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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
最終章 雪の降る街―活動編―
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第二四四話 人生のハズレ

隆視点に移ります。

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)  

挿絵(By みてみん)


 俺の言い方が悪かったのだと、すぐに思い至った。

 聞けば、もう夕方の六時前。俺が師走に会いに行ったのは朝で、多分話していた時間は一時間にも満たない。宿に連れ帰って治療を受けている間、未来はずっと俺を心配していたんだから。なのに気がついて早々、『助けなきゃ』なんて。いくら未来が優しくても怒らないはずがない。

 ごめん、未来。本当にごめん。


「とりあえず、お前が眠ってる間の状態と連絡事項はこれくらいかな」


 休憩を多めに挟みながら、凪さんはゆっくりと教えてくれた。

 宿には臨世に使ったのと同じ防壁を張ってあること。ユキさんの人形(ドール)たちも目一杯使わせてもらってること。司令官からの指示――東京に帰る予定の延長。産月がすぐそばにいるのなら、未来を精鋭部隊から離すべきではない。臨世とのやり取りが終わって、全員での帰還を待つこと。

 凪さんや未来が見聞きしたことをみんなにも伝え、霜野さんが産月だとほぼ確証していること。


「ありがとうございます。助かります」


 試しに『霜野さんは師走です』と言いかけると、まじないが襲ってくる気配がしたので中断した。『霜野さんは産月だと思います』なら大丈夫らしい。つまり、みんなが想像できる程度の内容であれば、俺が聞いた師走の話もできるのかもしれない。


「凪さん。あの人は……」


 助けを求めています。

 大切なもののために変化を願っています。

 産月、霜野家のどちらも守るために、未来を手に掛けるしかないんです。

 どれも言えなかった。チリチリと鼻のてっぺんが焼けていくような感覚に襲われ、全てまじないの影響下にあるのだとわかる。


「くっそ……」


 悔しくて顔をしかめていると、凪さんに完治薬を渡された。昨日のまじないの件を知った司令官が物資として大量に送ってくれたのだ。自分で買ったらとんでもない金額になる数の薬が、昨日と今日で俺のためだけに使われている。申しわけなく思いながら、痛む鼻骨に擦り込んだ。


「『予定に変更はない。あなたが見た夢のとおりです』」


 唐突に、凪さんは言った。俺は薬の蓋を閉めてから顔を上げる。


「霜野からの伝言。お前が起きたら、確実に伝えるよう言われた」


 凪さんは部屋の隅に立て掛けていた紙袋を持ってくる。あの店のお客さんが持っていたのと同じ、向かい合わせになった雪の結晶がプリントされた紙袋。


「今日のお詫びだって。首の跡が消えるまで、それで隠すようにって」


 中に入っていたのは、グレーにオレンジ色のラインが入ったマフラーだった。これにも向かい合った雪の結晶が刺繍されている。


「ねぇ、隆一郎」


 俺がなにも言わずにマフラーを見ていると、凪さんはあぐらを組んだまま深刻な顔をした。


「僕らは、なにか……思い違いをしているの?」


 寄り添おうとしてくれる凪さんに、全てを明かしたかった。でも、なにも言えなかった。

 ただ、師走が残してくれた情報……俺が襲撃の予定を知っていても、その日程は変わらないと教えてくれたことが、師走の考えを間接的に教えてくれているような気がした。


「人生の、ハズレ……」


 呟いてみると、これだけは言えた。


「人生のハズレを引いたのが、未来だと言われました。だから、愛情を込めてハズレと呼ぶ。……未来は悪くない。未来の周りを疑えと、助言されました」


 言えること、言えないこと。それらを選別しながら、俺は凪さんに、師走がくれた可能性を共有していった。

【第二四四回 豆知識の彼女】

マフラーを編みながら、師走は隆に何色が似合うか考えていた


話しながら縫い物をしていた師走ですが、ブチ切れないために頭の中では全然違うことを考えていました。それでもムカッときて縫っていたマフラーを引きちぎったりしましたが、おかげですぐ選ぶことができたそうな。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 もやしの天使》

パンと飲み物と死人と。

どうぞよろしくお願いいたします。

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