魅了
キーンコーン・・・
始業のチャイムが鳴った。
蒔田さんの席が、空いたままだ。
「あれ、蒔田さん今日休みなのか・・・」
「わたるってば、最近はぼくより蒔田さんと仲がいいもんね?」
「貧血で倒れたから気になっているだけだ」
本当の事だ。
血を吸わないと生きていけないなんて。
だから、吸血鬼なのだろうけど。
「・・・妬けちゃうよ」
「明、何か言ったか?」
「ううん。別に」
明日には、元気に登校してくるのだろう。
*
一週間後。
蒔田さんは、しばらく学校を休んでいた。
「蒔田さん・・・来ないな。もうすぐ中間テストなのに大丈夫なのか?」
「心配ならお見舞いに行けば?・・・あ、でも流石に家は知らないよね」
「いや、知っている。明も一緒にお見舞いに行かないか?」
*** 蒔田かえで 視点
「こんな姿じゃ学校に行けない」
わたしは折本の血を吸った。
その時は何ともなかったんだけど。
吸血して三日後。
発熱したので学校を休んでいた。
熱はすっかり下がったのだけど・・・。
わたしは手鏡を見て、ため息をついた。
黒目が赤くなってしまった。
栄養が良かったのか、髪は艶々してる。
赤い目は、メガネをしても目立つ。
「あら、ルビーみたいで素敵よ?困るのだったら、カラコンでもすればいいじゃない」
「コンタクト嫌い。だからメガネしてたのに・・・」
お母様は他人事のように言う。
目に異物を入れるなんて怖くないのだろうか。
「お嬢様、折本という方がお見えになってます。お見舞いにいらしたようですがどうされますか?」
メイドがわたしに声を掛ける。
「お、折本?えっと・・・べつに通してもいい・・・でも、今の姿じゃ驚くだろうし・・・」
「以前いらした方ね?お通ししてちょうだい」
「お母様??」
勝手にお母様に許可されてしまった。
わたしは、ベッドから降りてパジャマから普段着に着替えることにした。
*** 折本 渡 視点
インターフォンを鳴らしてしばらくすると門が開いた。
流れで明を見舞いに誘ったが、断ってもらって良かったかもしれないな。
明がいたら、本音を話せないだろうし。
「折本、いらっしゃい」
「お邪魔します」
驚くことに、蒔田さん本人が玄関で出迎えてくれた。
ワンピースを着て茶色いサングラスをかけている。
「蒔田さん、体調は大丈夫なのか?」
「うん。熱出たけど下がった」
声はいつもの彼女なのだが、何か違う。
真っ直ぐ下ろされた髪は、艶々しており光沢を放っている。
俺は和室に通された。
「あの、これ。お見舞いで買ってきたんだ。良かったら飲んで」
俺はコンビニ袋に入ったお茶を手渡した。
「ありがとう。気を使わなくていいのに」
「ところで、どうしてサングラスをかけているんだ?」
「・・・見ても驚かない?」
蒔田さんが、サングラスを外すと瞳の色が赤くなっていた。
「その目の色は・・・吸血したからか」
「そうみたい」
ルビーのような美しい瞳に吸い込まれそうだ。
元々可愛らしいが、魔女のような魅惑的な感じが加わっている。
胸がドキドキしている。
彼女の美しい髪に触れたい。
「あれ・・・俺、何して・・・」
気が付くと、俺は彼女の髪を撫でていた。
恋人でもないのに、女性の髪を勝手に触るなんて。
だが、蒔田さんに触れたい欲求が勝る。
いけないと思いつつも手が止められない。
息も荒くなってきた。
俺の手は、折本さんの頬に伸びていた。
「お、折本!?」
「お邪魔するわね。ちょっとよろしいかしら?」
銀髪の女性が、襖を開けて入ってきた。
蒔田さんの母親だ。
「折本くん、あまりかえでの目を見続けないほうがいいわ。吸血鬼の瞳は魅了の効果もあるから」
蒔田さんの母は、俺の腕を蒔田さんから引きはがした。
どうやら、俺は魅了に掛かっているらしい。
俺は自分のステータスを確認すると、【状態異常:魅了状態】となっていた。
『状態異常解除』
俺は魔法を使い、状態異常を解除した。
これで魅了は解除されたはずだ。
「蒔田さんすまない。不快な思いをさせた」
魅了で操られていたとはいえ、嫌な思いをしたに違いない。
「それ、魔法?」
「素晴らしいわね。やっぱり、貴方かえでと一緒にならない?」
「何を言っているんですか・・・」
俺の心配をよそに、関心事は俺が使った魔法の話題へと移っていった。




