エリートの系譜
徹也は自宅に帰り、玄関でシューズを脱いだ。
「徹也、お帰り。」
母親が優しく息子を出迎えた。
「ただいま。母さん。」
「もう夕ご飯できてるわよ。」
「うん。ありがとう。」
父親が既に無言で味噌汁を啜っている。
「徹也。勉強の調子はどうだ?」
「うん。順調だよ。」
「そうか。」
徹也の父親は現役の金融庁の長官でいわゆるスーパーエリートだ。
50代も半ばながら端正で彫りの深いエキゾチックなルックスは徹也の美貌が父親譲りであることがはっきりと伺える。普段の日常会話でも無駄なおしゃべりは一切しない寡黙な人だ。その辺りのある意味で周りと距離を置くようなクールな性格も徹也とよく似ていた。
「きっと徹也なら間違いなく公認会計士試験に合格できるわね。お父さん。」
「そうだな。徹也なら間違いないだろう。」
徹也は思わず顔を背ける。こうした両親の自分に対するあまりにも高すぎる期待と評価に息が詰まりそうなほどプレッシャーを感じることが多々徹也にはあった。
"俺は果たしていつか親父を超えられるんだろうか?"
すると右足のスリッパ越しにチロチロと生温かい舌の感触を不意に感じて思わず徹也はフッと笑みが零れた。愛犬のパピルスが尻尾を振りながら徹也の足元にじゃれて絡みついて徹也の足元を熱心に舐めている。
「パピルス。散歩行こうか?」
パピルスは大はしゃぎで徹也の後を追いかける。
そんな仲睦まじく戯れている徹也とパピルスの様子を母は目を細めて眺めながらそっと微笑んでいる。




