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凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ 【書籍6巻発売中!】  作者: しば犬部隊
味山只人のはるやすみ:モテ期

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83話 歴史への挑戦

 

「話が一切読めないんだが……総理殿は納得出来てるのか?」


「……ある事情によって私は彼女達の申し出を理解せざるを得なくてね。その事情はすぐにでも説明出来る、まずはゼロ君の話を聞いてみてはくれないか?」


「……うす」


 多賀総理にはかなり苦労を掛けている。

 ここは渋る所でもないので素直に話を聞く事にする。


「味山只人。貴方に、感謝を」


 銀髪エルフ――自らをゼロと名乗ったトゥスクの民が味山に向けて頭を下げる。


「貴方は停滞していたトゥスクという種に新たな可能性を魅せてくれた。我々だけでは生みだせない素晴らしい混沌。これはトゥスクにとって非常に有益な気付きとなった」


「……アンタ達の懐が想像以上に深くてこっちも嬉しいよ」


 味山只人のトゥスク融和作戦。

 何てことはない、昔から二ホン人が新しくは外国人へ、そして古くは――神に向けて行っていた事。


 食事を用意し、歌や舞でもてなし、楽しませ――もてなす。


 おもてなしによって、異なる存在を自らの共同体に取り込む。


 それは行き過ぎれば取り込んではならないものを増長させることにもなるが、その時はその時で一気に豹変し異物を排除する。


 和と夷。古来より、二ホン人はこの両面を操り異なる者と接してきた。


 味山がやったのは、それの再現にすぎない。


 トゥスクの価値感に、戦闘以外の何かを芽生えさせる。


 TIPSの情報を元に、トゥスクを引き入れる為に必要なのは、彼女達を脅す事でも支配する事でもなく、彼女達に人の価値を認めさせる事だと確信していた。


 トゥスクの民という異物と二ホンがこれからどうなるのかは分からないが……。


「懐が深いのは、貴方。いえ、貴方というよりこの共同体、この国だと思う。あなた達にとって異物であるはずのトゥスクの歌や舞いを既に、多くの二ホン人が好意的に受け入れている。同胞の中には困惑している者や疑う者も一定数いるが、多くのトゥスクは自分達の歌や舞を人類に見て貰えるのを嬉しいと感じている」


「そりゃリアル銀髪エルフがボカロやネットミームダンス動画出したら皆絶対に見る……いや、なんでもねえ、続けてくれ」


 ビジュ良、全員規格外美人銀髪エルフ集団、トゥスク。

 彼女達は二ホン人と、そして現代のネット文化との相性が良すぎた。


 トゥスクは全員無表情で、何を考えているか分からない機械のような生き物だが……食と歌と舞の時だけは笑うのだ。


 ソフィやグレンが最近ノリノリで投稿しているトゥスクの民に様々なグルメを食べさせるだけの動画は常に大人気。

 アレタや貴崎、トゥスクの民がダンスの練習をするショート動画は、公開から1日で億再生を突破していた。


「我々トゥスクは現在、対神秘種の同盟対象を人類全体に拡大した。あなたの目論見通りに」


「……気付いていたのか?」


 ゼロは頷く。


「貴方は脅しでも交渉でも取引でもなく、我々を文化という力で魅了した。当機もそして同胞もその事を不快とは思えない」


「故に、生命の価値基準を個体の戦闘能力だけではなく、より広い視野で判断する事とした」


「貴方が同胞に飲ませ、食べさせ、触れさせた文化。あれは、我々のこれまでの価値基準、個体としての強さのみを至上とするトゥスクでは生みだせなかった」


「そして――我々は気付いた。今も我々の価値観は変わってはいない。闘争、それこそが我々の存在意義。しかし、闘争には様々な形がある事を知った」


「美味なる食事を作る事も闘争だ。その材料である素材を育てる事も、採取する事も。それらを運ぶことも、それらに関わるあなた達の働き、その全てが闘争である」


「歌や舞の稽古、娯楽の提供、ゼロから1の創造。そしてそれらを生みだす為のヒトの営み。家族を作り、養い、慈しみ、育てる。その為に行われる我慢、克己、諦め、挑戦。なんの戦闘効率にも及ばない些事の全ても闘争。――貴方達の営みは美しい、それが当機達が出したトゥスクの総意である」


「……お、おお」


 想像以上にこちらに親近感を持ってくれているらしい。

 味山は少し、いずまいを正す。


 まさか、ここまで高評価とは……嬉しい誤算だ。

 味山の予想ではここまでトゥスクが態度を軟化させるとは思っていなかった。


「当機達の当初の認識は大きく変わった。人類で同盟価値があるのは味山只人とアレタ・アシュフィールドだけではない。――人類その全て、そしてあなた達が生みだした、これから生み出すであろう文化を我々は愛する事になった」


 淡々と繰り広げられるゼロの言葉。

 味山と多賀、そして周囲の側近たちは思わず頭を下げる。


「……そりゃ、ありがたいな。じゃあ、もう味方って事でいいか?」


 味山は必ず聞いておかなければならない事を問う。


 ゼロは人形のような無表情のまま頷く。


 しかし、その顔が次の瞬間には、明確に暗くなった。


 無言で下を向き、長くとがった耳もしおしおと垂れて。


「故に……貴方達にどうしても伝えなければならない事実がある。これはトゥスク全個体、そして女王個体も同意しての提言……同盟相手の情報提供と受け止めて欲しい」


「……続けてくれ」


「単刀直入に伝える。――この素晴らしい人類の文化はまもなく消滅する」


 会議室に緊張が走る。

 総理の側近たちは焦りや驚きの表情を浮かべ、互いに顔を見合わせる。


 唯一、動じていないのは。


「「……」」


 味山と多賀のみ。


 滅びを知るこの2人からしてみれば、手応えのなかった定期テストの結果が予想通り悪かったくらいのショックだった。


 つまり、結構きつい。


「……やっぱ、ダメそうか? お前達が味方についても」


 味山の問いに、ゼロが頷く。


「現在、全トゥスク個体のうち、人類の滅びを受け入れる事の出来ない90%以上の同胞が13922回目の再演算を行っている。しかし、恐らく結果は変わらない。今度2年以内の人類存続の可能性はゼロに近い」


「……神秘種、かね」


 多賀の言葉に、ゼロが小さく頷く。


「正確に言うと――神秘種ゼウス。彼の存在があるかぎり、人類に生存の未来はない」


 ゼロの話。

 他の神秘種はあくまで、人類を自分達の道具や資源化を狙っている。

 あくまで、神秘種の敵は神秘種というワケだ。


 でも、ゼウスは違う。

 その神秘種だけは明確に、人類を敵として認定している。


「他の神秘種が人類の資源化を主としているのに対し、ゼウスのみは明確に人類という種の討滅を宣言している。そして、残念なお知らせがある」


「聞くしかないんだろうな」


 往々にして、大人になってから聞かないといけない話というのは、聞きたくない話である事が多い。


「神秘種ゼウスによる、他の強力な神秘種の討伐が進んでいる。地上への侵攻権を持つ有力な神秘種の神性がゼウスに統合されている」


「……それ、もしかしてパワーアップしていってるって話か?」


「そう受け取ってくれて構わない」


「「……」」


 味山と多賀が同時に似たような苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。


 なんでラスボスがレベリングしてんだよ。


「複数の神性を持つゼウスは本来の神話に近いスペックを取り戻している可能性が高い。人類を指先1つで滅ぼす事すら可能だろう」


「味山只人、アレタ・アシュフィールドの生存も危うい」


 トゥスクから告げられる、確定した滅びの事実。


 だが、しかし、ゼロの話はそこで終わりではなかった。


「しかし、我々トゥスクの演算は今も継続している。――ゼウスに対抗する手段を提案したい」


「……! あるのか? ……いや、そうか、それが、さっき言っていた……」


「ダンジョン、神性、トゥスクの技術を使っての時間遡行――遡行ダンジョンの攻略」


 ゼロの話は続く。


「ダンジョンという空間に作用するバグ、世界の法則を意のままに定義する神性、そして我々の持つ”魔力”と呼ぶエネルギー。それらを使えば、時間の遡行が可能」


「タイムスリップ……SFの話になってきたな」


「細かな説明はしない、これは人類が今後1000年継続した場合にたどり着く科学技術、故に解説はしない、ただ、条件がそろった人物を、条件の揃った時空間に一時的に転送できるものと理解してほしい」


「条件付きタイムマシンじゃん……」


「理解が早くて助かる、これも文化のなせる技。大丈夫、この技術を想像し、それを創作出来るという事は必ず人類は時間移動にたどり着く」


 ゼロが、わずかに微笑みを見せる。

 それは年長者が年少者に向ける微笑みと似ていた。


「だが、それも神秘種を斃さない限り訪れる事はない、そういう事だね」


 多賀の言葉に、ゼロは頷く。


 味山も割とすんなりこの状況を受け入れる。


 世界を変える遺物、アムネジアシンドローム。

 そして世界の時間を巻き戻す遺物”観弥勒菩薩上生兜率天経”。


 そういうぶっ壊れアイテムがある世界だ。

 個人のタイムスリップも、まあ、出来るのだろう。


 だが、味山には1つの疑問があった。


「で、その時間遡行ってなんのためにやるんだ?」


 ゼロは一瞬目を瞑って。


「目には目を、歯には歯を。毒を以て毒を。夷を以て夷を。あなた達はこれまでの歴史で素晴らしい概念を生みだした」


「神秘種には神秘種を。神性には神性を。貴方にはこれからニホンの歴史において失った神性を、連れ戻してほしい」


「……え?」


「あなた達二ホン人は、多くの神を奉り、それと共に生きてきた人種。しかし、多くの二ホンの多くの神は神秘種にならず、そのまま消え去った。それは神の在り方としては正しいが、この状況においては美味しくない」


「……神を、神性を連れ戻す?」


「そう、ダンジョンの世界を渡る特性、神性の持つ世界の法則をゆがめる特性、そして我々の魔力があればそれが可能、何より――貴方は時間をさかのぼる事がもう決まっている」


 どういう事だ、そりゃ……。


 味山の疑問に答える者は――。


「……味山君、少し場所を変えてもいいかな?」


「場所を?」


「ああ、その場所へ行けば、彼女の、ゼロ君の言っている意味が分かるはずだ」


「……了解です、どのくらいかかるんですか?」


「そうだね、歩いて10分くらいかな」


「10分? あの、その場所って」


「国会図書館さ。ただし――裏の、だけどね」




 ◇◇◇◇


「……なんすか、これ」


 案内されたのは、総理官邸から徒歩で10分の場所にある国会図書館。

 その地下だった。


「ここは政府要職者でも限られたものしか知らない部屋でね。公安のいくつかの課の管理となっている場所さ」


 広い地下室に並んでいるのは、本棚ではない。


 ガラスのショーケースや、高そうな金箔の箱がずらりと並ぶ。まるで博物館のようだ。


 国会図書館にはゼロと総理、総理の側近、恐らくは公安かサキモリの護衛だろう人が数人だけだ。


 ゼロを除いて、皆、緊張した面持ちだった。


「で、総理、ここが一体、さっきの話となんの繋がりがあるんですか?」


「……この場所には、二ホンで公開されていない歴史が記された書が保存されている」


「公開されていない歴史?」


「……国を治める為に、その時々の権力者たちが後世から隠した誠の歴史さ。ここに残る書物には君が義務教育で習った事とは少し異なったモノが用意されている。君に、まず見て欲しいのはこの密書かな」


 総理が指さしたショーケースには、古びた茶色い紙、墨で書かれた読めない文字が書かれている。


 達筆すぎる、かろうじて候とかは読み取れるが……。


「これは――本能寺の変で明智光秀が従兄であったともされる明智左馬之助秀満という男に送った密書でね」


「ああ……そうすか、えっと、読めないんですが、これが何か?」


 味山の問いに、多賀がわずかに息をのむ。


「……少し、奇妙な事が書かれてあるんだ。上沼君、味山君にそのままを読んであげて貰っていいかな」



「……はい、承知しました、総理」


 上沼と呼ばれた青年が、ショーケースの前に立ち、その古文書をのぞき込む。


 彼は静かな声で内容を音読した。


 ~~~~~


 急度申入れ候。


 此度の儀、最早思案の時過ぎ候。

 天下の形、お館様御一人の御威に帰し、諸将心中安からず。

 武門の道、このままにては潰ゆるべきと存じ候。


 思えば伊勢長島における御働き、

 城郭ことごとく焼き払われ、

 老若男女に至るまで煙と化し候様、

 まことに魔王の振舞と申すべきものにて候。


 世に第六天魔王波旬と申すものあり。

 仏道を妨げ、人心を惑わし、

 栄華の極みにて衆生を焼くという。


 天下を魔の手に委ね候こと、

 到底見過ごすべからず候。


 去る五月、愛宕山にて百韻を興じ候折、

「ときは今 あめが下しる 五月かな」

 と発句いたし候。


 あれは単なる座興にあらず。

 天の時、既に熟し候との兆しと、

 某ひそかに受け取り候。


 連なる句のうち、火の気配、乱の影、

 いずれも今の世を映すが如く、

 胸中の疑念、確信へと変じ候。


 丹波・近江の手筈、かねて申す通り相違無きや。

 兵は密かに集め、名目は毛利表出陣と触れ置くべし。


 亀山出陣の後、軍勢を止め、重臣どもを前にして

 初めて本意を明かすべく候。


 その時、ためらい見せ候わば軍心乱るるは必定。

 御辺は先んじて腹を定め、

「敵は本能寺にあり」と声高に示し、

 諸士を鼓舞し呼応せしめられ候へ。


 一瞬の遅疑、万劫の悔いとなるべし。


 本能寺にてお館様御逗留の由、疑い無く候。

 警固手薄にして、天の与うる刻限と見定め候。


 然るに、此度の大事、常の軍略のみにては足らず候。

 お館様既に、常人の身にあらず。我らが討つは神仏を超えた魔王なりて。

 

 しかし、ここに一人の協力者あり。


 ()()()()()()()()()()()()()

 

 その者、常の人にあらず。

 河童の水を自在にし、

 鬼の剣を振るい、

 あやかしの火を呼び

 天邪鬼を従え候。


 夜陰に乗じ候はば、

 水は堀を越え、火は軒を走り、その剣は100の兵をして値無し。

 化生の如き武、東国に並ぶ者無し。


 されども異形の力、扱い誤れば禍根とも成るべく候。

 御辺、油断無く見定められ候へ。


 明朝四ツ刻、桂川を渡り候。

 合図は愛宕の方角に上がる火。


 此度の働き、成らば天下の形変わるべし。

 不成らば、明智の名は滅び候。


 これすなわち天命と心得候。


 心定め、刃を研がれ候へ。


 恐々謹言

~~~~~~~



……なんか、急にすごい聞き覚えのある人名が出てきたな……。



御覧頂きありがとうございます。


本日2月25日に凡人探索者6巻が発売されました。


全部書き下ろしています。

web版では敵対キャラだった子がヒロインになってたり、アレタがパワーアップしてたりするのでお勧めです。

がっつり今やってるweb版とも絡んでいくので、web派の方も楽しめます。


ちょっとした非日常の息抜きにぜひ、味山と一緒にバベル島で探索者試験受けたり、地下に広がるナイトシテイみたいな街で酒飲んだり、喧嘩したり、アレタがやらかしたりするのを見て下さい。


いまからweb完結が楽しみだぜ。


引き続き凡人探索者シリーズをよろしくお願い申し上げます。


凡人探索者最新6巻

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https://amzn.asia/d/0huevZms

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― 新着の感想 ―
密書の意訳です。 多少違う部分もあるかと思いますが、 ご容赦ください。 急ぎ申し入れます。 今回の件については、もう悩んでいる時間はありません。 今の天下は、すべてお館様(信長)の威光のもとにあり…
いつのまにか更新来てた・・・相変わらず面白いです。というか6巻出てるじゃん買いに行かねば。 トゥスクの民殺したらお手軽に強くなれるよというダンジョン側のシステムが心配でしたが味山やアレタクラスの戦力…
味山の中に棲むやつらの気配が長らくないのも、これからの歴史の旅で判り解決するのかな
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