024
またくる?
タスクは自分用に持って来た本をフィオナの部屋へ置いて行った。
それをまた来るからと言う証にした。
タスクと一緒にフィオナの部屋を出たエルミーラが、廊下を歩きながら少しだけ話しかける。
「フィオナ様とずっとお話していたの?」
「ああ、うん。外国の話をしてた。」
「それは楽しそうね。お部屋の外から笑い声が聞こえたので、少しはお元気になられたのかしら。」
「話してる時は楽しそうだったけどな。」
「なら良かった。タスクはお話し上手なのね。」
フィオナの笑顔を見て、エルミーラは嬉しそうに微笑む。
「子供同士だからだろ。」
タスクも素直とは言え、流石にエルミーラの褒め言葉を鵜呑みにも出来なかったのでそう答えた。
後程お茶を持って来るからと、エルミーラと別れたタスクは、書斎をノックした。
ふとノックしながら、トールが今までどんな授業カリキュラムを行っていたかの記録が、ジュードの所ならありそうだと思いつく。
決まったスケジュールがあったのなら、それを元に指導法を検討して行けば良いだろう。
“早く気付けば、良かったな。”
と思うものの、まあフィオナのあの状態から早めにジュードの書斎へ赴く事は不可能だったろうとも思い直す。
そんな事を考えていると、室内からドアが開き、執事がタスクの入室を許可した。
室内には、ジュード付の執事、アール、ジュードが出迎えてくれる。
と言うか、執事は一礼してくれたものの、アールは軽く片手を上げて、すぐジュードに向き直って話を続け、ジュードにいたっては、ちらとタスクに目を向けた後、すぐ書類に目を落とした程度の出迎えなのだけれど。
何か熱心に話をしているようなので、執事が用意してくれた椅子に腰掛けて、二人の様子を見守る。
魔術師はまだ着いていないようだ。
いくつか報告を終えた後、アールがタスクをちらりと見る。
「告別式はどう早まっても明日になりそうです。何と言いますか…」
何事か言いよどんでいる。
「遺体の振分けができていないのか。」
はっきり尋ねるジュードにアールは一瞬黙ったが、首を振った。
告別式を行う前に、遺族に遺体を返さねばならい。それには、出来るだけ遺体を綺麗にしてやらねば、遺族も浮かばれないだろう。
無残に殺された遺体を出来るだけ集めて綺麗にし、誰の遺体か解らない場合は遺品のみを見せる準備を、昨夜から本日午前中迄に何とか済ませ、それからすぐアール及び騎士団数名は、今回の事件で亡くなった遺族達に事件のあらましを説明しつつ、本人確認に出向いて貰うよう挨拶に回っていた。
現在、遺体と対面中の遺族はとても告別式まで出来る余裕も無さそうだし、遠方に住んでいる遺族もいるので、全員揃うまで余程の理由が無い限り告別式は無理だと言う。
「事件のあった日に遠方に住んでいる遺族への連絡は済ませ、遺体の引き取りについても連絡済ですが、全ての遺族が揃うまで告別式は控えるべきかと。」
「全員を集めるのは無理だろう。遠方に住んでいる遺族については後日私から挨拶に向かうから、せめて明日の正午に行うよう手配しろ。残された遺族に余裕が無くても、死んだ者は葬ってやらねならん。」
「はい。」
「告別式が終わったら私は暫く屋敷を空ける。王都に行かねばならん。」
「は…お帰りはいつに?」
「出来るだけ急ぐが正直期間は解らん。告別式は何処で行う予定だ。まさかここじゃないだろうな?」
いつ帰るかはアールへ向けて。
告別式については執事へ向けての質問である。
「墓所が近いので、ミクスチュア街の大きな日時計広場で準備中です。」
慣れているのかアールが沈黙し、執事が時を待たずして返答する。
「解った。タスクの告別式の衣装はあるのか?」
「はい。既製品ですが、すぐご用意できます。」
領主様はタスクを見ずに頷き、話の続きをアールに視線だけで促す。
俺も出て良いもんなのか?とタスクが質問しようとするものの、タイミングが掴めない。
無視ですかー。
「少し休憩されては?」
心配そうに覗き込むアールの視線に、眉間に皺を寄せて書類を睨むジュードが片手を振って答える。
息子同様睡眠が足りていない。
このメンバーで睡眠が足りている者等誰もいないのだが。
「告別式までに準備できる事は全て済ませたい。構うな。」
アールは黙って一礼してから報告を続けた。
司書官に文献を調べさせているが、モンスターを封印したような文献がまだ見つかっていない事。
また大きな塚を崩して窪から這い出た痕跡があるのは間違い無い事。
窪の中の状態が、自然に出来た穴ではなかった事を告げる。
「タスクの言う立方体状に広がっている窪みの調査結果は、四方5mきっかりありました。巨大な岩を上から立方体状に刳り貫いて、あのモンスターを閉じ込めていたのでは無いかと推測しております。」
「どういう状態だ?出口が一切無いのか?」
「そうですね。空いていたのは天井のみで、大きな塚が蓋代わりになっていた模様です。塚の根元には何か文字が書かれておりました。また、立方体の壁にも文字がびっしりです。」
「タスク、読んでみたか。」
「俺が見た時は、暗くて文字まで確認できませんでした。」
とタスクは肩をすくめる。
それを見てすぐアールに向き直る。
「何と書いてあった?」
「我々には読めません。魔術師間で使用されているルーン文字では無いかと思われます。」
書類を睨みながら話を聞いていたジュードは、片眉を吊り上げて、アールを見上げた。




