家に帰ってきた
チュンチュン・・・。
鳥のさえずる声が聞こえて、宿屋のベッドがいつもより柔らかい気がする。
懐かしい見慣れた天井。
あの木目のシミが、幽霊とかの顔に見えて怖いんだよな。
ってことは・・・。
「え?・・・俺、異世界から帰ってきた?」
昨夜は・・・知り合いの冒険者たちと夜遅くまで騒いでいて。
宿に戻って寝たはずだった。
俺は、折本渡20歳。
4年前・・・高校一年の時、突然異世界へ転移した。
偶然、親切な農家に拾われて世話になり生活費を稼ぐため冒険者になって。
ようやく異世界にも慣れてきたところだったのだけど。
「ていうか、4年ぶりに日本に帰ってくるって・・・ヤバイよなあ」
4年間もこっちの世界にいなかったんだ。
行方不明で、死亡扱いになっていてもおかしくない。
20歳だと大学生になってるか、就職している年齢か。
今更、家族にどんな顔して会えばいいんだ?
「「バン!」」
勢いよくドアが開かれる。
「「お兄!朝だよ!」」
「へ?」
目の前には、不機嫌そうな顔をした妹の真奈美が立っていた。
記憶にある、小学生の頃の真奈美だ。
あれ?4年経ったんだよな?
小柄な妹だが、もっと大きくなっても不思議じゃないんだが。
「何だ起きてるんじゃん。早くしないと学校遅れるよ?・・・って何その格好・・・」
今着ている服は、異世界のゴワゴワした素材のシャツに、紺色のズボンだ。
「えっ?学校?」
「何寝ぼけてんの。この間、高校に入ったばかりでしょ?早く制服に着替えなよ」
「真奈美、今日は何年の何日?」
「はぁ?そこにカレンダーあるじゃん」
壁に貼られたカレンダーを見ると、異世界に転移した年のカレンダーだった。
もしかして、転移してから時間が経ってないのか?
「お兄、熱でもあるの?何かぼーっとしてるし」
「いや、大丈夫」
「なら・・・いいけどさ」
顔を洗って、着替えを済ませる。
こんがり焼けたトーストをかじりながら、朝のテレビを眺めた。
今日の天気はどうの・・・ってアナウンサーが喋っている。
当たり前だが、魔物の心配をしなくていいんだよな。
ああ、本当に帰ってきたんだ。
「平和だな・・・」
「ねえ、本当に学校休まなくて平気?って人の心配してる場合じゃない・・・遅刻しちゃう。学校行くなら鍵かけといて、先に行ってるね」
パタン。
真奈美は公立の小学校に通っており、来年は中学生だ。
「学校か・・・」
何年も行ってなかった学校に行くのは気が重い。
あまり通っていなかったせいで、教室の場所を忘れてしまっている。
「まあ、誰かに聞けばいいか。面倒くさいな」
*
「わたるーおはよー」
校門の前で突っ立っていたら、懐かしい声が聞こえてきた。
幼なじみの明だ・・・ってやばい。
久し振りすぎる。
まさか、元の世界に帰ってこれるとは思ってなかったから。
「あきら・・・」
「まさか、泣いてる?何かあったのか?」
「・・・目にゴミが入っただけだ。えっと、教室はどこだっけ?」
「ならいいけど。教室なら・・・」
助かった。
クラスメートの明に出会わなかったら、職員室で教室を訊かないと・・・と思っていたからな。
「ていうか、わたる急に背伸びてない?それに何か・・・雰囲気が少し変わったような気がする」
「え?」
何せ4年も経ってるからな。
そりゃ、変わっていても不思議ではない。
「ほら、男子の靴箱はそっち。ぼくはこっちだから」
「ああ、うん。わるいな」
口調が「ぼく」だが、明は女子なんだよな。
女子にしては、髪が短めで前はよく男子と間違われていたっけ。
小学生の頃はいつもズボンだったから、制服のスカートが新鮮に映る。
地味な紺色のスカートにほっとした。
異世界だと、きわどい恰好の女性冒険者がいて目のやり場に困ったからな。
「何ジロジロ見てんの。変なわたる」
「ああ、明スカートだなって思って」
「・・・うん。ぼくもまだ慣れない。男子と同じスラックスが良かったな」
「・・・ごめん」
「何で謝るのさ。ほら早く教室に行くよ?」
「お、おう」
ギュッと明に手を握られる。
久しぶりの彼女の手は、柔らかく温かかった。




