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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第二一六話 予想と共有

前回、隆一郎と未来は旅館へ戻りました。

 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)

 

 死人死滅協議会、北海道支部。

 死人の脅威に晒されないよう、本部と同じく上へ上へと続く電車に乗って向かう建物は、言うなればキノコのような形をしている。

 軸の部分を螺旋階段のごとく回って上昇。そのてっぺんに笠を思わせる大きな平屋がくっついている。

 階層が違うだけで本部とほぼ同じ形状のそれは、超強化マテリアルで出来ているからこそ崩れず倒れない。でなければ設計の段階で指摘が入っただろう。

 そんな不思議な建物へ【光速(こうそく)】を使って秒で向かい、静かな会議室前の廊下。


「お節介は終わったか、やさしーお兄さん」


 頭の後ろでダルそうに手を組み壁にもたれる流星は、やっと携帯をしまった凪に言葉を投げてきた。

 妙に引っかかる言い方をする。けれどそれは彼がいつも通りであることを示し、自分をリラックスさせるための声掛けだと凪は知っている。口角が自然と上がった。


「うん、終わった。お節介もたまには必要でしょ?」

「お前の場合はたまにじゃねーだろ」

「心外だな。たまにだよ、いつもじゃない」


 嘘つけ、と返ってきそうな目を向けられる。

 自覚はしている。けれど大切な子たちへ自分ができることならしてあげたいのが凪の性分でもあった。

 だから困ったように笑うしかない。

 逃げたくなって顔を逸らせば、ブブ、ブブと、ほぼ同時に二回バイブ音が鳴った。凪はまた携帯を取り出して、入ったメールを確認する。


 [ありがとうございます]

 [ありがとう、凪]


 隆一郎と未来から個別に来たお礼。凪は目を細める。

 少しでも癒しになれたなら良かった。ゆっくり休めたらいいな、と。


「で。誰だと思う、『竹』とヤローに細工さいくしたヤツ」


 簡単に返信をして、ついでに一つ写真を送ってからポケットへ再度突っ込む。

 流星の問いに、凪は顔から笑みを消した。


産月うみつき。もしくは……霜野しもの家の誰か」

「疑うのか」

「一般人だって人だからね。表向きはいい感じに接するけど、疑う場合もあるよ」


 優しげな笑顔。柔らかな物腰。

 まだ祖母と息子にしか会っていないが、昨日息子から話を聞いた限りでは父親と母親も穏やかな人物に思う。

 けれど事前に調べてきた理由――主に臨世を捕縛してもなおあそこにいる理由が、凪は腑に落ちない。


『現場での目も必要だろう』。マダーならさておき、そんなことを一般人が率先して言うだろうか。

『夫が遺したものを守りたかった』。とても素敵で美しい理由だが、故人のために一家で危険な場所に残るだろうか。反対する者はいなかったのか。


 捕縛された頃とは違い、今はほぼ人がいない端段市。

 恐怖を覚え、やっぱりやめさせてくれと言い出しそうなものである。

 博物館の建設については請け負った業者に連絡して書類を見させてもらった。違和感はなかった。だから祖父が建てた博物館であることは間違いないとして、それ以外の彼らの話が、凪はどうにも信じられない。


 ――ただ不思議と……危ない目にあったことはありませんけどね。


 運がいいのかもしれません、と彼はどこか遠くを見ていた。

 武器を手にせず、警戒もしないで去っていった息子。

 まるで、襲われない絶対の自信があるかのような。そんな後ろ姿。


「もしそうだとして、何のためにしたかだよな」

「……そうだね」

「霜野サンが手ぇ出したなら間違いなく一般人じゃねーし、産月がやったなら前提がおかしい。アイツら未来を殺そうとしてんだろ。なんで守るようなことすんだよ」


 もっともな疑問。彼らが何者で、細工をした理由もやり方も今は全くわからない。

 ただ凪が産月を候補に上げたのは、凪自身『竹』を無理やり解除できると思えなかったためだ。


 未来と隆一郎に言うつもりはないが、彼女らの友だちである加奈子かなこにも凪は『竹』解除の依頼をしていた。


 東京を出ることになったあの日。一度土屋家から帰宅した凪は、隆一郎の代わりに当番に出た加奈子に会うため『ゴミ箱』へとおもむいた。

 その際ペアだったしゅうは本部から既に事情を聞いていたため、一緒にデータを見てもらい、『竹』をどうにかできないかと尋ねた。

 もちろん加奈子にも口止めをして、未来には何も聞かないよう頼んでからの依頼だ。


 彼女が解除できるなら未来を臨世に会わせなくていい。できることなら関わらせたくないという気持ちが強すぎて、凪にしては珍しく感情的なお願いをしてしまった。


 加奈子はごめんなさい、と俯いた。

『解』の文字を持つ彼女ですら、『竹』を正常に解除できない。

 データを見るだけでわかるほど未来が臨世に使った技は強力で、無理に消そうとすれば何が起こるかわからないと言われた。


 その『竹』を。未来以外のマダーがどうにかできるとは思えず、その辺にゴロゴロいる死人にできるとも思えない。多くの死人とマダーを見てきた凪にとって、それができる相手は脅威である。

 ゆえに、力も存在も不明な産月を候補として上げた。


 ――でも流星の言うとおり……なんでなのかは想像がつかないな。


 なんのために、どうやって細工を施したのか。

 産月でも霜野一家でも、それらは疑問点として残る。

 凪も壁に寄り掛かり、目を閉じた。


「わかればいいね。【る】と……ここのデータで」

「だな」


 ぐるぐると悩み始めたことを察した流星は追求しなかった。ぶっきらぼうだが、時折見せる優しさに凪は安堵する。

 元々少なかった会話が完全に途絶え、本部と同じく静かな廊下。

 雪翔の助言を思い出した。


「……流星」

「ん」

「共有、していい? ユキが言ってたように」

「おう。バカ(おれ)にもわかるよう噛み砕いて説明してくれ」


 にんまりと笑った流星が嬉しそうで、凪もつい和む。

 一人考え込んでいた内容を簡単にして話す。

 伝え終えたところで、奥の方から小走りで駆けてくる人が見えた。「おーい」と、腕を大きく振っている。


「あれ大丈夫か。またコケるんじゃねぇの」

「ふふ。ちょっと怖い走り方かもね」


 片手で持つ資料が落ちそうな状態で走る女性。

 茶髪を大きなクリップで一つに纏め、その毛先が左右にぴょんぴょんと跳ねている。

 北海道支部のちょう――万里ばんり智代ともよ

 挿絵(By みてみん)


弥重みかさ君、杵島きしま君! 待たせてごめんね。端段市博物館の管理データ、これで全部だよっ!」


 それほど待ってはいないが、落ち着きがない彼女は丸眼鏡の奥で何度も瞬きをしていた。

 片手で鍵を回し、扉を開けて会議室へ通される。

 青い長方形の画面がそれぞれの席の空中に設けられ、普通の部屋ではないと示すように長机も真っ青。結衣とあいかが使っていた調べ物やデータ管理をするためのパネルをそのまま机にしており、そこへ大量に持っていた資料を万里がよろめきながら置いた。

 少し嫌な予感がする。


「座って! 今ね、すぐにお茶を持ってくるから――」

「お気になさらず、万里ばんり支部長。あまり焦ると……」

「きゃあっ」


 予想通り。

 ローヒールで駆け回る彼女はつまずいて転んだ。

 凪と流星が「やっぱり……」と声を合わせたすぐ後で、視界の端に画面が一つ出現する。

 見覚えのある会議室。手にはスティック状の袋。東京本部の机でインスタントコーヒーを作る司令官が映った。

【第二一六回 豆知識の彼女】

同い年で未来の過去を知るのは現在、隆一郎、秀、加奈子


隠したい隆、まだ話せない未来。けれど敵を知るため、ちらほらと明かさなければならない人たちが出てきました。

秀と加奈子は直接ではなく遠回しに知った状態ですが、未来の口から言われるまでは何も聞かないことに。秀は隆一郎にだけ、端段市と未来という二つをセットにして話すなという助言をしています。


「土屋がこない」と本部へ連絡した秀。一人でも大丈夫と思われましたが、一応加奈子をフォローに向かわせた司令官。加奈ちゃんはきっとウキウキだったでしょう。好きな人と朝までふたり。どんな会話をしていたかは秘密。もちろん強い彼らは当番くらいへっちゃらです。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 お面》

臨世についての情報と、何が起きているのかを話し合います。

どうぞよろしくお願いいたします。

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