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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第二一八話 甘え下手と舌足らず

前回、誰かからの催眠術により臨世がまだ話せないと知りました。

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


『待ってなどおれん。千番、代案があるなら頼みたい』


『はい。手段は二つあります。ひとつはわたしがいつもするように、【光景こうけいる】によって臨世に何があったか外側から観る方法。もうひとつはわたしが臨世のへ入り、彼に起こったことを記憶を介して体験する方法です』


 どちらも口頭で皆さんへ伝えることになりますが、とあいかは補足する。

 それは構わない。臨世の口から吐かせられない以上、誰かが間に入らなければ何も得ることはできないのだから。

 ただそんな使い方ができるのかと驚く反面、凪の頭には不安がよぎる。


「後者のやり方。国生さんは、大丈夫なんですか」


 彼女も催眠にかかるのではないか。

 もしくは臨世に取り込まれるのではないか。

 そんな疑いから、何か言おうとした司令官より前に凪は質問する。


『正直に言えば、負担はあります。凍結状態とはいえ臨世が捕縛されて以降の記憶を全て頭に入れるわけですから、その後は少し休まないと動けません』


「なら――」


『前者も同じですよ。どちらにせよ休まなければならないのなら、外部から観るよりも臨世自身に何が起きたか知る方が早くて鮮明。そこでわかった異常な部分だけをピックアップして、支部の映像と照らし合わせて確かめる。これが一番かと思います』


『もしかしたら産月やその他のこともわかるかもしれませんよ』と、あいかは微笑んだまま語る。

 凪は黙ってしまった。

 最後に付け加えられたその主張。凪を迷わせるには十分すぎた。

 険しくなった顔を隠すべく俯いて、思考する。


「あ、ああああの! あいかさんにだけ大変な思いをさせたくないのは私も同じだからっ、だったら全員で分担するとか、ダメかなっ!?」

『落ち着け万里。茶が逃げている』

「アッツ……!!」


 ソワソワして聞いていた万里はお茶を盛大にぶちまけた。湯のみを口につける前に傾けたらしい、足にかかって悲鳴を上げる。

 これも慣れっこなのでタオルと保冷剤を秘書がすぐに持ってきた。大丈夫ですかという声掛けは淡白だが、思いやりが窺える。

 北海道支部はあたたかい。長が万里だからだろう。

 強ばった表情が自然と緩められる。


『千番。聞くが――後者を選んだ場合、お前が催眠にかかる可能性。それと臨世の中から出られなくなる可能性はあるか』


 凪と同じ懸念けねん。司令官は遠回しにではなくハッキリと尋ねた。


『どちらもありません。彼の体験を遡るだけですから、頭に入れるにとどまります』

『ならいい。弥重のネックはそれだ』


 顔を上げれば、目をまん丸にしたあいかが見える。

 何も言わずにいると、弥重、とコーヒーカップへ手を伸ばす司令官に呼ばれた。


『お前は言葉が足りん。心配しているのなら最初からきちんと言ってやれ』


 ――代弁してくれたのか。言えないのだとわかって、きっと伝わらない自分の気持ちを。

 この人はやっぱり、相手のことをよく見ている。


「……はい。ありがとうございます、司令官」

『千番は弥重の話を最後まで聞く努力をしろ。こいつが色々と考えているのはお前もよく知っているはずだ』


 どちらの気持ちもわからなくはないが、と窘める司令官は、あくまで中立だった。

 凪とあいかの歪な関係を知る彼はそれ以上何も言わない。代わりにコーヒーを一口飲む。

 あいかはあいかで後ろめたそうにしていた。


『それと、万里』

「はいっ!」

『先ほど言ってくれた分担。私も同じことを考えていた』

「へっ……」

『ただキューブの特性上、それが安全にできるのは弥重と四番だけだ。私とお前、結衣博士については脳が破裂してぽっくりだろうな』


「ひぃ……っ!」と万里はった。

 キューブの能力は素体そたいには使えない。

 技の対象を人ではなく空間に指定するなら使用できる場合もあるが、それはキューブを使わずとも自力で何とかできる事柄ならの話。補助程度の役割だ。

 隆一郎が【なごみのほのお】で皆をあたためることとはわけが違う。

 何千時間という膨大な情報を『恩恵』なしで頭へ入れるとどうなるか。しかもそれを瞬時に行うとしたら。

 司令官の言う通り、破裂するだろう。


『わたしがゆっくり流せばできるのですが……それですと、時間を食いますので』


 すみません、と謝るあいかへ司令官が呼びかける。

 あいかがはいと返事をする。


『分担自体は可能なんだな?』

『はい、できます』

『お前の負担も減らせるか』

『それは……ええ。わたしはとても助かりますけど』


 司令官の言わんとしていることがわかり、『それではお二人が……』と今度は別の心配を示すあいか。

 もちろん二人が了承してくれるならだと、司令官は判断をこちらに任せてきた。

 迷いなどない。


「やります」


 それで少しでも楽になるのなら。

 一年半を三人で割って、一人につき百八十日ちょっと。まだとてつもない量だが、すべてを一人に任せるよりはいいはずだ。


「流星も、いい?」


 ペンを走らせていた流星へ問う。紙質を再現した筆記用のパネルはペン先が触れるたびカリカリと音を鳴らす。

 ビッ、と長く線を引いた彼は「おう」と返事をした。


「【る】ってどんななんだろなーって、ずっと思っててさ。だからやったぜって感じ」


 早くやろーぜと催促する。どうやら興味の方が強いらしかった。

 あいかはまだ煮え切らない態度を取る。

『しかし』と抗議してくるのを「いいから」と遮った。


「言ったでしょう、ご自身を大事にしてくださいと」


 そもそも分担できるとわかっていたのなら、司令官と万里の案は彼女も考えたはず。【る】を使えば動けなくなることは本人が一番わかっているのだから。


 つまり凪や流星にも手伝わせたくない理由は、今後のことを考えての配慮。

 特に【(いと)】と【(おぼろ)げ】を使い続ける自分や明日は忙しいと予想される流星には負担をかけたくない。

 あの場には雪翔がいるが、湊と凪同様、彼も【侶伴りょはん】のために常時展開する必要がある。


 その点あいかは一日二時間の制限付き。

 臨世が話せない状態にあるならその役目はあいか一人で背負うべき。そんな考えだ。

 もしくは凪と同じように、誰かに甘えるのが苦手なだけかもしれない。


「無理をしてあなたに倒れられたら困ります。夜のサプライズの際、一人でも欠けていればあの子たちは全力で楽しめない」


 心配しています、なんて。真っ直ぐには言えないけれど。これである程度は伝わるだろう。

 沈黙が落ちる。

 互いに画面を睨み合って、膠着して動かない。

 周囲が無言を貫く中。しばらくすると、あいかが降参の息を吐いた。

【第二一八回 豆知識の彼女】

流星の書いた記録は綺麗


カリカリと書き続けていた流星、とっても綺麗に纏めてくれています。

本題である臨世が話さず動かない理由や今からすること、ついでに万里のおっちょこちょいも右側に作ったメモ欄にて書き記していたり。必要と必要じゃないけど書いとくか、みたいな仕分けをして纏めてくれています。多分コケたことも書いてますね。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 【る】》

いざ三人で体験。海の上では上手くいかなかった『知』のキューブ、本領発揮です。

どうぞよろしくお願いします。

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