、もう死のうかって。けど、こういうときに限って優しい子ぉらが来てさ。話して、楽しくて、隆が来て……猫と一緒にするしさあ」


 話しながら、未来は何度もしゃくり上げる。月明かりが頬の涙を照らしている。


「未来」


 もうなにも言わなくていいように、未来のすぐ隣に座り直した。冷えた涙を拭って、身体を抱き寄せる。雪のついた艶やかな黒髪を撫でる。


「熱い」


 俺の胸元で、未来はくぐもった声で言った。


「熱下がったって、嘘やんか」

「っせぇよ……」

「絶対高熱やんか」

「バレたくないから距離とってたんだぞ。なのにお前が、全部自分のせいにするから」


 冷えた身体をさすりながら、いつからこんなとこにいたんだと聞く。どうやら晩ご飯にも戻らなかったらしい。俺が追いかけられなかったあのときからずっと、未来は一人でここにいるようだった。


「んな長い時間……風邪ひくぞ」


 早く身体をあたためられるように、心もほんの少し和らぐように、【(なご)みの(ほのお)】をそばに灯す。未来が好きな金木犀の香りが漂った。


「どうでもよかったもん」

「よくねぇだろ」

「死のうってときに風邪の心配なんかせんよ」


 やけくそな言い方だった。

 凪さんは、一向に戻ってこない未来を捜しに行かなかったんだろうか。みんなも、どこにいるんだろうと心配にはならなかったんだろうか。ずっと寝てた俺が言えたことじゃないけど、でも……。


 かすかな気配を感じて、雪の積もった木々を俺は横目で見た。そして、ああ、と納得する。真っ白でふわもこのあいつらが、葉っぱに隠れてこちらを見てる。俺の視線に気づいたのか、うさぎたちはそそくさと宿の護衛に戻っていった。


「……そういうこと、もう考えんなよ」


 見守り隊の二人にはあとでお礼を言うことにして、黙り込んだ未来に頼む。


「未来がいなくなるとか、俺ヤだからな」

「隆が嫌でも、そうしたら全部解決するよ」

「解決しない」

「するの。騒ぎの中心がいなくなれば、そこは元の空気に戻るんだから」


 鼻声だけど、話し方は落ち着いてきた。未来は冷静に、自分がいなくなることがなにより良い手段だと考えている。薄々気づいていたけど、未来は自分のことが嫌いなんだろう。


「元に戻そうってんなら、お前がいなくなっちゃだめだ」


 未来の冷えた身体があたたかくなってくる。金木犀の香りを放つ炎が雪を赤く染めている。


「未来がいる日常が、俺にとっての当たり前だから。お前がいなきゃ、もうどうやっても元には戻らねぇよ」


 未来は俺の腕の中で首を横に振った。


「違和感があるのは最初だけだよ。すぐに慣れる」

「無理だ」

「大丈夫。隆の周りには良い人がいっぱい集まってくる。だから、すぐに……」


 平気になる、と言いたかったんだろうか。それとも、代わりの誰かが見つかるとでも言うつもりだったんだろうか。いずれにしても未来は言えなかった。俺の両腕に手を添えて、少し離れて顔を覗き込んでくる。白い息を吐く。


「……無理ばっかりして」


 未来が落ち着きを取り戻したことによって、俺の体調が悪くなり始めていることがバレた。密着していたぶん、呼吸の荒さがもろに伝わったんだろう。


 情けない。未来の考えを撤回させられず、伝えるならいまだろう俺の未来への気持ちも口にできず、ぼんやりした頭で未来がいなくなるのは嫌だとぶつぶつ言っている。ほとんど独り言だ。


「ヤだからな。絶対」


 冷たい雪が頬に当たるのがやたらと気持ちよかった。ぼんやりとした視界で、未来の小さな手が俺に伸びてくるのが見えた。


「中に入ろ。横になったほうがいいよ」


 髪についた雪を優しく払われ、未来は俺の背中に手を添える。ゆっくり立たされて、雪に足を取られて屋根から落っこちそうになりながら、俺たちはひとまず宿へ向かった。

【第二四七回 豆知識の彼女】

見守り隊、隊長マユ、副隊長リイ


未来さんが外に出てからこっそり見守っていた雪翔の伴侶たち。いい感じに雪景色と溶け込んで目を凝らさないと見えないのですが、気配に敏感な隆は気づきました。未来の気持ちがどうであっても、危険があればすぐに助けられる状態。もやしの死人が来てからは特に警戒していたようです。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 逃げ道》

宿に戻り、部屋へ行くかと思いきや未来さんは隆をとある場所へ連れていきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
まずですね、この隆一郎が来て気持ちが溢れ出す未来もいいんですけれどその前に、優しい子らと話して自分の中でまた別の気持ちを取り戻せたところも好きだなあと思いました!!見守り隊がいたところも!! あとは大…
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