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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第一九九話 遠征の黒さとお口チャック

前回、流星が口を滑らせました。

 挿絵(By みてみん)


「……まぁ、ホント言ったまんまでさ」


 取引成功。ありがとうみかん。


「遠征で宿泊施設なんか今まで使ったことないんだよ」

「一度も、ですか?」

「おう」

「今回が初めてっ?」

「そー」


 流星さんは答えながら机に腕を置く。

 だからみんなテンション高いんだよと、若干話から逃げたそうに頬杖をついて付け足された。


「え……で、でも! 遠征って一日で終わるもんばっかじゃないでしょ? 大抵三日とか四日とか、凪さんだって一週間ぐらい帰ってこないことざらにあって……!」


 つい声が大きくなった俺はユキさんに『しー』をされる。

 もう夜の十時過ぎ。他に宿泊者はいないって道中に聞いてるけど、夜遅くに大声を出すのは良くない。仲居さんもいることだし。

 口に両手を置いて、こくこくと無言で頷く俺。

 子どもみたいな動きが面白かったのか、ユキさんは自分の唇から指を離して少し笑った。


 ――やば……このひと笑顔までかっけぇな。


侶伴りょはん】によって一度魅了されたせいか、やけにユキさんの綺麗さに見入ってしまう。

 そして思う。キューブってもしや面食いなんじゃないかと。

 だって考えてみろ。未来に長谷川、凪さん流星さんと順を追っても美形揃い。

 斎の話だと好まれる必要をなくしてみんなが扱えるようにしたのがダイスってことだったから、多分キューブに好まれる理由は判明してないはず。

 マジで顔が決め手なんじゃねぇの、と疑い始めて――ないなとすぐに確信した。


 だって俺はカッコよくも可愛くもないから。

 凪さんとユキさんから言われた『可愛い』は俺のガキっぽさに対してなのでもう忘れてる。あの可愛いは全然嬉しくない。

 球技大会の時に未来が「かっこよかった」とは言ってくれたけど、あれはバスケの試合についてだからノーカウント。

 そう、あのかっこよかったは……ノーカウントだ。


「要するに、俺らが寝泊まりする場所はどこからも用意されない。何日だろーと何週間だろーと野営やえいだったんだよ」


 勝手にへこんで魂がどっかに旅立ちかけたけど、流星さんの言葉で現実に帰ってくる。

 野営ってことはつまり、テント生活?


「……マジですか」


「マジ」


「その間のご飯とか水の調達はどうしてたんですか?」


「現地でどうにかしてたな。こっちからはとりあえず『たべるんバー』だけ持ってって、そこの住人にお願いするか親切な人が色々くれたりすんだよ」


「それも人がいればの話だけどねぇ。この間の九州は壊滅状態だったからそんな温かいものはなかったし、バーだけあれば栄養も水分もちゃんと摂れるし……あ、でも休憩がてら魚をりに行く人はいたかなぁ」


「新鮮なお魚って美味しいよね〜」と続けて、湊さんは当たり前みたいに笑う。

 いや……笑って流せるような話じゃない。

 だって現場のマダーじゃどうにもならないから精鋭部隊が動くんだ、ただでさえ危険な土地で日数もかかるのに物資も宿舎も提供されないなんて、ブラックにも程があるだろ!?


「ちなみに用意される『たべるんバー』は司令官のポケットマネーからだよぉ」

「な……本部とか、国の補助はっ?」

「国からしてもらったことは何もねぇよ。本部も本部で大した費用貰えてねーし、ぶっちゃけ足りてねーから逆にこっちから断って……ってあ、やっべ」


 また口を滑らせたのか、流星さんは組んだ手におでこを当てて後悔してる。

 知らないことばかりの俺はそんな反応をされなければ深く考えなかっただろうけど、このやっちまった感を見るに本部のお金の話はタブーなのかもしれない。


 流星さんは無言でユキさんに目を向ける。

 助けを求めるような視線を受けてユキさんはちらりと国生先生の方を見る。俺もユキさんの影に隠れながらこっそり見るが、先生はこちらの話は聞こえてないっぽい。

 斎の研究所にあったみたいな半透明の青いタッチパネルを叩いて文字を打ち込んでる。お仕事だろうか。


「……費用が不足している理由は、俺たちだけじゃなく本部の人間でも知らないと聞く。みんな気が立つから話に出さないようにと、司令官からお願いされていてな」


 すっ、とユキさんが腰を上げる。

 机に用意されていたお茶セットから湯呑みと急須、茶葉を取って流星さんと湊さんの後ろを通り、備え付けのポットの前へ移動。

 湯で温めるひと手間を加え、慣れた様子でお茶を淹れる。歩き方も何もかも、びっくりするほど綺麗。


「国生さん。良ければ」


 隣の部屋へ持っていって、お茶を出すユキさん。ありがとうございますと先生の声が聞こえる。

 受け取ったお茶を口に運ぶ先生へユキさんが何かを話してる。空気はすごく和やかだ。


「一年以上寝ててあれか……やっぱ動きキレーだよな」

「ねー。流星も見習わなきゃ」

「っせーなぁ……」

「言葉づかいも」

「いいんだよ俺は、これで!」


 また流星さんと湊さんのじゃれあいが始まった。

 チョップとか目潰しとかすげぇ危ないのも入ってるように思うので俺は少しだけ距離を取って見守る。

 ぎゃーぎゃー言ってるだけかと思えば、会話からユキさんの情報が一つ増えた。


 どうやらユキさん、日本舞踊を幼い頃から習っていたのだとか。【侶伴りょはん】の影響で寝てない限りは毎日欠かさず踊っていたらしい。何をしても綺麗な理由はそのおかげなんだろう。

 ぼーっと見ていると、ユキさんが立ち上がってこちらへ戻ってきた。部屋を出る際、襖を静かに閉めて。


「こっちでうるさくしてたら邪魔になるからって閉めてきた。口が滑ってもいいように」

「おおっ! さんきゅーユキ。すんげー助かる」

「流星が特にうるさいって言っておいた」

「はっ!? なんで俺、イチだろそこは!?」

「今現在うるさいのが流星だ」

「なっ……ぐ、このっ……!」


 ああ、言い返せてない。言い返せてないな流星さん。


「笑うなイチッ!」

「ぶはっ、ごめんなさっ……だって、なんか流星さんのイメージ崩れちゃってっ」

「あぁっ!?」

「ふ、ふふっ……!」


 俺があんなに言葉で勝てない流星さんは、同年代や年上には負けるみたいだ。

 ヤバい。可愛く見えてきた。こんなこと言ったら絶対ぶん殴られる。早く笑いを抑えなくちゃ。


「こんの……イチといいガキんちょといい、クソ生意気なまいきな後輩どもっ!」「ガキんちょ?」「この際だから俺っつー大先輩とお前らとの力量差をハッキリ見せてや……へ!?」


 流星さんのワナワナ声に交じってきた、よく知る声。

 あ、と思いながら全員が見た部屋の入口には――旅館巡りを終えてヘトヘトになった未来と、声の主・凪さんが冷たい笑みを浮かべて立っていた。

 ……流星さん、南無なむ


「まっ、待て弥重!? いいい今のはゴカ、いあぁぁぁぁ!!」

「ごめんなさいは?」

「ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいもう言いませんって、くは、やめっ……ひゅひゃひゃひゃひゃぁっ!」


 凪さん必殺、光の球によるこちょこちょ攻撃。

 流星さんが仰け反ったりまん丸になったりとゴロゴロ横に転がり出す。叫びまくる。


「流星はさぁ、やっぱりばかだよねぇ」

「弄りがいがあって楽しいな。助けてやるか?」

「見てるの楽しいから僕はパース」

「じゃあ俺もパスで」


 暴れる様子を微笑ましそうに見る湊さんとユキさん。

 襖を閉めてもこの声量じゃ怒られるんじゃと心配になるものの、先輩二人が笑って見てるので俺も助けには入らない。

 疲れた未来を座らせみかんを一つどうぞして、凪さんの気が済むまでひたすら待つことにした。

【第一九九回 豆知識の彼女】

隆一郎と流星の弄りやすさは同じくらい


隆や未来に対してなら流星も弄ったりできるものの、その他の人からすれば流星だってとっても弄りがいがある可愛いお友だちです。

残念だったな流星、君は弄られる側だ。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 明日の詳細》

かなりわいわいしていたみんなを引き締めるのはやはりあの人。明日の予定を話し合います。

どうぞまたよろしくお願いいたします。

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