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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
201/282

第一九三話 明確でない探し物

前回、未来と凪は話し合いをしました。

 挿絵(By みてみん)


 凪さんが未来と話している間、俺は船首で湊さんと過ごしていた。

 二人が何を話しているかは気になる。めちゃくちゃ気になるけど、あの場に俺がいると邪魔だろうから。

 弱さを見せたがらない凪さんと、強がりな未来。似た者同士の会話に割って入るのはさすがに気が引けた。


 ――補完はお互いがするだろ。俺はいなくても大丈夫だ。


 二人の会話に俺は必要ない。いちゃ、いけない。

 だから聞かない。絶対、聞いたりしない。

 寂しいなんて、思わない。思わないったら思わない。

 絶対。ぜったい。ゼッッッッタイ…………。


「……キューブに頼るぐらいなら一緒にいれば良かったのに」

「俺も思いましたぁ……」


 残念ながら、寂しさに耐えられなかった俺は去年編み出した技【不知火しらぬい】を使って二人の会話を()()()()することに成功した。ふざけんな俺。ぶっ飛ばすぞ。


「なんで俺は……ああ……」

「ばかだなぁ」

「湊さぁん……」

「はいはい。寂しかったもんね」


「いいこいいこ」と、三角座りで項垂うなだれる俺の頭を湊さんは撫でてくる。しかし俺のダウン状態は戻らない。

 だって二人が何も気にせず話せるようにって外に出てきたんだ、こんなの使ったら台無し、むしろマイナスじゃないか。


「俺は俺が嫌いです……」

「まあまあ」

「【不知火しらぬい】を使ったなんてバレたら……ああ……」


 間違いなく、凪さんいかりの拳が飛んでくる。

 だって遠回しに怒られたことあるもん。あの時使ったのは凪さんじゃなくて未来と斎に対してだったけど、あんまり使うなって言われたもん。

 斎本人にもバレて怒られたもん。


 ――本気でキレたわけじゃなかったけど……でも怖かったなぁ。


 普段穏やかなやつがプチッとくるのは怖すぎる。

 だからお師匠モードじゃない凪さんのにこにこ顔が消えたあかつきには俺は……ダメだ考えたくない。


「それにしても、可能をで【不知火しらぬい】かぁ。遊び心があっていいね」

「なんで好印象なんですか……」

「便利だもん、会話と心の声を聞く技なんて。僕もやりたい」

「俺は胃が痛いですよ……」


 いいなぁいいなぁ。心底羨ましそうな湊さんは俺の頭を撫で続ける。

「僕に聞かせたわけじゃないんだからさ」と励ます傍ら、俺の髪をいじって楽しんでる。

 元々ボサボサだし別にいいけどさ。


「湊さんて、俺の友だちにちょっと似てます」

「ん? そう?」

「はい。ちょっとですけど」


 どこだろう、性格は全然違うけど微妙にバカにする感じとテキトー加減、優しさもかな。秀と話してるみたいでやたらと落ち着く。あいつに言ったらまた気持ち悪いって怒られそうだけど。


 ――しばらく東京にいないこと……みんなにも言っといた方がいいよな。学校とか、そういえば当番も……。


 思考が一度どんよりしたせいか、放置してる色んなことが気になりだした。

 秀には昼間電話で伝えたからあんまり心配してないけど――当番一人で任せられるぐらいあいつは強いし――普段未来と頑張ってる斎は誰が一緒に行ってくれるんだろう。

 東京はマダーの数が少ないからメンバーの移動も難しいらしいし、かと言って新米を一人にさせるわけはない。連日誰かが戦うことになるのかも。


 学校は? 未来がいないってなると長谷川と加藤が発狂しそうだし、それを宥める阿部はきっと大変で、二年の時と違ってムードメーカー斎は一緒にいないんだから二人が余計に暴れ回って……主に長谷川が暴れたら世紀末よぎみ先生の心労が……。


「……みんな大丈夫かな」

「周りが心配?」

「はい、ものすごく」


 なんでこんなにあいつらのこと心配してんだって自分でも思う。だけど色々気になって、頭の中がどんどん不安で埋め尽くされていく。

 俺ってもしや過保護なんじゃないだろうか。


「わかるよ、色々考えちゃう感じ。初めての土地だし、毎日一緒にいた子たちと離れていつ帰れるかも不明。気になって当然だよ」


「湊さんも最初の遠征ってそうでした?」


「そりゃもちろん。不安でいっぱいだった。でも近くに凪も流星もいてくれたし、一緒には行けないけど司令官がバックで見てくれてることを知ってからは安心できたかな」


 食い気味に聞いた俺へ、湊さんは懐かしそうに空を仰いで教えてくれる。

 人がいない間の当番の調整、関係のあるマダーへの報告、逐一ちくいち指示と普段の生活圏の情報共有。

 俺たちが今どこまで進んでどんな状況か、本部で見てるし動いてくれている。

 俺が不安に思ってるほぼ全てのことを司令官がちゃんとやってるから安心しろと、説明しながらポンポン頭を叩かれた。


「ちなみに学校を休ませる連絡とか理由、あと補習のお願いもしてくれてるよ」

「そんなところまでっ?」

「そう。凪があんまり学校に行けなくても進級できるようにって、校長に直談判じかだんぱんしに行ったのが始まりらしい」


 だから学校へ行けた日は頭がパンクするほど詰め込まれて帰ってくる。先生方が纏めた授業のノートと任意の課題を持って。


「あの、一気に何日分の補習を?」

「直近では僕と流星含めて一ヶ月だからなぁ。何日にわけてくれるんだろう。帰ってからが恐ろしいよ」


 ふふ、ふふふふふ。笑顔が怖い。怖いです湊さん。


「脱線した。とにかく隆一郎君が心配すべきなのは、未来ちゃんの心のケアだけだよ」

「未来の……」

「うん。友だちには連絡してあげたらいいと思うけどね」


 締めのようにポンと頭を叩かれ、湊さんの手が離れていく。顔を向けると『拘』の文字がちらっと見えて、いつでも戦えるようにしているのだと改めて気付かされた。


「……あっちに着いたら、日中もずっと戦闘ですか」


 問う。境界について教えられて以降ずっと気になっていたことを。

 今は警戒で済んでるけど向こうに着いたらどう動けばいいんだろう。どんな心持ちでいたらいいんだろう。


「ずっと、ではないよ。僕らが行ってた九州遠征と違って、危険だけどまだ人が住める土地だから。住民がいない地域では緊張感を持ってほしいくらいで」


「死人の声を聞いてやることは、できないんですか」


 前のめりになって聞く。

 長いこと考え込んでいた未来は、凪さんが部屋に来るまでに答えを出さなかった。

 あいつが求める戦い方は北海道そこでは通用しないのか、ほかの誰かの考えを聞きたかった。


「声……かぁ」


 にこにこ顔が、消える。


「自分と周りの命に責任を持てるなら、やればいいんじゃない? たった一体のために周りがどれだけ危険に晒されるのか、自分の目で見てまだそんなことが言えるなら……未来ちゃんも隆一郎君も、前線にいるべきじゃないだろうね」


 軽蔑、侮蔑ぶべつ、不愉快。

 いや……興味と恍惚こうこつ、楽しみ。

 わからない。今の湊さんの心情が。


「不安だったでしょ、知らない土地へ行くの」

「……はい」

「未来ちゃんが目指してるのはそれと同じなんだよ。できるかわからない道を進むのは怖い。多くの人がもっと堅実な方法をとる。けもの道よりアスファルト、マダー流に言うならマテリアルよりも超強化マテリアル、ってね」


 怖がらせたと思ったのか、湊さんはあまり慣れてなさそうなボケを繰り出した。

 無表情になったことを利用して「おっと」とわざとらしく頬のマッサージをする。


「わるいけど僕は凪みたいに柔軟にはなれないし、心の広さも持ち合わせてない。未来ちゃんと隆一郎君のことは好きだし可愛い後輩だけど、そういう意味では味方になれない場合もある。それは覚えておいてほしいかな」


「マダーとしてなら未来ちゃんが先輩か」と、湊さんは破顔した。

 それ以上『もしも』の話をするつもりはないらしく、よく見えるようになってきた土地へ視線を投げたまま動かない。

 近くはないが、どこからか死人の気配を感じ取った。


「……わかりました。答えは、未来と一緒に探します」

「うん。より良い選択になることを祈ってるよ」


 にこにこと笑う湊さんはフェリーを降りる準備をしに部屋へと戻っていく。船首に残された俺はキューブに手を置いて、展開してからその後を追う。

 凪さんが湊さんに逆らえない理由も、少しだけ頷けるように思った。

【第一九三回 豆知識の彼女】

凪は湊に逆らわない。


107部分《遠征-3日目-①》で湊に気圧された凪さんがちらっと出てますが、湊の言うことなら基本素直に聞きます。単純に怖いから。にこにこ顔がお怒りや無表情になった時のギャップが怖いんです。でも大好きなお友だち。


不知火しらぬい】は64部分《情報の炎》で初登場。盗聴器より危険と凪さんに言われた便利な技でした。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 和みの炎》

海へさよなら、お久しぶりです地面!

どうぞよろしくお願いします。

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