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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第二一五話 愛らしい虎

前回、凪は今後どうするかを決めました。

 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


「……行っちゃったね」

「だな」


 瞬間移動とも言える凪さんの送り届けによって、行きは少し時間をかけて端段市まで行った俺たちは、一秒もかからずに旅館『湧水ゆうすい』の前に立っていた。

 時刻はまだ昼前。


 夕方には帰るからゆっくりしていて。晩ご飯は一緒に食べるよ。そう言って、俺たちの返事も聞かずにまた【光速(こうそく)】を使って飛び去った凪さん。

 指示ではないけどだいぶ難しい言い残しだと思う。

 ゆっくり、なんて。

 さっきの『竹』解除や臨世の気味悪さを見た後じゃ、いくら【なごみのほのお】を使っても休まる気がしない。

 未来はもちろん休ませたいけど、俺は疲れたとか言わずに手伝うべきなんじゃないか。一人にはしたくないからおキクを呼んで、俺だけでも戻った方がいいんじゃないか。そんな考えが浮かぶ。


 ピコンッ。


 どうすればと迷っていると、珍しく未来の携帯が鳴った。

 ズボンのポケットから取り出して操作する。火傷していた指はすっかり治っていて、そこまで酷くはなかったようで安心した。


「……困るの、お見通しだったみたい」


 泣きすぎて充血した未来の目が、届いたメールに向けられている。


「凪さん?」

「うん。ほら」


 未来が画面を見せてくる。

 内容は俺たちを館内へ誘導するためのものだった。

『湧水』には足湯もあること。テレビも使えるし、凪さんが持ってきた鞄の中にはゲームが数種類。部屋の冷蔵庫にはプリンを入れてあるとか。


「プリンさえあれば大丈夫と思ってないかな」

「否定しきれない俺がいる」

「私もそこまで単純じゃないよ……」


 とか言いつつ、プリンは食べるらしい。

 美味しくいただきながらどう過ごすか話そうということで決まる。

 未来が引き戸を開けて中へ入ろうとした。


「? 隆、どうしたの?」

「凪さんの虎が来てる」

「え?」


 何かが接近してることを感じて振り向くと、空を駆ける金色の虎がいた。

 以前凪さんと戦った時に見た、【(いと)】で造形された生き物。一部を除いて精巧に再現された猛獣は、その鋭い犬歯の間に何かを咥えて降下してくる。

 俺たちの前に軽やかに着地した。


「……お前、えらいな」


 意思があるかはさておき、主人に忠実なそいつの毛を撫でてやる。

 持ってきたのは俺と未来の防寒具。博物館のロッカーに入れていた上着とマフラー、俺の手袋だった。


「忘れてた。隆のおかげであったかくなってたから」

「俺はちょっと寒かったんだけどな」

「自分の能力は自身に影響しないもんね。ぷりんグミ食べる?」

「お詫びのつもりか、それ」


 受け取った服のポケットからグミを出そうとする。

 今からプリン食べるんだろお前は。


「プリンとぷりんグミは違うよ」

「俺の考えてることなんでわかんの?」

「隆はわかりやすいってば。はい」


 パウチからグミを一粒渡され、ちょっとだけモヤモヤしながら受け取った。

 俺は相変わらず表情に出るらしい。そんなにわかりやすいか、俺。


「……ねぇ、さっきから撫ですぎじゃない?」

「いや……柔らかくてさ。つい……」


 本物じゃないとはいえ、役割を果たしたはずのこいつは消えずに俺に撫でられたままだった。しかも気持ちよさそうに目を閉じやがる。

 虎ってネコ科だっけ? 忘れたけど、猫と遊ぶ時みたいな癒しがほわほわとやってくる。

 どうしよう、可愛い。

 寝転んでお腹を見せてきた。


「……凪って、どこまで私たちのことわかってるんだろうね」


 未来も隣にしゃがんで、そーっと撫でる。

 今の言葉の意味はなんとなくわかる。さっきのメールの内容、プリンは主に未来宛てのリラクゼーションだったけど、この虎さんは猫好きの俺へのものだろう。

 だから耳がとんがってる。でも牙は虎の要素。

 凪さん、虎のイメージで固めてるからきっと編むの失敗したんだ。

 ただそれが可愛らしい。ファンタジーな虎猫さんだ。


「神の目でも持ってんじゃね」

「どこからか見てる?」

「多分俺らの背後から」

「怖いこと言わないで。ぬーんって覗き込んでる凪を想像しちゃったよ」


 ぬーん凪さん。そんな想像はしてなかったんだけど、未来がやって見せるから俺は噴き出しそうになった。

 久しぶりにノリのいい会話。

 しばらくすると、虎猫は爪の方からほどけて金色の糸に変わり、最後には空中に消えてしまった。

 役目を終えたから。癒しが済んだからだろう。

 ちょっとだけ寂しい気持ちを抱きながら、じゃあプリンをいただくかと話をする。

 なんだかピリピリする手のひらを確認した。


「……大丈夫?」

「んー……。可愛いあいつも、やっぱ凪さんお手製なんだなって」


(いと)】で出来た獣は、俺の手をズタズタにする毛並みを持っていた。

 未来の手は無事らしい。ということは触っちゃいけないんじゃない。俺が撫ですぎた。

 それはもう凪さんの想像以上に、キモいぐらい俺が撫ですぎたんだ。

【第二一五回 豆知識の彼女】

『竹』の解除はほとんど時間を使わなかった


朝ごはんを食べまして、隣町まで歩いて博物館で少し待機、湊の【拘泥(こうでい)】や凪の【(いと)】を合わせて『竹』解除、臨世が本物か調べて今後の動きを決めて……と、色々したはずなのですがまだ午前。

未来と凪の予想ではもっとかかる予定でした。けれど何者かの手によってその時間はほぼカット。

これ以降は凪たちの役割として、未来と隆一郎は作戦から離脱します。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 予想と共有》

凪視点にて北海道支部へ。支部の準備を待つ間、『竹』を弄ったのは誰か?の部分を凪は考えます。

どうぞよろしくお願いいたします。

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