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【清掃日誌40】 ゴーレム

義弟を連れ戻し、妹の笑顔を取り戻す事。

俺の目的はただそれだけだ。




=========================




首長国側が怒り狂っている。


昨日の帝国軍の攻撃。

遂に我が軍は帝国側に1射すらしなかった。

狙撃櫓に誰も上げなかったし、故意に逆茂木を寝かせていた。

それどころか陣地付近で我が軍の兵士が帝国兵と談笑している場面すら目撃されている。

何より、我が軍が交戦を放棄した為に帝国側がその真横をすり抜けて首長国側の陣地を攻撃出来てしまった点が致命的であった。

予期せぬ角度からの攻勢に横っ腹を突かれた首長国側は甚大な被害を受けた。




ジルロン大佐率いる第1防衛隊・ロルモー大佐率いる第2防衛隊、共に壊滅。

今朝ようやく両大佐の遺骸らしきものが発見された。

両隊の数少ない生存兵が先程まで涙ながらに叫んで我が軍の不義を責め続けていた。


遊撃大隊を率いていたマルクリー大佐・パドル―大佐・キニャール大佐、いずれも戦死。

第2防衛線で勇戦していたジャコブ大佐に至っては遺体すら発見されていない。


被害総数の厳密な計測は相当の困難を伴うであろう。





一方、我が軍の死傷者はゼロ。

宣言通り帝国軍は礫一つたりともぶつけて来なかった。

我が軍(というよりレンヌ司令のみが)は数十名の帝国軍人を介錯したのみである。



条約にも協定にも何一つ抵触していないのだが…

外交的には大問題であろう。



首長国からの連絡将校が、「国王陛下が貴国に対し正式に抗議声明を発表した」とのみ短く告げて去って行った。

俺も先程まで首長国側の事情聴取から解放されたばかりである。

当然、一切情報は出さなかった。




『報告は祖国のみに行います。』




他に回答のしようも無いので、そう言い張ったが…

無論、嘘だ。

本国に対しても全ての情報は伝達する気はない。

現在の執行部は信用出来ないし、ドナルド・キーンとも100%志を共にしている訳ではない。





「だから!

何でその情報を俺に言うかな!?


オマエ、絶対頭おかしいだろ!!!」




『スマン、ギリアム。

他に託せる相手が居ないんだ。


アンタにだけは事態の全貌を伝えておきたい。

もはや、これは世界全体の問題なんだよ。』




「だーかーらー。

俺はただのヤクザだっつーの!

しかも属州人だ!


そんな重要な話を聞かされても困るんだよ!!」




『わかってる、アンタに迷惑を掛けてる自覚はある。

ただ、これだけは伝えさせてくれ。


帝国の拡大派、要するに神聖教団の傀儡なんだ。

奴らの目的は王国と帝国を講和させること。

今回の首長国への侵攻はその1手段に過ぎないんだよ。


ここから先は俺の仮説だが、坊主共は巨大な宗教的経済圏の構築を目論んでいるのだと思う。』




「だからなぁ!!!

そういう重要な事は本国に言え! 本国の税金泥棒共に!!」




『…今の執行部は教団に近すぎる。


それに、俺は戦場に残らなくてはならない。

スマンがブラウン商会に…』




「ちょっと待て!!!


残る!?

残って何をする!?

目的は達成したんだろ!?」




当初の計画とはかなり異なる形となったが、不動産取引証明書を用いた策は打てた。

(本当はもっとアクロバティックな手口を実践する予定だった)

恐らくはだが、俺が想像するより早く皇帝に伝わり、彼は動く。

それも戦場同様に神速で。




『いや、さっきも言っただろ?

帝国側は新兵器での攻撃を宣言しているんだ。


ほら、塹壕を越える能力。』




「わかってるならさっさと戦線を離脱しろよ!」




『だから、アンタは生きて帰ってくれ、とさっきから頼んでいる。

もうとっくに報酬分の仕事はしてくれただろう?』




「…なあ、ふざけんなよ。

オマエを見殺しにして逃げろって言うのか?」




『別に死ぬ気はないよ?

俺だってなるべくなら生き延びたいと考えている。』




「なるべく!?

今オマエ、なるべくと言ったか!?」




『昨日の戦闘を見ただろう。

もうここまで来れば運否天賦だ。

勿論ベストは尽くすが、それが生存率に影響するとまでは思い上がってない。


そんな事より。

俺の得た情報をジミー・ブラウンに伝えてくれ。

アンタら兄妹に報酬を弾むように頼んである。』




「それもう遺言じゃねーか!!!」




『そりゃあ、戦場なんだから

遺言くらいするよ。』




「なあ、ボス。

兵隊が戦場で死ぬのは義務だ。

何せ給料を受け取ってるんだからな。


…でもオマエは、ずっと自腹じゃねえか。」




『憲法上、義勇兵行為は市民の義務だからな。

俺は義務を履行しているだけであって、別に特別な事は…』




「その考え方が異常なんだよ!!」




さっきからギリアム・ギアとの口論は平行線を辿り続けている。

彼のみならず、皆に言わせれば俺の義勇兵行為は異常らしい。

そんなに不服なら憲法審査会に提議しろよ。

違憲認定されたら、ちゃんと帰ってやるからさ。





だから。

今はただ英霊達を弔わせてくれ。




騎士達の乗騎。

大半が主人と共に射殺されていた。

生き残りも手負いは全て殺処分された。

奇跡的に無傷で残った馬を首長国側の御用馬商人が買い上げて回っていた。


御用馬商人は、一応我が国の陣地も訪れてくれる。

必要最小限だが笑顔もちゃんと浮かべてくれた。

ただ声は乾ききっており、目に奥にはハッキリとした非難の色が浮かんでいた。


1頭だけ、不思議と俺に懐いて離れない馬がいたので、壕の総意で売却を断念した。

俺が介錯出来なかった、あの老騎士の馬だった。

馬が俺に纏わりついて縋る様子を、馬商人達は唇を噛み締めて、ただ眺めていた。



お互い、言いたいことがありすぎるよな。




=========================




帝国兵の埋葬に一区切りが付いた頃、司令官閣下に呼び出されたので出頭する。

俺が提案していた巨大塹壕の設置が許可される。

渋る幕僚達を説得してくれたらしい。

それに対しての礼を述べているうちに、ギリアムの前で必死に殺していた感情が持ち上がって来る。

愚かにも、いつの間にか司令官に議論を吹っ掛けていた。





『司令官閣下。


本来の派兵期間は満了しております。

もう帰還するべきではないでしょうか?』




ずっと溜め込んでいた不満を漏らす。

そもそも当初は1ヶ月の短期派兵だった筈だ。




「民間人の貴殿が口を挟む事ではない。」




レンヌ司令の眼や声には相変わらず感情がない。

人間性を奪うのは、軍務か? 覚悟か? 

或いはその両方なのか?




『質問させて下さい、閣下!


兵士達はいつ帰れるのですか!?

当初の計画とは全く異なっているではありませんか!


話が違いますよッ!!』




「我々の任務はその部隊名に違わず、平和の維持である。

この派兵地域に平和状態が訪れたと、我が国と首長国が判断した場合

自然に任務は解かれるであろう。」




『…そんなもの。

限りがないではありませんか!』




「軍務とはそういう性質のものだ。


いずれにせよ我が国と首長国の双方が平和維持を望んでいる限り、我々はここを去りようがない。」




『…俺は納得出来ません!』




「納得するしないは貴殿の自由である。

私はこれに干渉しない。」




『俺はッ!!』




「ポールソン清掃会社。

掘削作業に取り掛かる様に。


御社から提言した作業だ。

遂行してくれないと作戦計画に齟齬を来す。」




『閣下!

俺の言い分を聞いて下さい!』




「大尉、ポールソン氏が御退室される時間だ。

お見送りせよ。」




『閣下! 

どうか俺の話を!

閣下!


離せッ!  

オマエラ離せよッ!!』




=========================





憲兵に摘まみだされた俺は廊下で待ち構えていたギリアムに叱責される。




「…アホか。」




『ゴメン。』




「あのなあ。

憲兵が民間業者を投げ捨てるって余程だぞ!?

滅茶苦茶やり辛そうな顔してたじゃねーか!

この糞忙しい場面で兵隊さんを困らせるな!」




『…はい。』




「掘るんだろ、塹壕。

行くぞ。」




『はい。』





無言で塹壕の前に立ったギリアムと俺は、スキルを全開にして巨大な堀を制作する。



《触媒残量58%》



逆茂木に張った陣幕をブラインドにするなど、首長国の目は極力盗んだつもりだが、あいにく俺は楽観主義者ではない。




「今更スキル隠蔽も糞もないけどな。」




『こんな巨大な堀が出来てしまったらな。

余程の馬鹿じゃない限り、スキルの詳細を悟ってしまうことだろう。』




「聞かせてくれ。

何故、堀なんだ?」




『准将閣下が

《貴国らの軟弱な塹壕などは本隊の最新兵器の前に一蹴されることであろう。》

と仰ったんだ。


それが。

彼の立場で出せたギリギリのヒントなのだと思う。』





「…随分敵に入れ込むんだな。」





『人を見る目には自信がある。

その証拠にバディにアンタを選んでるだろう?』




「上手いね、このボスは。」




『首長国側にも伝えた事だが。

ニュアンスから、新兵器は投擲兵器ではないと感じた。

凍結弾の様に気体で攻撃する性質の武器とも思えない。

《軟弱》《一蹴》という表現から離れるからな。


物理力で突撃し塹壕を吹き飛ばす、叩き潰す。

新兵器はそういう性質のものだ。』




「おいおい。

決めつけは危険だぞ?

予想を外した時の事もちゃんと考えておけよ?」




ギリアムはそう危惧するが。

もう時間がない以上、対策は一点読みで行うべきだろう。




  「我々が戦場を去った後、士気旺盛な本隊が攻撃を開始する。

   ああ随分士気旺盛だよ、()()()()()()()()()()()()()

   貴国らの軟弱な塹壕などは本隊の最新兵器の前に一蹴されることであろう。」




准将閣下はそう仰られた。

間違いなく神聖教団が絡んでいるのだ。

なら、召喚を起点とした大質量突撃。

素直にそう取るのが最適解ではないか?


ヒッポーのような巨大な召喚獣を大量に呼び出して、こちらの壕を埋め潰す作戦?

だがそれは新兵器と呼べるだろうか?

わからない。

だが、新兵器とやらがどんな攻撃手段だったとしても…

眼前に広がる、この広大な堀は何かの役に立ってくれるだろう。


少なくとも歩兵・騎兵は完封出来る。





=========================





定時連絡に来た首長国の連絡将校が司令室で何事かを叫んでいる。

恐らく、突如出現した巨大堀のことだろう。

そりゃあ、詰問してくるよな。



30分程経って、連絡将校は捨て台詞を吐いて自陣に戻って行った。

もはや平和維持軍という呼称が性質の悪いジョークにしか聞こえない。

こんな部隊は派遣しない方が良かったのではないだろうか。




後から聞いた話だが。

首長国側は我が軍が巨大堀を掘削する為の機具かスキルを隠し持っていると推理している。

(正解。)

そして我が軍が首長国側へ何の通達もなく、自陣前のみに巨大堀を掘ったことが彼らの神経を大いに逆撫でしたらしい。


まあな。

もしも新兵器が質量突撃タイプだった場合、我が軍の塹壕を迂回してその全てを首長国側にぶつけるに違いないからな。

俺が彼らでも激怒していただろう。





=========================





翌日。

首長国側の斥候が命懸けで掴んだ情報を持ち帰って来る。

(ちゃんと情報共有してくれる辺り、どこぞの邪悪国家とは大違いである。)


やはり巨大質量兵器だったらしい。

かなり大型の物体が遠方を移動している場面を確認出来たとのこと。

あくまで2キロ以上離れた地点からの観測だが、生物では無かったそうだ。



…召喚説は外れか。


兵器は確認出来ただけでも22体。

問題はそのサイズ。

10メートルを越える高さだったらしい。

或いは20メートル前後かも知れない、と。


20メートルなら狙撃櫓くらいの高さか…

攻城塔?

わからん。


だが、本当にそんな兵器だとすれば、高所からの射撃を警戒すべきだろうな。

レンヌ司令の指示で急遽、射ち下ろしに応対したシフトが組まれる。




「ポールソン清掃会社。」




『はい、閣下。』




「首長国の陣地前掘削は可能か?」




『我が軍の撤兵を許可して下さるのなら。

気は向くと思います。』




「…。」




無言で司令が去ったということは、その程度では帰してくれない状況らしい。

だろうな。

誠意とは、ただ流血のみで証明するものなのだ。





=========================





翌朝。

朝日が敵影を鮮明に照らしていた。


人…  型…

人型の兵器!?



わからない。

この位置からでは詳細は確認出来ない。

ただ、人型兵器の数は30。

それ以上は地平のどこにも見当たらない。




戦術上の常識ではやや近すぎる気もするのだが。

帝国側はその場で陣地構築を始めた。

またたく間に軍用テントが広がる。


あんな所で野営をするのか?

こちらが騎兵を出せば一瞬で届く距離だが…


野戦に絶対の自信がある?

わからない?

俺の様な素人には想像もつかない。




正午を回っても敵影は微動だにしなかったので

「あれは野戦陣地に固定する防衛用兵器なのではないか?」

との憶測が将兵達の間で流れ始める。




動きがあったのは、13時過ぎ。

人型兵器が陣形のようなものを組み始める。


歩いている?

歩いた!?

何なのだ!?

やはり生物!?




「来まぁーーーーーーすッ!!!」




狙撃櫓の上の死番が叫んだ。

昨日と異なり、バリスタはフル装填している。

言うまでもなく迎撃許可は下っている。




歩行を止めた人型はこちらに向き直ると…

ん?

停止?


…いや、違う!!

直立姿勢での急接近… なのか?


ッ!?

大地を滑走している!?




…あ、ヤバい。




『死番は降りろーーーー!!!!!!

ぶつけてくるぞーーーーーー!!!!!!』




俺も含めた何人かが首長国側の壕に叫ぶ。

先日大打撃を受けたとは言え、彼らも精鋭である。

すぐに敵新兵器のコンセプトを理解し、衝撃に備える態勢を取った。




我が軍の兵士達も慌てて全員が壕内に避難する。




「対衝撃姿勢ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」



誰かが叫び終わるのとほぼ同時。





ドガ―――――――――――――――ン!!!!




という爆音と衝撃に俺は壕内で吹き飛ばされて不様に転がる。

幸い、ギリアムが保護してくれたので頭は打たずに済んだ。



何だ?

巨大堀に何かが突っ込んだ!?



いずれにせよ、未知の質量である。

巨馬や巨牛といったチャチな次元の話ではない。





俺がヨロヨロと立ち上がろうとした時だった。




ドガ―――――――――――――――ン!!!!




再度の大衝撃。

今度は恐怖のあまり身を縮める。



俺の隣に居た兵士は頭部から流血していたが、果敢に立ち上がり配置に向けて走り去って行った。

慌てて周囲を見渡す。

転倒者は多いが、怪我人は少ないようだ。

周囲で小隊毎の点呼が始まったので、俺達も業者点呼の為に集合地点に走った。




どうやら先程の2回の衝撃音は帝国の新型兵器が巨大堀に突っ込んだ音だったらしい。

点呼を終えた俺が壕の切れ目から恐る恐る覗き見ると…




意外にもそれは俺にとって見飽きるほど触れて来た物体だった。

絵物語にしろ模型にしろ極めて陳腐な題材である。、

ダンジョンの最下層でよく発見されており

博物館が考古学関連の展示を行う際の目玉品。




『ゴーレム!!』




思わず叫んだ俺に周囲が振り返る。

ああなるほど。

失礼。

模型を作ったり博物館に行く人間は多数派ではなかったよな。

ましてや軍隊に入るような連中なんて…




『あれは!

ゴーレムと呼ばれる古代遺物です!

主にダンジョンの下層で発見されます!


考古学の世界では!

古代文明の防衛兵器と認識されております!!!』





ややパニック気味の俺の叫びだったが、周囲は冷静に対応してくれる。



「レンヌ中佐のお側に!」



言いながら若い尉官が先導してくれる。

俺とギリアムは長い壕内を走る。





    ガ――――――――――――――――ン!!



    ガ――――――――――――――――ン!!





衝撃が遠い?

攻撃対象が首長国側の塹壕に切り替わった?




「中佐殿!!

ポールソン氏をお連れしました!!

敵の新型に関する知見をお持ちです!!!」





     ガ――――――――――――――――ン!!






指揮所で伝声管に叫びながらレンヌ司令は横目でこちらを捉える。

その傍らには昏倒した幕僚が寝かされていた。

なるほど、修羅場だ。




「報告ッ!」




叫び終わった司令が次は俺に叫ぶ。

俺はゴーレムに関する全ての知識を伝える。





「その怪物の起動例はあるのか!?」




『はっ!

数十年に1度程度の頻度ですが

ダンジョン捜索の冒険者が交戦記録を提出しております!』




     ガ――――――――――――――――ン!!




『…ただ、交戦時に落命する者が多い上に

冒険者は違法行為の発覚を恐れ交戦記録を提出しない事が一般的です!

実際はかなりの頻度で起動、戦闘を行っているものと思われます!』




「…自走するのか?」




『単純な動きではありますが

まるで生物の様に自律運動を行うと聞き及んでおります。』




「攻撃方法。」





    ガ――――――――――――――――ン!!





『拳による打撃!

結果として踏み殺される者もおりますが、転倒を恐れる為か積極的には踏んで来ません!』




「転倒した後どうなる?」




『すぐに起立を試み始めます。

その動きは俊敏で30秒以内に基本姿勢に戻るとされています!』




「転ばせ易いのか?」




『いえ!

重心の高さからは想像が付かない程の安定性を誇ります!

異物、多くの場合は死体ですが

死体を踏んだ場合に、その血で滑るように転倒した事例は多く目撃されてます。』




「一般的なサイズ。」




『発見された殆どが10メートル弱です!』






    ガ――――――――――――――――ン!!






「…現在、壕内に落ちているそれは目算で20メートルを越えているそうだ。

その点だけ貴殿の報告と異なる。


所感はあるか?」





『はっ!

それは召喚されたものであるからと推測します。

異世界のゴーレムに違いありません!』




「召喚…。」





『近年でも、神聖教団がワカメやヒッポーの様な有害生物を召喚して社会問題になっております!

その延長上の行為かと!!』





    ガ――――――――――――――――ン!!




    ガ――――――――――――――――ン!!







「憶測での誹謗中傷は控えられよ。」





『子供でも知っていることです!!

現に彼らは召喚能力の保有を隠すどころか誇示しているではありませんか!』






「証拠のない発言は好ましくない。


要するにだ。

貴殿は、帝国側が召喚行為によって入手した大型ゴーレムを軍事転用していると推測するのだな。」





    ガ――――――――――――――――ン!!






『左様で御座います。


一点追加させて下さい!

これだけの質量の召喚行為を行える団体など

今や神聖教団以外に存在しないと!!!』




「緊急事態である。

今は眼前の対策に専念したい。

貴殿も憶測での発言を控えるように。」




『…承知しました。

軽率な発言を謝罪致します。』





俺とレンヌ司令は無言で互いを見据え続ける。




「ポールソン清掃会社。」




『はい。』




「先程の衝撃で民間業者のシフト表を紛失してしまった。」




『…は!?』




「故に、以後の清掃箇所は貴殿の判断に一任する。


…これを持っておくように。

臨時の命令書だ。」




『閣下、貴方は…』




「行け!!

この時間は貴殿の勤務時間の筈だ!

残業に関しても無制限に許可する!


ポール・ポールソン!!!

己の職責を全うせよ!!!」





戦場を何故狂気が支配するか?

理由は明白である。

現代人が狂気と呼ぶ正気こそが戦場で最も必要なものだからである。


俺も司令も至って正気だ。




=========================




『ギリアム!

戦況は!?』




「こちらの陣地は無事だ!

敵も距離を置いている!!


…首長国は、かなりやられている。

殆どの狙撃櫓が吹き飛ばされてしまった。

これ…  本陣突破される可能性もあるぞ!?」





『本陣って…

テオドール殿下の所まで?』




「もう、弾け飛んだ瓦礫が刺さってるよ。

ここからじゃ分かりにくいが、あれ多分衛兵の死体だ。


顔は出すな!!!


新型の突撃よりも、その時に飛び散る破片の方が危険だ。

それで首長国の陣地がパニックになってる。」




その時、壕内を全体伝声が響く。

レンヌ司令の声だ。

まず対ショック姿勢の維持。

加えて新型兵器の呼称統一。

以後、我が軍はあの新型兵器をゴーレムと呼称する。


…そして専従業者による清掃修復活動以外の壕外活動の禁止。





「俺も行くぞ。」




『好きにし…   


いや、頼む。

俺を助けて欲しい。』




「命令しろ、ボス。」




『…行くぞギリアム。

巨大堀の中のゴーレム、アレを調べる。』




「了解!」




俺とギリアムは巨大堀の外周を走る。

遠目には首長国軍の塹壕に超速度で迫るゴーレムが見える。





 ドガ――――――――――――――――ン!!





舞い上がった粉塵が戦場全体に降り注ぎ続けている。

気のせいか血の匂いもする。


…気のせいなものか。

あれだけの衝撃で人間が死なない筈がないだろう。





巨大堀に突き刺さる様に転がっているゴーレムは2体。

余程の衝撃だったのだろう、薄く煙のようなものが上がっている。



「ボス!

どうするんだ!?」



『破片だけでも持ち帰らないと

今後の対策が…』



そこまで言い掛けて絶句する…

俺がゴーレムと思っていた物体の胸元部分には…

人間が搭乗していたのだから。




「おい!

これ!?

中に帝国兵が乗ってるのか!?」



馬鹿げている。

塹壕全体を揺らす程の衝撃。

そんな兵器に人が…





『…帝国の方とお見受けした!

ここは自由都市同盟の陣地です!


それをお判りの上での御訪問か!?』




半壊したゴーレムの胸元部分は入り口のようになっており

その中には帝国の軽鎧を着用した兵士がぐったりと倒れていた。

大量の吐血の形跡があり、荒い苦悶の呼吸を漏らしている。

そりゃあそうだろう。

あの衝撃の発生源に居た者が無事で済む訳がない。

いや、寧ろあの衝撃で生きている事が驚異的な奇跡なのだ。




「や、やあ。」




巨大堀の底まで滑り降りた俺に気付くと帝国兵は薄く笑った。

手を挙げようとしたのだろうが、それすらもままならない。

弱弱しい声で、俺を呼んだ。




『ポールソンと申します。

…この度は。』




「ははは。

びっくりしたでしょ。」




『…はい。

あまりの衝撃に壕内が大混乱でした。』




「…ふふっ

そうか。」




『治療を望まれますか?』




「生憎、医者が嫌いでね。


…ポールソン君と言ったか?」




『はい、ポール・ポールソンと申します。』




「我が名はニキータ・アンドロポフ男爵。

階級は大尉である。」




『はい、大尉。』




アンドロポフの目の焦点は既に合っていない。

素人目にも、命の火が消えかけている事が理解出来た。




「此度の一番槍は私だ。


申し訳無いが同胞にそれを証言して頂けまいだろうか?

コックピットの認識票…  頼む…」




『はい。

アンドロポフ大尉こそが一番槍です。

証言を約束します。

貴方の攻撃で我が軍は大混乱でした。』




「…私は何人討ち取れた?」




『…大勢の同胞が死にました。』




「嘘の下手な男だw

…だが、感謝するよ。」




俺は何か気の利いた事を言って彼を慰めようとするが…

抱きかかえようとした時には既に絶命していた。

背後で警戒態勢を取っていたギリアムが大きく首を振る。




『ギリアム、聞いたな?

一番槍はニキータ・アンドロポフ大尉だ。』




「聞いてどうする!?」




『俺は彼に証言を約束した。』




「…騎士ごっこはやめろ。

状況、見ればわかるよな?」




『わかるよ。

俺の為すべき事がハッキリとな。』




大尉がコックピットと呼んだゴーレムの胸元の空間。

確かに帝国の認識票があった。

隣の手紙は…

子供の字、恐らく御子息からの手紙であろう。



そして足元には憎しみを込めてビリビリに破られた神聖教団の免罪符。

ありがとう大尉。

事情は理解出来た。




「ボス。

これは召喚モンスターじゃあないのか?」




『召喚したゴーレムを刳り抜いて…

兵器運用しているんだ。』




「こんな重量物に人間を乗せるなんて正気の沙汰じゃない。」




『精密運転の為だろう。

ほら、これ操縦桿だよ。


港湾作業で使われるクレーンと同じなんだ。

大型の機械を動かす為に使われる。』




「ああ、鉱山でもたまに見るな。

あれだろ?

桿を動かした方向に掘削機を回頭させる。」




『だろうな。

構造はかなり単純。


操縦も簡単そうだ。

生還は難しそうだが。』




「わからん。

こんな一方通行の兵器。

何の意味がある?

確実に鹵獲されるだろう。」




『いや、1機ぶつければ確実に塹壕を制圧出来る。

歩兵に制圧させてから、後でゆっくり他のゴーレムに回収させるコンセプトなんだろう。』




首長国側の壕。

低速で近づいて来た2機のゴーレムが、巨大な炸裂弾を塹壕内に投げ入れて混乱を作りだしてから

突き刺さったゴーレムを引き出している。



なるほど。

刻まれている旗印で理解した。

突撃用×1と回収用×2で1個小隊を構成しているのだな。



ではアンドロポフ大尉の機体、そしてあちらの機体を回収する為の…

ああ、あそこでウロウロしている4機ね。




「どうする?」



『鹵獲するよ。

当たり前だろう?』




「向こうはそれを許してくれなさそうだぜ。」




『そりゃあ、回収を厳命されてるだろうしな。』




「…。」




『遺骸は返す。

大尉の遺骸を丁重に。


俺はあっちの機体を確認する。』




「なあ、オマエ何を考えている?」



『戦争なんてやだなー、って考えてるよ。』



「そうは見えないぞ?」



『あっそう。

じゃあきっと俺は嘘つきの偽善野郎なんだろうな。


大尉の遺体。

くれぐれも頼むぞ。』



「わかった。」




もう一機のゴーレム。

突入角度が悪かったのだろう。

アンドロポフ機よりも損傷が激しい。


ゴーレムの背中にも入り口のようなものがあるが、恐らくは衝撃で吹き飛んだのであろう。

中は無人だった。

識別票にはヴァシリー・ウスチノフ少尉とある。

機内の目立つ場所に、恐らくは恋人か妻と思われる肖像が飾られている。

念の為免罪符を探すが…

携帯用トイレの中にクシャクシャにされて放り込まれている。


…なるほどね。

少尉、貴方の想いは受け取った。



周辺を見渡すと20メートルほど離れた場所に大きく首が曲がった遺骸。

きっと彼は衝撃でコックピットから放り出されたのだ。

顔を見るとかなり若い。

いや幼い。

どうみてもまだ10代だ。

呼吸が思わず荒くなる。



俺は恐怖で見開いていたであろう少尉の瞼を閉じさせると、拳で強く己の脚を叩いた。

なあ、誰か教えてくれよ。

この憤りはどこにぶつければいい?



そんな事を考えつつも、心の中には異常に冷徹な俺も棲んでおり、舐め回す様に彼らの機体を観察していた。

男はみんなそうなのかも知れないが、己の中に2人の俺が居る。

俺がより嫌いな方の俺は、血眼である物を探していた。





動力。





これだけの大質量をあの超速度で運用するのだ。

動力源が存在しない筈がない。

俺は素早くゴーレムの周囲を飛び回り、動力源を探す。

外側は単なるゴーレムだ。

何の細工もない。


俺は子供の頃から何十体もゴーレムの模型を作ってきた。

マーサにせがんで朝から晩まで博物館のゴーレムをスケッチした経験もある。

だから、これが例え異世界のゴーレムだったとしても直感的に理解出来る。

外装には殆ど手が入っていない。


じゃあ、動力は中?

コックピットの内部に、この機体を動かす為の細工がある?


俺は少尉の機体の中を慎重に調べ…

ある仮説に辿り着く。


この機体を動かしているのは動力に非ず。

一見、産業的な装置にも見えるこのコックピットは…

ゴーレムを使役する為のスキル発動装置そのものなのではないだろうか?


操縦桿の中央にある箱。

空っぽに見えるが、底に何か粉末のような物が…


砂金?

何かに混ざってある?




「これは…  翡翠だな。

ウチの地元でも採掘してるぞ。


結構、いい値で売れるんだ。

婚約指輪やスキルに使用されるからさ。」




『スキル?

詳しく聞かせてくれ。』




「いや、これ冒険者の間じゃ常識だぜ?

翡翠はモンスターテイムに使われる触媒だよ。

テイム系は貴重だからさ。

このスキル持ってる奴は牧場とかの就職に強いんだよ。」




…そうか。

このゴーレム。

やはりスキルで動かしているのだな。


操縦者、或いはコックピットそのものがテイム系のスキルを保有している。

だから、高級触媒である金とテイム系触媒に多用される翡翠を混ぜたものを…





=========================





『以上が報告です、閣下。』




「なるほど。

確かにこの粉末の目の粗さ。

帝国軍がスキル運用に用いる際の規格に近いな。

正確な測定結果が出るまでは何と言えないが、金1に翡翠19の比率の粉末と言ったところか。」




『2機のゴーレムの備えられていた触媒箱は目算1ℓ。

両機共にほぼ触媒は底を尽きかけてました。』




「…もしも触媒が満タンの状態で突撃を開始したとしてだ。

あの程度の距離で使い果たすのであれば、やや燃費が悪いな。」




『だからこそ、あんな近くに布陣せざるを得なかったのではないでしょうか?

あの地点での布陣。

本来なら不自然なのですよね?』




「ああ、不自然極まりない。

戦術上の常識からあまりに逸脱している。

首長国が騎馬隊を出せば、すぐに届き得る距離だ。」




『他にも気になる点があります。

今回も歩兵が随伴しておりません。』




「そうだな。

だが、この点に関してはさほどの違和感を感じない。」




『と仰いますと?』




「恐らく、連日の攻撃はコンペだ。

帝国軍の主力を決める為の。」




『こ、コンペですか?』




「比較実験とでも言えば良いのかな?

軍隊では頻繁にある話だ。


我が軍でも新装備の導入時には必ず行われている。」




『そんな話は聞いた事がありません。』




「軍事機密だからな。

民間に漏れていたら逆に問題だ。」




『しかし、我が国は実験という程の戦争状態には…


あ!』




「そう。

故に平和維持軍だ。」




『…。』




「そんな表情で見ても私を何も変わらないぞ。

派兵は公正な選挙で選ばれた評議会が決定するものなのだから。

我々軍人が決定のプロセスに関与出来ない事は、貴殿も知っている筈だ。」




『…。』




「話を戻す。


先程の貴殿の進言。

ゴーレムによる攻撃、完封出来るとの進言は真か?」




『あの敵陣に相当量の触媒があります。

それを奪うか消すかすれば、彼らは戦場で孤立します。』




「いや、それは楽観論だな。

仮に陣地内での触媒が尽きたとしても、だ。

後方から補給させて終わりだ。」




『㌘9000ウェン。』




「?」




『現在の金相場です。

仮に触媒箱が1ℓだったとして

ゴーレムは一回の突撃に50㎖前後の砂金を消耗する計算になります。』





金は水の約20倍弱の比重。

1ℓは約20キロ。

ざっくりとした計算だが、満タンには1キロの金を混ぜている筈だ…

大雑把な帝国人は整数を好む、多分的外れな推理ではない。




「ふむ。

一度の突撃で1キロの金を消費か…

幾ら戦争が金食い虫とは言え…

財政難の帝国に1走900万は巨額だな。」




『金だけで900万ウェンです。

これに加えて大量の翡翠。


我が国と首長国が息を合わせれば、翡翠価格くらいは。』




「ああ成程。

そこで経済戦争を混ぜるのだな。」




『当然、帝国側は代替の触媒を探すと思いますが…

個人的にはそこまで脅威に感じません。』




「あれほどの超兵器を見て、脅威ではない、と?」




『貧困国には過ぎた玩具です。

軟弱者が甲冑を纏っても動けなくなるだけのように

貧困国が燃費の悪い兵器を保有しても自らの首を絞めるだけで終わることでしょう。』




「あくまで貴殿の仮説だが…

理には適っている。

関連部署全てに対しての報告を約束する。」




『…ありがとうございます。』




「さて、本題だ。

我々は敵の第二波を凌がねばならないが。

どうやって凌ぐ?」




『先制します。

敵陣の触媒を全て奪って終わりです。


動けなくなれば、向こうは長期停戦・或いは休戦を持ちかけてくるでしょうから

平和維持軍の任務も自動的に終了です。』




「…。」




『元は合同演習ですよね?

演習中に戦闘が本格化したから足止めされている。

本格的な停戦が成立すれば…


司令、帰りましょう。』




「…。」




『帰るんです。

俺達全員で!』




「却下だ。

民間人による攻撃案は承認出来ない。」




だろうな。

俺なんかの口車に乗るような馬鹿は軍人の風上にも置けない。





=========================





「オマエ、軍法会議ものだぞ。」




『あれって清掃業者にも適用されるんだったかな?』




「オマエを処断する為の何らかの法令が適用されるだろう。」




『遺品の返却くらい問題なくない?

だって我が国と帝国は国交ある隣国同士なんだぜ?』




「…常軌を逸している。」




『それが分かってて、どうして俺に付いて来るかね?』




「戦場ではそれが正しいからだ。」




『ありがとう。』




「正しさは暴力だ。

正し過ぎるオマエは最悪の暴君だよ。」




『…。』




「覚えておけ。

世界も人間も正しさなんて望んじゃいない。」




『肝に銘じておくよ。』




「俺はズルいヤクザだから。

こうやって暴君に追従している。


損得ずくでやってる事だ。

感謝なんかするなよ。」




『ありがとう。』




「…バカが。」





さて、と。

義務を果たすか。

丁度、彼らも俺に気付いてくれたらしいしな。




「先程の合図!

接近の許可と解釈して良かったのだな!!」



『はい。

司令官の許可を得ております。 (ここまではね。)』




「自分は帝国南方方面軍第2師団第一特務大隊副将

伯爵グレゴリー・ボグダーノフ中佐である。」




『ポール・ポールソン。

黒鍬者故、作法を知らぬ事をお許し下さい。』




「…身分詐称ではないのだな?」




『黒鍬です。

こちらは。

臨時ではありますが、司令官より賜った清掃作業許可証となります。』





「わかった。

君が軍属ではないと一時的に認める。」




『感謝致します。』




「ポールソン殿。

信号の意図をお尋ねしたい。」




『遺品及び遺体の返還。

そして報告。』



「報告…  だと?」




『一番槍はニキータ・アンドロポフ大尉。

二番槍のヴァシリー・ウスチノフ少尉と共に見事な先陣を果たされ、我が軍に多大な損害を与えました。』




「皮肉かね?

両機が開戦早々に貴軍の壕に落下した事は既に確認済である。」




『一番槍です。』




「もうそれが手柄とされる時代も終わった。」




『一番槍です!!』




「…わかった。

君の発言を上官に報告する事を約束しよう。」




『申し訳ございません。』




「謝罪の必要はない。

つい十年前なら美談として語り継がれていた事なのだろうから。」




『中佐殿。

こちらが両名の認識票です。

遺品らしきものを、こちらの箱に保管しております。

どうぞ。』




「…ありがとう。

ヴァシリーの妹君に届ける事を約束する。


こちらは手紙…  ああ、ニコライ君の字だな。

ただ父の帰還だけを願っていた。」




『戸板で恐縮ですが、御遺骸を安置しております。

貴国の国旗か軍旗に包むことが出来れば幸いだったのですが。』




「いや、十分すぎる対応だ。

例え兵士の死に幸不幸が無かったとしても…

それでも小官は君の馬前で死にたい。」





『壕の上に引き上げ次第、貴軍に返還したいと考えておりますが、如何でしょうか?』




「御言葉に甘える。

救われたよ。

上層部は機動兵器の回収にしか興味がないようでね。

せめて坊主くらいは冥福を祈って欲しかったのだが。」





『…。』





「それで?

貴軍の要求は?」




『…ありません。』




「…。」




『特に思いつかないので。』




「そうか。

一応、我が軍からの通達を述べさせて貰っていいか?」




『はい。』




「下らない内容だよ。

万が一、自由都市側と接触出来たら降伏勧告を行う様に命令されている。」




『そうですか。』




「もしも貴軍が降伏を望むのであれば…

最大限の配慮を行うことを約束する。」




『申し訳ありません。

この身は卑しい黒鍬です。

軍人の皆様の進退に口を出す資格がありません。』




「ここから先は小官個人の発言だ。


…もしも君が本当に黒鍬身分なのだとしたら

小官は自由都市同盟諸君を心から軽蔑する。


君は何者だ?」




『本当に清掃屋の息子なんです。

ソドムタウン中央区にあるポールソン清掃会社。

調べて下されば、すぐに確認が取れます。』




「…自由都市では、能力に応じて身分が決まると聞いた。


教えてくれ。

何故君がそんな賤業に甘んじている?」




『家族を愛しているからかも知れません。

自分や弟は、家業を蔑む事が父の名誉を傷つける事であると認識しております。』




「本当は御父上も君の栄達を望んでおられるのだろう?

言動の端々に教育を施された形跡が見えるぞ。」




『彼は、世の父親同様。

息子を公職に就けたかったようです。』




「今からでも孝行されよ。」




『…俺は、盗泉の水は飲まない。』




「君に限っては飲め。


それが万人を潤す事に繋がるだろう。」




『…中佐殿の買い被りです。』




「そうだ、部下の魂に安息を与えてくれた礼がまだだったな。


ポール・ポールソン。

君を騎士に叙任する。」




『…!?

仰る意味がわかりません。』




「何も驚くことはないだろう?

小なりと言えど私は領主であり騎士だ。

見込みのある者には積極的に身分や役職を与えている。」




『ですが!

自分は帝国人ではありません!』




「友好国民に対する叙任行為は珍しくもないことだ。

今の貴国の評議員にしたってそうだろう?

爵位だのなんだのを我が国から買って悦に入っている。」




『買官は不純ですよ!』




「同感だ。

だから小官は君に騎士の栄誉を与えるのだ。」




『理解出来ません!

自分は卑しい異邦人です!

それも貴国と対陣する身です!!』




「深く考えなくて構わない。

叙任なんぞ、所詮はする側の自己満足だからな。

年末の大納会で小官が皇帝陛下に名簿を提出して、あのお方が盲判を押して終わりだ。」




『騎士の名は!

そんなに軽いものではないでしょう!


皆様の栄誉を穢します!!!』




「ははは。

いいねえ、騎士に相応しい潔癖さだ。

今度、帝都の馬鹿共に説教してやってくれww」




『中佐殿!!』




「さて、名残惜しいが首長国の騎兵が突出してきたな。

帰るよ。


遺品、必ず遺族に届ける事を約束する。

先槍の栄誉も証言することを誓う。」




『自分は貴方の敵です!!』




「ははは。

人生の最後に良い敵と見合えたものだ。


それじゃあな、騎士ポールソン。」





=========================






「騎士殿ーww」




『その呼び方やめろ。』




「はははww

オマエ、母親が帝国貴族だったか?

やけに帝国さんと波長が合うじゃないか。」




『産みの母が帝国式に拘っていた事は認める。

俺は苦痛だったけど。』




「もしも騎士章が届いたら御母上に見せてやれ。

泣いて喜ぶぞ。」




『いや、俺はそういうのは。』




「孝行してやれ。

折角親の顔を知っているのだから。」




『…わかった。』





ギリアムのスキルは驚異的で、2機のゴーレムを事も無げに地上に上げてしまった。





「事もあるわ!!!

結構疲れるんだぞ!!」




『あ、ゴメン。』




「まさか、あの冷血指揮官が触媒をくれるなんて思わなかったけどな。」




『…彼も任務だから。』




「そうか。

兵隊さんは大変だな。」




『それで?

乗りこなせそうか?』




「さっき下で練習したからな。

4頭立ての馬車を動かすよりは楽だ。


オマエは?」




『俺でも動かせたことに驚いている。』




「経費掛かるからな。

確実に命中して貰わないと困るんだろう。


…で?

本当にやるのか?」




『遺体の返却は既に宣言した。

返さなければ破約になるだろう?』




「あのなあ。


まあいいや。

俺の同行は許可してくれるんだな?」




『ああ、都合のいい時だけ使ってすまないと思ってる。

操縦をお願いしたい。

スキルに集中したいんだ。』




「この機体、2人は乗れないぞ?」




『俺の身体、この肩の部分に括ってくれないか?』




「死ぬぞ、オマエ。」




『俺、ゴーレムの模型を結構作って来たんだけどさ。

この肩の上って殆ど動かないのね?

大昔はここに荷物か何かを乗せてたんじゃないかな?』




「頼むから現実とホビーの区別は付けてくれ。」




『戦争なんぞ、物好きのホビーだよ。

その証拠にやってる本人達は大真面目だ。』




「…否めないな。」




盟約に従い、両隊員の遺骸を返還に向かう。

但し、ゴーレムに乗って。




ん?

文句ある?

これ、俺が鹵獲した機体なんだけど?


戦場規定にも一切抵触してないし。

文句がある奴はさあ、俺の行動のどこが違法なのか教えてくれない?

何の法律?

何条の何項?


感情論で因縁を付けるのはやめて欲しいなあ。

このゴーレム俺のだから。

ん?

そんなに文句あるんなら、力づくで取りに来いよ?

俺は卑怯者だから喧嘩にゴーレム使うけどな。





=========================




『レンヌ閣下!

お見送りはまずいです!!


あくまで俺の独断!!』




「?

我が軍が雇用する清掃業者が隣国の軍陣に埋葬補助の為に向かう。

それを見送ることに何の問題がある?」




『国際問題になります!!

これ以上、首長国を刺激するのはマズいです!!』




「貴殿の言い分は理解出来ないな。

我が軍の隊旗が無ければ、それこそ首長国側からの攻撃を受けるぞ?」




『いや、まあ。

それはそうですが。』




「大尉。

識別コードを渡してやれ。」




「はっ!


ポールソン殿。

こちらはゴーレムの識別コード。

こちらはアネクドートの識別コードです。

どうぞ。」




『あ、アネク?』




「貴方が帝国騎士に託された馬です。

鞍に馬名が彫られてました。」




『なるほど。


…ゴーレムは馬扱いですか?』




「そうしておかないと、後々問題になるんです。

識別コードの振り忘れで切腹させられた兵士なんて幾らでも居るんですからね。」




『司令官閣下に迷惑が掛かりませんか?』




「あの方は…

全てを背負う気でおられます。」




…知ってるよ。

そういう男だ。




「ギア君!

起動は出来るな!?」




  「行けます!!」




「ポール・ポールソン。」




『はい!』




「御武運を。」




『…はい!!』





=========================





《触媒残量51%》



念には念を。

出発準備時に相当迷ったが、体表を開閉式にしておいて良かった。

取り出した違法ミスリル。

流石に最高の触媒と呼ばれるだけの事はある。

ゴーレムをちゃんと動かせている。




「ボス!!

敵影3機!!!」




『ハアハア!


敵じゃない!!

あくまで遺骸返却!


ハアハア!』




「その体調はマズい!

速度落とすぞ!!」




『速度落とすな!!!

予定通り目標地点で左回頭だ!!!


ハアハア!!』




ヤバい。

傷口が開き始めている。


ははは、そりゃあそうだよな。

腹をパカパカ開け閉めしてりゃあ…

ゴホッ。


あ、俺ここで死ななくても、長くないな。

口内の血の味が慢性的になってきた。

最近、レーションも血の味しかしないしな。




「速度を落とさせてくれ!!!

この振動じゃ、オマエ死ぬぞ!!」




『維持だ!!!!


ゴボォッ


ハアハア!!

命令だ!!

絶対に速度は落とすな!!!』




「馬鹿野郎が!!!」




ゴーレムの速度。

決してトップスピードではない。

にも関わらず、この容赦ない荷重である。

帝国軍人の強靭さにはつくづく頭が下がる。




「距離2000ッ!!

五秒後大回頭するッ!!


一発で決めろ!!!」




『ハアハア、ははっ』



おいおい。

素人が何を言っているんだ?

俺は本職の黒鍬者だぜ?






…葬り去ってやるよ。






『セットッ!!!』





「回頭ッ!!!!


行けぇッーーーーーーーーーーーーー!!!!!」






『【清掃クリーンアップ】ッッッ!!!!!!』







《触媒残量34%》






流石に撃ち分けは無茶だったか…

背中に走った激痛。

四肢の感覚が消えた。

め、目が見えない?


いや、一時的な失明だ。

多少視力は失うかも知れないが

頼む、片目でいいんだ。

死ぬまでの間もってくれ。




『…ゴハアアッ』




「ポ――――――ル!!!」




『ハアハア。

打ち合わせ…  通りやれ…』




「死ぬなよ?

死ぬなよ。

死ぬなよぉ!!!!」




ああ、アンタでもそんなマジな顔する時あるんだな。

ハアハア。


ギリアムは予定ポイントに2騎士の遺骸を安置する。

何の偶然か、彼らの遺骸を包んだ白旗に俺の吐いた血が落ちて大きく広がる。



…手向けの花だ。

俺がそっちに行ったら宜しくな。




「ポール!!!!」




『わかっている。

俺は無事だ。

帰還してくれ。


追われたら手筈通り…』




「もう喋るな!!!」




帝国側が起動したゴーレムは3体のみ。

全機の周辺に兵士が居た事は視認出来ている。

では何故鹵獲機を乗り回している俺を全機で捕まえに来ない?


わかるよ。

コレ、かなりの金食い虫だもんな。

だから咄嗟に動かせない。


これ、俺の勘なんだけどさ。

触媒をコックピットに入れっぱなしにする事、禁止されてるんだろ?

多分、チェックも厳しいんだろうな。

乗降の度に身体検査されてたりしてな。


オマエラ、普段散々横領に苦しめられてるもんな。

ドナルド・キーンから聞いてるぜ?

最近は経費申請、かなり細かくなってきたんだってな。

じゃあ、砂金なんて絶対に触らせて貰えないよな?


ふはは。

可哀想になぁ。

奇襲とかどうやって対応するんだよ。




『ギリアム…

残量は気にしなくていい。


距離を目一杯使って振り切れ。』




「了解!!

敵が1機足を止めた!!」




ああ、奇襲応対するのに満タンにさえして貰えないのか。

それとも、俺にテントを全部消されたのが痛かったのかな?


感謝しろよ。

人間だけ消さないのは…

結構…



…まあいいや。

俺が消えるか、オマエラが消えるか

それだけの違いだからな。


なぁ。

俺はさぁ…





=========================






「目が覚めたか?」




『?

アレ? 作戦。』




「安心しろ。

オマエは2日しか昏睡していない。」




『最近寝不足だったから、取り戻せたな。』




「…状況を報告するぞ。

帝国軍が停戦を申し込んで来た。

それも終戦を前提としたものだ。

占領中の首長国領土からの撤退も申し出ている。

イルーツク侯爵って外交官が実質的な人質としてジェリコに向かっている。」




『ゴーレムを回収したいから?』




「何が何でも回収したいそうだ。」




『あっそ。

そりゃあ大変だ。』




「いや!

そんな暢気な話じゃないんだ!

あれからかなり情勢が変わっている!!」




『だろうな。』




「オマエが消し去ったキャンプ。

どうやら帝国側はゴーレムを全機持って来ていたらしい。」




『アホだなー。』




「その全機を首長国側が押さえた。」




『彼ら逃げなかったの?

予備の触媒くらい後方にあるだろ。』




「その後方の橋。

俺達の襲撃とほぼ同時刻に首長国の決死隊が落した。」




『タイミングを合わされた?』




「向こうも、こっちが合わせたと疑ってる。

それがかなりヤバいんだ!!」




『?

つまり俺の消去作戦と首長国の落橋作戦が偶然同タイミングで発動?』




「今、首長国の軍隊がこの塹壕を取り囲んでる。

まだ威嚇だろうが、何発か発砲されている。」




『…そいつは、どうも。』




「首長国側は帝国のテントを襲ってゴーレムに関する資料を奪う作戦を立てていたらしい。」




『ああ、俺達の所為で資料も消滅したから。』




「アイツらの作戦を傍受して資料だけを盗んだと思われてる。」




『そんな諜報能力があったら

あんなに多くの評議員がハニトラに引っ掛からないと思うけどね。』




「まあな。

で、もう一つ。

いや、もう幾つかマズい事がある。」




『面倒だから、箇条書きで教えてよ。』




「真面目に聞けよ!」




『俺はいつでも真面目なんだけどな。』




「ゴーレムは全機が自爆していた。

厳密に言えば、帝国が逃げる時にコックピット部分を大型炸裂弾で破裂させたんだ。」




『そりゃあ、ただじゃあ鹵獲させないよな。』




「コックピットの原形が残ってるのは我が国が持ってる2機だけだ。」




『あー、それ一番揉めるパターンだな。』




「両方、せめて1機を譲渡しろと迫られている。」




『譲渡と言われてもなぁ。』




「ああ、ここからはもう政治判断だ。」




『帝国が帰ったのなら、俺達も帰っていいと思うんだけどな。』




「だから。

無事に帰りたければゴーレムを引き渡せって。」




『オイオイ。

普通、友好国にそんな態度取るかね。』




「アイツらもかなり感情的になってる。

この連日で軍民合わせて相当数が死んでるからな。


主張の殆どが因縁染みてきてるんだよ。」




『確かにな。

落橋作戦とのタイミングなんて、言い掛かりもいい所だろう。

逆に向こうが俺達に合わせたんじゃないか?』




「いや、それはないな。」




『?』





「橋を落としたのは…

首長国側の義勇兵部隊なんだよ。


テント強襲部隊もその計画は知らなかったらしい。」





『?

首長国が2作戦を同時展開したってこと?』





「向こうは口を濁しているが

義勇軍と言っても、かなり反体制色の強い部隊なんだ。

俺は、遠くない未来に反乱軍に変貌すると思う。」





『ああ、封建国家あるあるだね。』




「指揮を執っているのが…


…獅子姫。」




『獅子姫?』




「居るんだよ。

今の首長国王の娘に…

王宮を追放されたお姫様が…

ルイ国王を批判する言動を繰り返して…

ちょっと無視できない野党勢力になっている。」




『ああ、御家騒動的な。』




「今回の戦争でかなり活躍してるんだ。

大量の民間人を庇いながら避難させる事に成功した。

以前から、地方の人間や末端の雑兵は獅子姫を支持していたんだが…

この件で、獅子姫即位待望論が生まれつつある。


それをかなりルイ国王が危険視しているらしくてな。」




『ああ、そうなると粛清か代替わりだな。』




「そこで俺達だ。


獅子姫の落橋作戦とタイミングが合わせたのが、こちらであった場合。」




『作戦を傍受して資料だけを横取りした、と思われるな。』




「事前に獅子姫と申し合わせがあった場合は?」




『友好国の反体制分子と結託している、と思われるな。』




「そういう状況だ。」




『…そっか。』




参ったね。

出口が無くなってしまった。




『まあ、いい。

次の策を…』



立ち上がろうとして転倒してしまう。


痛…  くない?


あれ?

何で?

感覚が…  ない?





「バカヤロウ!!

寝てろ。


なあ、オマエ昨日まで心臓止まってたんだぞ?

俺達がどれだけ心配したと思ってる!!

生きてるのが不思議なくらいなんだぞ!!!


せめてオマエだけでも本国に帰してやる。

だから寝てろ!」





心臓が止まった?

なら、とっとと処分しろよ。

スペースの無駄だろ?






『あ、いや。

俺、多分死ぬと思う。


なあギリアム。

部隊を何とか帰してやってくれないか?


せめて司令官閣下だけでも。』





「司令殿も全く同じ台詞を吐いてたよ。

あの人、最初から死ぬつもりだったみたいだな。


誰かさんと一緒で。」





『馬鹿な男だ。』




「どっちが?」




『…わかんない。』





「あの人は…

自分1人の切腹で場を収められないか、道を探り始めてる。」





『…それは知ってた。』





「?

あの人から何か聞かされてるのか?」





『…別に。

想いをペラペラ話す人でもないだろ。』





昔からそういう男だった。

馬鹿な男だ。

自分1人が悪者になれば、皆が救われるとでも思ってるのか?


オマエの身勝手な自己犠牲主義がどれだけ周りを苦しめていると思ってるんだ?

その幼稚なヒーローごっこ、反吐が出るよ。



なあ、聞かせてくれよ。

死ねば周りが救われるとでも思ってるのか?



俺はオマエを絶対に許さないからな。



ジャン・ロベール・レンヌ。



高官の娘との縁談を拒絶してまで卑賤の娘を守ると決めた愚かな男。

復員に際して婿入り先の姓を捨てたのは、全ての汚名を背負って散るとの決意のつもりだろうか。

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