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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第二二九話 温泉の醍醐味

前回、碧眼の少年が卯月であると、何かに向けて本人が明かしました。

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


 切り裂かれた腹を【治癒(ノコギリソウ)】で治してもらい、半壊の鍛錬場も『再生』の花言葉を持つユーカリの木で未来が修繕してくれたのち。


「こん、のぉ……ッ紫音! てめぇマジでやめろって、おい!」


 凪さんに連れられやって来た温泉にて、素っ裸の俺は本気で紫音を引き止めていた。実はキレる寸前である。

 なんで怒ってるのか、冷静になるため思い返してみよう。

 原因は目の前にいるこいつ。風呂なのに服も脱がず、首に巻いたマフラーすら取っていないほぼ幽体の十三歳。

 汚れないし温かいのも感じないから温泉はいいって言ってたのに。部屋で待ってるねって言って送り出したくせに。


 俺が露天風呂で新緑の景色を眺めている最中、慌てて駆け込んできたかと思えば。このクソガキはクソなことをほざいて宙を飛んだのだ。


 曰く――のぞきは温泉の醍醐味だよね、と。


 にーんまりと笑って。悪びれた様子もなく。


「ふ、ざ、けん……っな!!」


 首根っこを掴まれた子猫みたいな体勢で浮いていく紫音。その足首を俺が両手で掴んで引っ張ってるわけだけど、残念ながらこいつの飛ぶ力の方が強い。じわじわと紫音の頭の位置が高くなっていく。


 マジでふざけんな。変態は結衣ゆい博士だけで十分だ。

 未来の足をガン見してた俺が言えることでもないが、あいつの素肌を拝むなんて絶対許さねぇぞ。


「このくそガキがぁぁっ……!」

「ケチだなぁ〜、イチはー」

「ケチとかの問題じゃねぇ!」

「ケチイチ〜っ」

「あだ名にすんな!!」


 応援を頼みたいけど精鋭部隊のみんな大浴場でまったりしてるからここにはいない。

 旅館の客は今日も俺たちだけらしく、長風呂対決のために選んだ露天風呂は事実上の貸切状態になっている。

 広々と使える贅沢がうとましい。


 ――伴侶に怒る時はしっかりして見えたのに。コートを取り返すべく頑張ってたの、すげぇ印象的だったのに!


 顔が真っ赤になるほど全力で食らいつき、追いかけっこ中と今を比較して俺は結論を出す。こいつの本性はこちらだと。

 大好きな兄のためなら頑張れるだけ。

 朱雀紫音という幽霊少年は、ハッキリ言ってガキなんだ。


「ふぬぬ、ぬぅっ……!」


 浮力が強まった。

 男女を隔てる竹垣たけがき天辺てっぺんが近くなる。まずい、ガキが女風呂に行ってしまう。


「く、そ、がぁっ……【難燃の紐(ストリング)】!!」


 燃えない紐で縛り上げようとするも、技名が出ただけで物体は作れない。

 展開しなくても一つだけ技を使えるキューブの特性を信じて発音したものの……さすがに、距離が遠すぎるらしい。更衣室でしん、としてる立方体が目に浮かぶ。


 なぁ、頑張ってくれよ俺の相棒。

 こういう時こそ俺の思いに応えるべきだろう!?


「この変態がぁあ……!」

「変態、とかじゃっ、なくて! 好奇心っ!」

「好奇心で何でも許される世の中じゃねぇから! 頼むから戻ってこいって!!」


 ぷらぷらしていた紫音の手が横向きの竹に置かれる。縦並びの竹と結ぶ黒い縄がある付近。凪さんが熱く語ってたから覚えてる。しゅろ縄ってやつだ。

 浮力だけじゃなく登ろうとする力が加わって、俺の足まで宙に浮いた不幸。オワッタ。


 ごめん未来。ごめんなさい。

 意思に反して俺もそっちに行きそうです。

 俺が見たいとか決してそういうんじゃないんだ。ただこの変態ガキを止めたかっただけなんだ。頼むから誤解しないでくれ。


 心の中で願うしかなくなった俺は瞼を固く閉じる。

 ルンルン気分の紫音の鼻歌がうざったい。黙れよ。


 カバさんみたいに耳を閉じたくなった。

 実は足が長いペンギンさんみたいに俺の下半身も隠れてねぇかな。そしたらみょーんと伸ばしてまた地面を踏ん張れるのにな。いや、実際は固定されてて伸ばせないんだっけ? じゃあダメじゃねぇか。


 変なことばっかり考えて、体が徐々に移動していくのを肌で感じる。

 のぞき防止の竹垣はかなり高く設置されていて、断罪の瞬間はすぐには訪れない。

 今の俺はどこにいるんだろう。


「いよっしゃぁ、頂点! ……えっ?」


 紫音の言葉に絶望した、その刹那。


「「ああああああっっ!!」」


 バリバリバリ。静電気なんか比べものにならない電撃を二人仲良く食らった。

 何が起きたのかはわからない。戦闘経験からそれが電撃だと理解しただけ、俺の目は開いてないからそれ以上の情報は期待するな。

 ぽてっ、ドテッと落っこちる。

 重量ありの墜落だった俺は腰を強打する。痛い。


「はれ……はれれ……」


 うっすらと目を開けて、全身から黒い煙を出してピクピクしてるガキを視界に入れる。

「ざまぁみろ」と吐き捨ててやった。


 誰から攻撃されたのかはわからない。けど、ありがとうございます。おかげであいつを守ることができました。ありがとうございます。


 天罰をくれた誰かに心の中で感謝して、自分の体からもプスプス音が鳴っているのを聞きながら俺は瞼を下ろす。しばらく動けそうにない。


 何しろ、強すぎる電撃によって意識が吹っ飛ぶ直前。

 体に力が入らないのだから。

【第二二九回 豆知識の彼女】

紫音の体は汚れない


九割謙譲ほぼゆうれい】についてりゅーちゃんはすぐに受け入れたためあまり驚きもしませんが、紫音は汚れ知らずのようです。

お風呂はいらない、服も着替えなくていいという状態。


代わりに温度の変化は認識しづらい模様。

寒さは感じないかもと思いながらマフラーを渡した凪さんの予想は正しいです。

気持ちというあたたかさを感じた彼はその後もマフラーを巻いて過ごしていますが、今度は凪さんが寒いので誰かに用意してもらわねばですね。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 ヒートアップ》

動けなくなった隆一郎の代わりに未来視点へ。

彼らにはのぞかせませんが、女風呂については未来が見せてくださいます(え)

どうぞよろしくお願いします。

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