052
首宣言
大きな瞳を見開いているラファエレに首宣言をしたジュードは更に告げた。
「その後、司書として異動して貰う。以降私が雇用する限り魔術の使用は一切許さん。守れないなら再度これらの魔法具をつけて貰おう。」
またあの魔法具を付ける事を想像し「ひっ」と呼吸を荒げて怯える。
が、しばらくして司書になる意味を彼女も考える。
「…首じゃないんですか。」
「小娘に色仕掛けで身体をこすり付けて泣かれても事件は解決しない。現実問題ルーン文字を解読出来るのは君だけだ。」
その小娘の身体を撫で回していた男の発言とは思えなかったが、少しだけ首の皮が繋がった気がして溜息が漏れた。
しかも、司書としてなら3人目の魔術師出現を恐れずに済む。
「つまり魔術を使用して良いのは明日までだ。」
「…結界を優先しろと。」
「明日までは私の魔法使いは君だけだ。今夜ゆっくり自分の仕事を噛み締めたまえ。」
ギルドに登録して魔術師としての仕事は悲しくも中断されるが、それよりもジュードの沙汰にラファエレの方が首を傾げた。
「…何故首になさらないの。」
「首にして欲しいのか?」
咄嗟に頭を振るラファエレ。
「一旦雇うと情が湧く。お陰で私は猫も拾えない。」
冗談とも取れる台詞で肩を竦めたジュードはいつの間にか足元に落ちていたメモを拾い上げた。
あの魔法具についてが書かれているメモである。
「そう言えばもう一つ聞きたい事がある。」
涙の止まったラファエレは咄嗟に身構えた。
この男と話をしていると気持ちを何度も揺さぶられて疲れる。
落とされたり持ち上げられたり脅されたり忙しい。
今だって何か間違った発言をすれば、また怒り出すのでは無いだろうか。
「こんな装飾品をわざわざ付けて歩く理由は何だと思う。」
ラファエレはまだ身体に残る6種類の魔法具を嫌そうに眺めてから言う。
「…解りません。」
「同じ魔術師として考えろ。君がタスクの育ての親なら何故魔力を封じる。」
疲れきったラファエレは自分で涙を拭いながら考える。
自分の立場が司書になる事で解消されたとはとても思えなかったが、話が変わった事で問題は一旦終息したとラファエレは受け止め始めている。
乱暴に引き離されたせいか、ジュードはあの大きな手で拭ってくれない。
ただソファに腰掛けるラファエレを同じ目線になるように跪いて静かに見つめているだけだ。
それでもあの問い質す厳しい目では無くなっていると思えば安心する。
ジュードの大きな手に撫でられると心地良かった。
フィオナを抱き上げて頭を撫でていたあの大きな手と同じものが欲しかった。
それが懐かしくて物欲しそうにジュードを見つめると、意図に気付いたのか
睫についている涙の跡を指で確認し、指の甲で頬をなぞってくれる。
ラファエレの頬を優しく撫でてから柔らかな唇をなぞる。
「…タスク曰く育ての親はこれらを付けて旅をしていたらしい。君は動けなかったがな。」
意地悪な皮肉には引っかかったものの、それとは裏腹に優しい指先の行為に目を細めて堪能し、考え付くままに口にする。
「魔力を…いえ、強力な魔術師であると知られたくない…もしくは何者かに追われている。」
タスクかセリム、もしくはその両者が何者かに追われている。パズルのピースとしては中々上手い形を切り出してくれたものだ。
ジュードは柔らかな頬を撫でつけながら思索する。
「ふむ。考え方の経緯は悪く無い。」
ラファエレの頬をぎゅっと摘むと手を離した。
「いた。」
「ラファエレは本名なのか。」
抓られた頬をさするラファエレに質問する。
「ギルドに登録した名前が全てです。」
意志の強い目で見つめられたジュードは、にっと口角を上げる。
「君によく似合っている。」
「…。」
咄嗟の甘い言葉にラファエレは呼吸を止めた。
ずるい男だ。
こんなに甘えているのに最後の距離までは詰めてくれない。
だったら挑発なんてしないで欲しい。
体に力が入らず未だ立てないラファエレは、立ち去ることも出来ずに俯く。
「胸元をしまえ。メイドを呼ぶ。」
ジュードの言葉に何の話だろうと思うも、自分の胸元を見下ろすと、乱れた服装に気付き頬を赤らめながら髪を整えつつ服装を正し始める。
ラファエレは情けないと思い嘆息した。
小娘扱いとは自分に魅力が無いと言う意味だ。
彼女の実家や旅の道中での異性達は、一様にラファエレを見栄えのする装飾品として愛でた。
父の弟子達に口説かれた事もあれば、見合い話も山ほど来た。
それが千里眼のガトーの血縁者なればこそと解ってはいたものの、どう言うつもりであれそれなりに賛美され女として扱われて来たのに雇用者は小娘扱いだ。
女として扱って貰えないとこんなに情けない気持ちになるのかと沈んで行くラファエレにジュードは声をかける。
「君の部屋は当面客間にするように指示している。案内して貰え。」
「…はい。」
「もうアクセサリーを外して構わん。」
「…。」
外して良かったのか。
そう思いながら、ラファエレは黙って一つ一つアクセサリーを外し始めた。
ぼんやりした頭で外しながら、ジュードとは今日会ったばかりだったと思い出す。
なのに、この男に何かを期待していた。
当初この屋敷に来た時、いきなり無表情な瞳で射抜かれて、いきなりギルド職員とバトルを始めてラファエレはほったらかしだった。
やっとご紹介に預かったと思えば傭兵二人を首にして追い出す始末。
今思えばこの男に興味を抱くタイミングが何処にあったのか不思議だ。
タイミングがあったとすればあの時。
『内には幼い子供が二人居る。余り物々しい連中に出入りされては困る。』
ジュードのその言葉だけがラファエレの印象に残っている。
如何に子供を愛しているか良く解る言葉だと思った。
それだけがラファエレの耳から胸の奥へ浸透し、ジュードを急にただの雇い人から男へと認識させた。
”私もそんな風に扱って貰えると誤解したのかしら。”
ジュードの手だけが優しかった。
厳しく問い質されても、冷たくされても、あの手で撫でられたら全て解消される気がした。
何の事は無い。ただ彼に興味があったから勝手にそう思ったのだ。
最後の装飾品を外し終えたラファエレはゆっくり立ち上がった。
いたたまれなくて早く彼の書斎から出て行きたかった。
身体が上手くバランスを取れず、そのまま床目掛けて倒れこむ。
咄嗟にジュードがラファエレの腰を持って支えてくれる。
あの魔法具は、ラファエレの体力を奪って行った。
実験なんかに付き合わなければここまで責められる事も無かったかもと思うと、魔法具に釣られた自分が更に情けなかった。
ジュードが無言で抱き上げてソファに寝かせてくれると乱れた髪を整えてくれる。
優しくしないで。と言いたかったが、そう言えば二度と触れてくれない気がして、それも困ると思うと縋るように見つめてしまう。
何を考えているのか解らないジュードの瞳がラファエレを捉えた。
彼女の細い顎を持って少し持ち上げる。
どれほどの時間か、そのまま互いに視線を絡ませていたが不意にソファの背凭れに腕を乗せたジュードは、ラファエレに顔を近づけて唇を重ねた。
前触れも無く気紛れかも知れないその行為に、それでもラファエレは瞳を閉じてジュードを受け入れた。
チキンなのでこの程度のラブシーンしか書けませんでした。
すまんのー。




