三十二
舞鶴や佐保、そしてプロの手腕のお陰で見た目は完璧に武装が完了したが、所作だけは一朝一夕にどうにかなるものではない。
黙ってじっとしているだけならばなんとか形にはなるものの、立ち上がったり座ったり歩いたりすれば所作が一気にぎこちなくなってしまう。
ぎこちなくなってしまうだけならばまだしも、躓いたりし始めるので、早々に危険と判断した三人は誰かが明里を支えることとなった。
母はもちろん、京子に手を引いてもらう事もあれば、
「そんなに嫌そうな表情を浮かべるなって。地味に傷付く」
「すみません……」
そして三人の中であれば適役はもちろん男で一番力のある遥である。見目的にも遥が手を引くのが一番良いと思われるが、明里の心中は複雑極まりない。
とどのつまりは恥ずかしいのである。
しかし万が一にでも転んで舞鶴や佐保が傷付いてしまったら取り返しがつかない。背に腹は変えられぬ。と腹を括って遥が差し伸べてくれた手に自分の手をそっと重ねる。
温かく、明里より一回りも二回りも大きく、筋張った掌にどきどきするなという方が無理だ。どうしても女とは違う手の感覚を意識してしまう。
「役得だな、遥」
舞鶴のからかう様な言葉に明里は恥ずかしくなってしまって更に俯いてしまう。佐保が渋い顔をして舞鶴を小突くのが見えた。
「本当に役得だ」
明里の手を大きな掌で包み込みながら我が耳を疑う程嬉しそうに言うので、驚いて明里が顔を上げると遥が明里と目を合わせて春先に咲く梅の蕾が綻ぶ様だった。
これ以上目を合わせていると勘違いしてしまいそうだったので自分の足下に目を戻す。
佐保や京子、母の小さな悲鳴が聞こえて来てまた居たたまれない気持ちになった。
近くの神社といえども十分程度は歩く。母と京子は妙な気を効かせて少し先を歩いている。
慣れない着物を着て動きのぎこちない明里は当然歩みも遅くなる為、二人とは自然と距離が開いてしまう。明里と遥では歩幅が違うが、エスコート役として明里の様子を伺いながら歩調を合わせてくれている。
「……天澤さん」
「うん?」
晴天のお陰か一月の初めとは思えない程温かい。遥と手を繋いでいる所為もあってか寒さを感じることは無い。
だからかいつもは堅い口が何故か今日は綻んだ。
「私、専攻は染織にしようと思うんです」
唐突な明里の言葉に遥は目を丸くさせている。
「今まで特にこれって言うものが無かったんですが、今回の成人式の件で着物って凄いなって改めて思って」
衣服は人が着て初めて完成する所とか着物そのもののデザインや小物の色遣い。そのどれもが明里には新鮮に感じられた。
「でも、一人だけだったら、この道は選べなかった。私に道を示してくれて、ありがとうございました」
遥に手を引かれながら、明里はぺこりと頭を下げた。
すると遥は明里の手をきゅっと一瞬強く握りしめる。
「本当、いつのまにか育ってるなぁ」
「そうでしょうか」
「ああ」
自分の成長は自分では実感しにくいものだ。明里が眉間にシワを寄せて首を傾げていると遥は艶やかな笑みを浮かべて明里の耳元に顔を寄せた。
「でも、できれば俺の見ている所で成長してくれ」
「っ!」
耳に直接吹き込まれる色っぽい声に明里は顔を真っ赤にして遥から距離を取ろうとするが、身動きの取りにくい着物の所為でよろけてしまい、遥に支えられる。
「な、なんですかいきなり!」
「すまんすまん、いきなり過ぎたな」
慌てふためく明里に対し、遥は余裕でフォローを入れる。
しかし遥は追撃の手を緩めない。
自分の顔と声がどれだけの攻撃力を持っているのかを充分理解した上でもう一度、体を強張らせた明里の耳元に顔を近付けて言葉を紡ぐ。
「だが、覚悟はしておいてくれ」
例のごとく花の蕾が綻ぶ様な美しい笑顔で訳がわからないまま宣戦布告された。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
今読み返してみると尻切れとんぼの様な感じになっている様な……書き切った当時はこれで満足していたんですが、時の経過は偉大ですね(笑)
また機会があれば続編でお会い出来ればと思います。




