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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第二二〇話 黙考

前回、臨世に手を加えた人物を【る】によって知りました。

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


「じゃありゅう、また後でね」

「おう。なんかあればすぐ言えよ」

「うん」


 旅館『湧水』の玄関から真っ直ぐ奥。突き当たりでそんな会話をした俺と未来みくは、それぞれ相棒を連れて左右に別れた。俺とケトは右、未来とおキクは左へ。

 行き先はサウナと足湯。

 サウナは温泉に併設してるから俺は一足先に見ることになるけど、湯には浸からずシャワーを浴びるだけにする。

 長風呂対決はみんなが帰ってきてからにしたい。そういう楽しみは夜まで取っておくものだ。


 ケトは母さんお手製ケト用リュックで俺に背負われ、おねんね中。おキクは抱いてるというより巻き付かれてるって表現が正しいけど、未来との時間が嬉しいらしくきゅうきゅう鳴いてた。

 未来の背中に回した尻尾をブンブン振って。それこそ犬みたいに。


 畳の廊下を進む。左へ曲がるとフローリングに変わる。

『大浴場』の案内に沿って歩き、更衣室へ入った俺は服を脱いではぽいぽいとロッカーに投げ入れる。

 ケトをキューブ内の空間に入れてタオルでくるんで持ち、温泉へ繋がる扉を開けた。


「……広いな」


 つい独り言が出る。

 昨日もだけど、どうやら今日もお客さんがいないらしい。貸し切り状態だった。

 シャワーで体を清潔にして、それから奥にあるサウナ室へ直行。自然の暖かさを照明とオブジェクトで再現された部屋は灼熱の一言に尽きる。


 ケトを抱いてなくて良かった。起きてほしいとはいえ、自分が煮える悪夢で目覚めさせちゃ可哀想だから。

 死人が夢を見るなんて聞いたことないし、研究で意図的に操作しても反応はなかったらしいけど。

 一応、予防ということで。


 ――時間は……二分過ぎ。とりあえず十分にするか。


 設置されたサウナタイマー、十二分で一周する時計を見て決め、切り株の形をした椅子に座って瞼を閉じた。

 すぐに浮かぶ、大事な人の笑顔。


 ――未来……大丈夫かな。


 目を開けずに考える。

 一人にするのは久しぶりだった。

 前々からそうではあるけど、模擬大会の一件以降これまで以上に未来の身辺しんぺんが気になるようになった。


 俺の知らないところで何かが起きてる。そうわかっているだけに、ことが急に動き出しそうで不安で。近くにいないと怖くて。

 できるだけ未来を一人にしないように、俺がいなくても誰かがそばにいるようにしていた。

 でも今回は、未来の方から一人にしてと言ってきた。


 ――少し考えたいの。過去のこと、これからのこと。


 普段は考えないようにしていることも、と。

 微笑んで告げられたその願い。拒否なんてできるはずもなく。

 思い詰めてるようには見えなかった。吹っ切れたって本人も言ってたし、単純に考える時間が欲しいんだと思う。


 そんなわけで、凪さんが用意してくれたプリンを頂いた俺たちは各々の時間を過ごすことにした。

 考えなきゃいけないことは俺もあるから。

 いい機会じゃんか、と。心配ばかりの自分に言い聞かせて。


 ――過去のこと、これからのこと……か。


 汗を拭き取る。

 暑さに身を任せていれば、自然と考えるべき対象が絞られてくる。臨世のことが湧き上がってきた。


 ――アイツ……おかしかったよな。あの時はいっぱいいっぱいで考えられなかったけど、なんつーか……変だった。


 あの違和感を言葉にできない。

 凪さんの【(いと)】や湊さんの【拘泥(こうでい)】を受けたとはいえ、それとは別の何かがありそうだった。

 その何かを、凪さんたちは調べに行ってくれている。

 調べて、解消する方法を見つけて、実際にやってみたら。


 そうしたら、全く動きそうになかったアイツは動くんだろうか。凪さんと湊さんの拘束を破って襲いかかってくるんだろうか。

 不安に思うなんて二人に失礼だけど、それでも考えてしまう。


 にた……と笑う、あの顔。

 最初に目が合ったのは俺なのに、未来を見つけた途端アイツの興味は全て未来へ向けられた。

 鳥肌が立つほど未来を見続けた。

 まるで未来との再会を喜んでいるように。

 今度は逃がさないよと、青い瞳が暴力的な意思を運ぶように。

 執着して、執着して。離れない。


「……守らねぇと。絶対」


 あの時俺がいれば――なんて。後から思うのはもう嫌だ。

 時計を見る。針が一周してる。

 何セットしようかと考えながら一度サウナ室を出て、掛け湯をしてから水風呂へ。外気浴がいきよくのため専用スペースへ移動する。

 ふぅ……と、設置された椅子に座り休憩を取った。

【第二二〇回 豆知識の彼女】

凪が用意したプリンは未来が一番大好きなあのプリン


未来さんが愛してやまないプリン。凪さんが用意してくれたのは、未来厳選・プリンランキング堂々の第一位。学校から家までの間にあるコンビニにしか売ってないコンビニプリンでした。

カラメルソース無しのとろっとしたたまご感の強いプリン。何より大好きなこれを、凪さんは部屋の冷蔵庫に忍ばせておりました。

生物なのでもちろん【光速(こうそく)】を使って買ってきたのでしょう。多分凪さんが一番キューブの掟を破ってます。

ねぇ凪さん?キューブ、交通手段にしちゃいかんのよ?わかってるはずだよねー。おーい?


お読みいただきありがとうございました。


《次回 【デリート】》

休憩中の隆一郎を、とある現象が襲います。

またどうぞよろしくお願いいたします。

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