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なんとも言えない罪悪感を誤魔化すように、僕は唐揚げ作りに没頭した。
料理を作っているあいだは、それに集中していればいいからだ。
「じゃ、風呂行ってくるー」
「あ、私もー」
食事後、今日もリーゼとファイゼルさんは、二人そろってお風呂へ行った。
唐揚げを揚げながら、僕は盛大に息を吐いた。
「…………はぁ」
リーゼの過去を知ってしまった。
いや、言わせてしまったことへの罪悪感がすさまじい。
リーゼは僕よりも重い過去があった。
本人は気にしていないみたいだけど、僕としてはやはり聞いてしまったことへの罪悪感がズシリと重みを増していた。
僕は、捨て子だった。
でも、じいちゃん達に拾われてから、ギフト発現の儀式まで、そう【無能】のギフトホルダーとなるまで、大人たちから暴力を振るわれたことはなかった。
それこそ、じいちゃんとばあちゃんは僕の事を可愛がってくれた。
村の人たちも、それまでは普通に接してくれていた。
でも、リーゼは生まれた時からだった。
ファイゼルさんも、幼児の頃に修羅場を体験していた。
見えていなかった世界だ。
それは、知らなかった世界だ。
多分、【無能】のギフトホルダーにならなければ、知ることのなかった世界の一面だ。
「わぁ、美味しそうだ」
気が重くなっていた僕に、そんな声がかかる。
聞き覚えのある声だ。
声のした方へ振り向くと、パチパチと油がはね、唐揚げがあがっている鍋を凝視するルートさんがいた。
また来た。
「こんばんは、サツキ君」
「はぁ、どうも」
「おや、元気ないね」
「ちょっと、いろいろありまして」
胃もたれして吐きそうなほど重たい話を仲間と交わした、とはさすがに言えなかった。
唐揚げのあがりぐらいを確認する。
火は通っているように見えた。
「どうです、ひとつ?」
僕は唐揚げをひとつ菜箸で摘んで、油を切りながら言った。
「え、いいの?」
「はい。
味見をしてください。
あ、でも揚げたてだから気をつけて」
僕は、手近にあった皿へ唐揚げを一つ載せてルートさんへ渡した。
彼はニコニコと、それを口へ放り込み、
「あづっ!!??」
見事にダメージを食らっていた。
それから、ハフハフと口をもごもごさせて唐揚げを食べた。
僕は、これから揚げる予定の肉の山を見た。
リーゼ達は戻ってきたら、これをツマミに酒盛りをする予定なのだ。
「濃厚で美味しいね。
どこ産の鶏肉?」
「【神々の修行場】産ですよ」
ルートさんの顔が固まった。
ぎぎぎ、と僕を見て聞いてくる。
「もしかして、これ……昨日と同じ??」
「あ、この肉はゴクラクチョウです」
「ぶっ!!
ゴクラクチョウ?!」
「さっきまで、ゴクラクチョウの肉で作ったチキンカレーもあったんですけど、無くなっちゃって。
この唐揚げは、リーゼ、僕の面倒を見てくれてる人からのリクエストなんです。
これから酒盛りするので」
「へ、へぇ、そうなんだ」
「良かったら、包みましょうか?
まだまだたくさんあるんで、おすそ分けしますよ」
モンスタージビエだから引いてるけど、社交辞令でこれくらい言ってみても罰はあたらないはずだ。
「え、でも……」
ルートさんがなにか言いかけた時だ。
ぐぅきゅうるるる、と彼の腹が鳴った。
どうやら味見で、空腹感が増したらしい。
かぁぁ、とルートさんの顔が赤くなる。
「どうぞどうぞ、遠慮なく。
昨日いらしたツインテールさんと一緒に食べてください。
あ、もしかして他にもメンバーいますか?」
人数がいるなら、足りる分を用意したほうがいいだろう。
そう思っての提案だったのだが、何故かルートさんが泣き出してしまった。
ドバドバと涙を流しながら、
「こんな優しい子もいるんだなぁ」
と呟いている。
そこからエグエグ、と涙をながしながらルートさんは愚痴りはじめた。
本当は愚痴はダメと思いながら、ついつい口から溢れ出てくるようだ。
それを僕は右から左へ聞き流す。
聞き流しながら、唐揚げを次から次へあげていく。
よし、ルートさんのテイクアウト完成。
リーゼ達の酒盛り用も完成っと。
僕は、手早く唐揚げを包んで渡す。
念の為に予備の容器持ってきておいてよかった。
「ありがとう」
「いえいえ」
ルートさんは唐揚げを手にどこかへ去ってしまう。
泣き腫らしていなければ、イケメン英雄なのになぁとちょっと思った。
というかルートさん、精神的に結構追い詰められてたのかな。
まぁ英雄としての才能と、誰かを教育、指導する才能は別なのかもしれない。
そして、今日も入れ違いでリーゼ達が戻ってきたのだった。




