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これで正しいのか?
クルセウス卿が何故今?と疑問を持って思い悩んでいるとラファエレは知らない。
ただ疑惑を晴らす為に口を開くばかりである。
「そんな…元々私は今回の事件を存じ上げずにクルセウス領に参りました。」
「にしては、現れたタイミングが良すぎる。丸でこの事件が起こると知っていたようだ。」
ジュードの大きな掌がラファエレの前髪を手ぐし代わりにかき上げ、彼女の表情の動きを逃すまいとする。
どう答えるべきかとラファエレは暫く沈黙を守っていたが、黙り込む彼女の右脇腹を撫で付けられてそのまま腹部へとなぞられると左側肋骨の数を下から数え始めるジュードに恐怖し、涙目で顔を背けた。
少しずつ洋服をなぞられる事で彼女の身体のラインが絶妙に浮き彫りになって行くが、それよりも
「肋骨の間から刃物を斜め上に差し込めば心臓に到達する。」
と嘘か本当か解らない発言をしながら、ラファエレの肋骨を数えるジュードが恐ろしくて結局口を開いた。
優しくしても口を割らないのなら、脅す方向へ簡単に切り替わるのだと痛感する。
「父の書斎に長い歴史の中で色々なモンスターを封印したリストがございました。ここがその内の一つでした。」
「あと何箇所ある。」
ジュードの声に興味を抱く色が伺えたが、恐怖に震えるラファエレにはその表情を見ることが出来ない。
「そんなリストは山ほどありましたし覚えておりません。もっと近い場所もあったように記憶しておりますが、実家から余り近くても連れ戻されるかも知れないと懸念しましたので国外を選択したんです。」
顔を逸らしたまま恐怖で捲くし立てるラファエレ。
領主様は両腕を捕まれたまま身をよじって背を向けて震えるラファエレを見つめている内に、辻褄はあっているように思えて来る。
事件現場に突如現れたのはタスクも同じである。
彼の場合、何者かと疑問を持ちたくても持ち前の能力が強過ぎて思考を停止したくなるが、何よりアールが面倒を見ているのでおかしな点があれば報せてくれる。
又あの単純な少年がこの件を利用しようと画策しているとはちょっと考えつきにくく思える。
それに一々もって疑っていてはキリがないが、タスクは身寄りの無い子供でラファエレは隣国の宮廷魔術師の曾孫では嫌疑をかける比重が違う。
とは言え先程も思ったが、恐怖心如きで口を滑らせるラファエレに女スパイには向いていないように感じる。
勿論これが演技でないのなら、と言葉を添えるべきだが。
ラファエレの頭を撫でると、また何をされるのかと驚いたように身体が跳ねた。
捕らえられたウサギの様に身を震わす彼女を見つめると、自分がもし彼女の親ならば家出した娘を心配して探し回る事だろうと思う。
「家を出る時に一人では危ないと思わなかったのか。」
「…割とすぐあの傭兵二人と出会ってボディガードを買って出てくれましたので、そう危険な目には…。」
そう言いつつも声は遠い。
まるで言い訳をしたような感情の篭らない声が響く。
ジュードは顔が見えないと感情の起伏も解らないので、両腕を離し肩を掴んで抱き寄せる。
もう演技かどうか嘘か本当か一々考えるのも面倒になる位彼女はただの家出娘に見えた。
ラファエレを責めて彼女が何を吐露しても、それは二人で織りなす会話でしか過ぎず、何の証拠も無いし証明もできない。
彼女の言葉が本当なら意地悪してごめんね。で済むが、ジュードが思うように本当にスパイだったのなら国際問題である。
どちらか解らないとしても、隣国の宮廷魔術師の曾孫が本当なのなら王都に突き出すべきだ。
国王陛下より直々に検分頂いた上、穏便に済ませるなら隣国にお帰り願うしかない。
しかし突き出せば彼女はただでは済むまい。
どんな結果であったにせよ、だ。
ジュードはラファエレの耳元に直接言葉をかけた。
「君はとても危うい位置にいると自覚するべきだ。」
覗き込むジュードの顔を涙目で見上げるも、何と答えて良いか解らない。
ただ一番気になる事だけ尋ねてみた。
「…首ですか。」
先程から何度目かはもう解らないが又涙を拭ってくれる。
意思の固い淡いブルーの瞳にラファエレが写る。
ジュードの形の良い唇から迷いの無い言葉が溢れた。
「そうだな。」
ラファエレが瞼を閉じると大粒の涙が毀れて来た。
自由になった両手で顔を覆うと泣き崩れる。
”報われないなんて…セクハラで訴えてやりたい。こんなに我慢したのにっ…とても…怖かったのに…っ。”
パニックになったラファエレの頭の中が絶望で広がり、滅茶苦茶な事を考え出した。
もう文字を読ませて貰えないと思うと堪らなく悲しい。
ギルドの規定が何故自分には反映されないのかと思うと我が身が恨めしかった。
「ひどいひどい。」
嗚咽しながら訴える。
「…。」
「…ひどい。」
拳を作り力も無い癖にジュードの肩や胸を叩き、返事をしないその肩にしがみ付く。
先程ジュードの左手で象っていた彼女の身体がぴったりと彼の逞しい身体に張り付いて頭を擦りつけると動く度に花の香りが鼻腔を擽った。
そんな彼女を乱暴に引き離して伝える言葉にジュードは容赦が無い。
ソファに座らせてハッキリしかし静かな口調で処分を言い渡した。
「明日二人目の魔術師が来たら君は解雇だ。」




