表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/98

第88話 開拓地地下区画にて

 基地に関しては広々としていて開放的にも見えるが、子供達には近付かないようにして欲しいと伝えておく。いや、子供の遊び場としては最適な空き地等もあるからその辺は使わせてあげられないのは残念ではあるのだが。


 機動兵器や自走砲の訓練などにも使うし、工作機械や合成機械に素材を入れて必要な部品を作ったりいたり、生産工場や加工工場としての役割を担ったりしている建物もあるから危ないのだ。特にこれからは広場でユグドライア達を動かして実際の訓練も行っていくことになるだろうし、尚更立ち入りに関しては注意が必要になってくる。


 さて。孤児院周辺……地上部分は農村のような雰囲気になっているが、地下にもシェルターと居住区が作られていたりする。食料や兵器の貯蔵。治水、飲み水や農業用水の確保を兼ねた貯水槽兼、暗渠区画……そう言ったものが既に地下部分に作られており、この地下部分こそ最終的に対アストラルナイトでも籠もって戦ったり、非常時に避難したりすることが可能な要塞になる……予定ではある。

 下水回りは汚物を処理してくれるスライムがいるお陰で、本来必要なスペースをかなり省くことができるのが有難いな。配管や処理槽がいらないので色々融通が利く。


「……私達には正直ソーマ様やエステル様の技術は色々未知で検討のつかない部分が多いですが……長閑でいい場所ですね、ここは」


 エデルガルトは村の通りを歩き――そこからの眺め――村の外側に広がる畑と果樹園を見ながら言った。


 結構な面積が耕作地となっているな。開拓地周辺に張った結界のお陰で、昼間でもヴァルカランの面々で作業をしたりしていて中々にファンタジーな雰囲気である。


「農場側は……。そうだな。畑や果樹園の端のフェンスまでなら子供達も移動しても大丈夫だ。開拓地内部扱いだから、事故も起こりにくい。後で子供達も連れて見学に行くと良い」


 フェンスの内側までが開拓地という扱いだ。ヴァルカランの呪いは彼らを国土に縛り付けるためにロジカルというか、法やルールに厳格だからな。魔道具を使っていない者は共同開拓地内には入れず、無理にそうすると国外に出たような扱いになって回帰が働いてしまう状態である。

 実際はフェンスの外に出ても周辺のヴァルカランの面々は皆魔道具を装備しているので安全だが、念のため、という奴だ。

 それに、憎悪が抑えられるようになった分、ヴァルカランの面々も魔物を執拗に狩ると言うほどでもなくなったから……フェンスの外に出た時の魔物の被害も今後は増えるかも知れない。子供達が魔物に襲われるようなリスクは排除しておきたいしな。


「分かりました」

「衣食住はとりあえず心配しなくていい。何か仕事がしたいなら、作物の植え付けや収穫を手伝ったり、集落の仕事や魔道具作りの手伝いあたりをしてくれれば現状では十分、かな」


 ヴァルカランの面々が生前の仕事ができると張り切っているので人手という面では足りていたりするのだ。世話になっているだけでは気が咎めるというのなら手伝ってくれればいい。子供達にとっても将来の職業訓練にもなるだろうしな。


 俺達はそのまま集落内を移動し、農村部に作った集会所へと向かった。ここから地下区画へと降りられるようになっている。


「地下――地下区画ですか」

「避難用設備だな。昼間にヴァルカランの人達が待機しやすい場所が必要だったり、いざという時にエルフ達が避難したりできるようにと考えて作られている。今もまだ建造中で、外側に拡張しているんだ」


 集会所の一角――地下に繋がるハッチを開いて内部へと入る。


「……床や壁が……何で作られている……のですかね。見たことのない建築様式です」

「扉も不思議な感じでしたが、天井も……不思議な光り方をしていますね」


 そう。扉はハッチだし内部は人工的な照明で明るく照らされている。動力が魔力になっているが、宇宙船の内部のような内装というか、そのものだな。

 建造に使われた工作機械は、本来地表から避難して地底にシェルターを作るというもので、必要な素材を投入してやることで地面を掘り、設計図通りに地下区画――シェルターを形成してくれる。

 元は惑星開拓用の初期工事に使われるものだ。軌道上から素材を現地で収集する機械と合わせて降下させてやれば、惑星に降りて活動するためのシェルターを3Dプリンターで作ってくれる。


 ナノマシンが制御されている状態でどうやってそれを用意するのかがネックだったわけだが――。ヴァルカランの面々が修復のために大量に資源を集め、魔道具や修復用の材料以外のものが使えるようになった。そこに魔法もあるので制限を迂回して色々できるようになったというわけだ。


 後は工作機械内部の設計図をちょっと弄ってやれば、地上の地形と建物を維持したまま、地下にこうやって色々作ることができる、というわけだ。


 階段を降りていく。システマチックで光のラインがところどころ走っている白い壁の突き当りは……また扉になっていた。扉の横にはパネルがぼんやりとした光を放っている。

 認証式の扉でセキュリティの向上も兼ねているが、肉体を持たないヴァルカランの面々もいる。魔力の波長で認証を行う形式となっている。


「エデルガルトさん達の認証登録もしてしまいましょうか。パネルに順番に触れていって下さい」


 エステルが管理者権限で扉のシステムをいじり、エデルガルト、グラシエーラ、カーシャにロスヴィータと順番にパネルに触れさせて登録をしていく。タッチするだけで魔力波長を読み取り登録が終わるという手軽なものだ。


「見て下さい。私も人の形を取ってものに触れられるようになりましたよ」


 ロスヴィータがにこにこと笑いながらパネルに触れていた。

 ロスヴィータも時間経過で回復してきているらしい。人魂形態であったのが少し変形し、ぼんやりとした人間の上半身のようなシルエットになってパネルに触れていた。それでも登録はしっかりとできる。


 個人に紐つけられたセキュリティクリアランスで開けられる扉が決まったりはするが、今のところはただのシェルターとしての運用だ。一般的なクリアランスが付与されていれば避難に使ったりする分には事足りるだろう。


「これで次からはここに触れれば扉を開けられます。子供達も後でここに連れてきて登録だけしてしまうのがいいでしょう」


 全員の登録が終わったところでエステルが言う。


「個々人の魔力が扉の鍵になる、と言うわけか……」


 感心するグラシエーラの言葉と共にシェルター内部へと進む。最初にあったのはエントランスとそこに隣接する警備室。奥に見える通路は個室や貯蔵庫や工作室やらの部屋が並んでいるという作りだ。現時点でもエルフの集落の住民全員が退避できる規模にはなっている。


「おお。これは陛下。ソーマ殿も」


 エントランスで声をかけて来たのは2人の亡霊騎士だ。奥の通路からもソフィアと聞いてゾンビや幽霊と言った面々が警備室から顔を出している。

 俺達の世界の様式のシェルター内でヴァルカランの面々が寛いでいるという、中々ミスマッチな光景ではあるが。


「開拓地の仕上がりを見ながら、エデルガルト達の案内していたんだ」

「地下区画の居心地はどうかしら?」

「良いものですな。私達にとってみると生活のために必要な区画は無用なのですが、エルフの方々が仮眠に用いた感想としては清潔で機能的で使いやすいというものでしたよ」

「ソーマ殿が以前過ごしていた場所に似ている、とは聞いておりますが」


 ソフィアが尋ねると亡霊騎士が笑って応じ、俺にそう尋ねてくる。


「清潔で機能的っていうのはそうなんだが、ずっと過ごしていると無機質過ぎてな。俺としてはエルフの集落やルヴィアニウムの方が魅力的に見えるな」

「ソーマ。よく分かってる」


 俺の言葉にサムズアップしてくるルヴィエラである。ルヴィアニウムは湖上の城がいかにも幻想的な雰囲気ではあるな。世辞ではなく実際そう思っているのだが、その辺が伝わるのか、ルヴィエラはかなり上機嫌な様子だ。


「まあ、ソーマにしてみるとそうなのでしょうけれど。私としてはこの地下区画は目新しくて興味深いわね」

「私達も珍しい感じがして好きっていう人が多いわ。実際、とても便利なのは間違いないものね」


 ソフィアとシルティナが地下区画についてそんな感想を述べる。


 地下区画は空調も効いていて、温度、湿度も快適に保たれている。水源から引き込んだ水は地上でも地下でも使えるしな。飲み水、シャワー、トイレあたりは完備しているわけだ。


 宇宙船の場合は自室内のインテリアを変えることもできた。森林のホログラフィック映像を壁に投影して小鳥のさえずりやら小川のせせらぎを流したりだとか。

 無機質すぎると精神衛生のためにそういうものを代替でも求めるようになるものだが、ここでは外に出れば普通に長閑な光景も広がっているのでその必要もない。


 食生活も代り映えのしないレーションではない。みんなからしてみると、否応なくそうしなければならないというわけではないので、合理性と利便性というメリットだけしっかり享受できるわけだ。


「うん……。まあ……そういう反応になるのが普通なのかな」

「気持ちは分かります」


 俺の言葉に、よく分からないという反応をしているみんなと、一人だけ苦笑しているエステルである。


 施設内の仕上がりも見ていく。予定通りの進捗といった感じなのはエステルのスケジュール計算が余裕を持っているからだろう。


「コントロールルームは現在建造中ですね。まずはシェルターとして使えるよう、先に居住区画回りを優先していますから。結界の発生装置はフェンスに沿う形で敷設済みなので、もう防衛拠点や精霊の皆さんを含めた避難所としては十分に機能します」


 湖の精霊メイアから繋がる川やルヴィア湖から繋がる地下水脈の水を引き込み、巨木の精霊フラリアから苗木を分けてもらって敷地内に植えている。エルフの集落の精霊達も、ルヴィエラも、こっちに避難できるよう、飛び地を作った状態ではあるな。食料生産も可能なのである程度の篭城戦もできる……というところだ。


 コントロールルームやその他の設備についてはまだ工事中だ。そちらの区画に繋がるハッチのパネルが工事中、通行禁止のサインを送ってきており、まだ地下区画が整備し切れていない。最終的にはコントロールルームに周辺の状況、拠点の状況を把握できるような機能を持たせて、もっと高度な要塞化を行う予定だ。


 結界に関しては一応エルフの集落の防壁周辺にも展開できるように準備を進めている……が、エルフの集落の地下は植物が根を張っているからあまり大規模な改造を施したくない。精霊達の領域でもあるし自然豊かな場所であるから、あまり人工物で手を加えたくないというのが俺とエルフ達の共通の見解であった。


「とりあえず問題はなさそうだ。ゴファールの混乱を考えると、もう少し軍の派遣には期間がかかるだろうし、しっかり進めていこう」

「護衛が私の手紙と共に出奔したという情報を持ち帰るとは思いますが……。結局は神殿の問題も解決していませんからね……」


 そうだな。王城の守りを固め、調査して危険がないと判断してからだろう。

 エデルガルトの捜索と解呪のための派兵は同時に進められるだろうが、エデルガルトが目撃されたことで、東側へ向けて竜が飛び出していったのは何らかの手段で用意された見せかけ、陽動だったと彼らも気付くはずだ。


 西への道中にある孤児院に姿を見せたことから、エデルガルトの逃亡先も西の可能性が高いと判断するだろうか。現時点ではまだヴァルカランと結びついている、とまでは思わないだろうが。

 捜索や派兵する方向が同じとなると、戦力や人員の分散やそこの部分での遅延は期待できないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ