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「……カレー、全部無くなっちゃった」
空になった鍋を見る。
「美味しかった~」
ファイゼルさんが、お腹をぽんぽんと叩きながら言ってくる。
その横で、リーゼが自分の顔をムニムニマッサージしていた。
「どうしたの、リーゼ??
むくみ取り?」
「んー、いやぁ、表情筋死んでたかなって」
「え、リーゼの表情筋が死ぬことあるの??」
「いや、さっき少年が……」
待て待て待て。
ちょっと待って。
え、それ今話すの?
「サツキ君?」
「俺、人の事よく見てるなって言ってきてさ。
そうかなぁって」
「そうなの?」
「自覚全く無かったから、驚いた。
というか、久々に指摘されたから。
父さんたちに拾われた時がピークだったんだけどなぁ」
「あぁ、レイさん?だっけ??」
「そうそう」
レイさん、と言うのが彼女の親の名前らしい。
いや親の一人か。
たしか写真には三人の親が写っていた。
あの中の誰か、なのだろう。
もしかして、女神みたいに美しい人がいたから、その人の名前かな。
「俺の生まれたところだと、この見た目って呪われた子って扱いでさ。
俺、生まれてから五歳くらいになるまで座敷牢で育ったんだけどな」
え、聞いてて良いのかな、これ。
「あぁ、よくある話だよね。
私も、生まれた時に貴族でもないのに金髪碧眼ってことでお母さんが不貞を疑われてねぇ。
私も五~六歳頃に両親がド修羅場になってね。
お父さんに首を絞められた」
ほんとに、聞いてていいのかな、これ。
「あぁ、あるあるだよなぁ」
「リーゼは、殺されかけなかったの?」
「……村の男連中に乱暴されかけたらしい」
乱暴。
その意味が理解出来ないほど、僕はものを知らないわけではない。
たしかに社会に出たばかりの、この前まで子供だった僕だけど。
でも、それくらいわかる。
殴られた、でもない。
首を絞められた、でもない。
村の男連中からの乱暴と聞いて、連想くらいできる。
「らしい?」
ファイゼルさんが首を傾げる。
「よく覚えてないんだよ。
まぁ未遂だったらしいんだけど。
たまたま父さん達が兄ちゃん連れて村に来てて。
兄ちゃんが助けてくれたって、父さん達から聞いた。
それ以外のことはうっすら覚えてるけど」
「ふむ。
でも、その村の男達って子供に手を出そうとしたってことでしょ?
最低だね」
「なー、ヤバいよなー。
呪いも恐れてるようで恐れてないのが、またなんとも言えないし。
呪いなんかより性欲が上なのがまたキモイよな。
その対象が子供と来たもんだ。
まぁ、でも子供好きの特殊嗜好はキモイけど。
ただ、この歳になって理解したことがある」
理解したこと?
なんだろ、リーゼが理解したことって。
この世界にはクズが多いってことかな。
「村の男連中は合理的だったってこと」
は?
ガシャン、と洗おうとしていた鍋が床に落ちた。
「どうした、サツキ?」
「ごうりてき?
どこが??」
彼女が傷つけられそうになった。
誰か別の男に穢されそうになっていた、事実だけでも衝撃的だった。
けれど、それ以上に彼女の発言が理解できなかった。
まるで、受け入れているようなその言葉が理解できなかった。
「……子供が出来ないから」
リーゼは淡々と事実を語った。
「生殖能力がない子供に手を出したところで、新しい命は宿らない。
ましてや相手は、忌み嫌われてる呪われた子、忌み子だ。
誰がなにをしようとも、誰も味方になってくれない、助けてくれない。
なんなら、その事実がバレたところで男たちの家族は都合のいいように解釈して、俺を糾弾してただろうし」
「うわぁ、想像つくなぁ」
ファイゼルさんが同意した。
僕には全く想像がつかなかった。
「リーゼ、それって」
「おっと、少年には刺激が強い話だった。
この話はここでおわらせ」
僕は、つい彼女の言葉の途中で口を挟んだ。
「それってどういうこと?!
都合よく解釈して糾弾してただろうって、いったい?」
「社会的弱者は、弱者であることを一方的に恨まれたり憎まれたりすることがあるんだよ。
時には、悪役にされる。
呪われた子、忌み子ってのは、そういうシステムも兼ねてる部分がある。
ガス抜き要員ってやつだな。
俺の場合は未遂だったが、もしも未遂で無かったなら。
俺が男連中を誘ったって言われて、火炙りになってたかも。
あそこは、そういう村だったって父さんたちから聞いた。
まぁ、話してくれって頼んだんだけどさ」
「そんな、五歳の子供がそんなこと」
男を誘うなんてあるはずない。
「それが、世界の一面でもあるってことだよ、少年。
世の中には、なんでもかんでも自分の都合のいいように受け取る奴が一定数いるし。
なんなら、自分や家族のために他人を悪者にすることくらい平気なやつは、ゴマンといる。
それこそ、自分たちを被害者にするためなら五歳の子供だろうと、産まれたばかりの赤ん坊だろうと悪者にするやつは存在してる。
で、俺の表情筋の話に戻るけど。
なんか、俺、普通に虐待されてたっぽくてさ。
覚えてないんだけど。
その時についた癖らしいんだよ、無表情で人の顔色うかがうの。
父さん達や兄ちゃんと出会ってからは、出なくなっていったんだけど」
「……っ、」
リーゼが僕を見た。
「癖って無くならないのかーって、サツキに言われて驚いたわ」
言わなきゃ良かった。
僕は後悔した。




