リリムと作戦会議
王宮の重厚な門を背に、待ち構えていたオルドリッジ侯爵家の馬車へと滑り込む。
お茶会という名の探り合いで、精神力を根こそぎ削り取られたはずだった。
しかし、不思議なものだ。
ほんの少しディノ様と言葉を交わしただけで、沈み込んでいた心がどこか軽くなっている。
凍えていた胸の奥が、小さな灯火を宿したようにぽっと温かくなる。
揺れる車内で、その余熱を慈しむように、そっと胸に手を当てた。
――単純ね、わたくし。
馬車の中にいるのは、焦げ茶の髪と、同色の瞳を持つリリムだけだ。
普段の彼女は侍女らしく控えめで、影のように周囲へ溶け込む振る舞いに徹している。
けれど、リリムと二人きりになれば、もう誰の視線も気にする必要はない。
堅苦しい王宮から切り離されたこの狭い空間なら、淑女の仮面を脱ぎ捨てても許されるだろう。
外の喧騒も、他人の耳目も届かない。
一切の気を張らずにいられる安堵感に、どうやら自分でも気づかないうちに表情が緩んでしまったらしい。
「ご機嫌ですね、お嬢様」
その声に含まれた柔らかな響きで、すぐにわかった。
わたくしが笑えば、この侍女もまた、ほんの少しだけ嬉しそうに目を細めるのだ。
「ええ、まあ。でも……ディノ様が、女性と親しくしていたのは驚きましたけれど」
今思い出しても、胸の奥が微かにざらつく。
あの場へ割り込んでやろうかと思わなかったと言えば、嘘になる。
けれど、令嬢としての矜持が、醜く取り乱すことを許さなかった。
「上司のようでしたし、互いに異性として意識している様子はありませんでした」
「そこは安心したわ」
ふぅ、と小さく溜息をつき、耳の上でねじり合わせた髪にそっと手を伸ばす。
そこに添えられた花の飾りの位置を、指先で確かめるように軽く整えた。
「……わたくし、変な顔をしていなかったかしら? 一応、いつもの微笑みを心がけていたつもりだけれど」
「ご心配には及びません」
リリムは即答した。
その声に迷いの色は一切なく、あまりに潔い響きだった。
彼女の揺るぎない言葉を耳にして、ようやく胸のざわつきが潮が引くように収まっていく。
「どの角度、どの瞬間を切り取っても、お嬢様は女神のようにあられます。微笑めば春の陽光、沈黙すれば夜明け前の静寂。陽に熟した亜麻の穂のごとき髪、理性を甘く溶かす藤色の瞳。貴女の存在そのものが調和であり、その場の空気さえ整えてしまう。変な顔など、万に一つも――」
「もう、いいから」
リリムと二人きりになると、たまにこうなるのだ。
主であるわたくしを全肯定し、どこまでも高く褒め称えてくれる。
途中で遮らなければ、おそらく侯爵邸に到着するまで延々と続いていたことだろう。
よくもまあ、これほど流暢に言葉が出てくるものだと感心してしまう。
……意外と語彙力が高いのよね、リリム。
向けられる賛辞は決して悪い気はしないけれど、こうも真っ直ぐに並べ立てられると、さすがに面映ゆさが勝ってしまう。
そんなやり取りを交わしているうちに、馬車はオルドリッジ侯爵家の敷地へと入り、ほどなくして見慣れた屋敷の正面に到着した。
自室に戻るなり、わたくしは椅子に深く腰を下ろす。
そして、傍らで待機するリリムへ顔を上げ、その瞳をまっすぐに見据えた。
「それで。エリーズ様が“何か仕掛けてくる”というお話……詳しく聞かせてくれる?」
わたくしの問いに、リリムは一切の迷いなく、ただ静かに事実を伝えた。
「はい。ラディエル抽出液を入手したとの情報を掴みました。彼女は……“機会は一度で十分”と漏らしていたそうです。ただ――現時点で、祝賀の場で用いると断定できる証はございません。自身で使用する可能性も否定はできませんので」
リリムはそこで一度言葉を切り、声を一段落とした。
ふと向けられた影を帯びた瞳には、隠しきれない鋭い疑念が宿っていた。
「……鎮静作用を持つ薬剤自体は他にもいくらでもございます。にもかかわらず、南方原産のラディエル抽出液をわざわざ取り寄せている時点で、不自然です。入手経路も限られますから、何か思惑があるのかと。時期と発言を踏まえれば、警戒すべき対象であることは確かです」
茶会の去り際に見せた一分の隙もない柔らかな微笑。
あの意味深な台詞まで揃えば、何もしないとは思えない。
「十分よ。確証なんて要らないわ。“使われる可能性がある”――それだけで、対処する理由になるもの。……いつ使うつもりなのかしら?」
「配膳の手順が固まっている料理や、給仕が管理するカトラリーに細工をするのは、大勢が見守る中ではあまりに無謀です。……ですが、トレイで運ばれてくる飲み物であれば、一瞬の隙を突くことは不可能ではありません」
「分かったわ。心に留めてきましょう。……それにしても、何故そのような行動を起こすのでしょうね? それしきのことで、結果が変わるはずもありませんのに――」
ラディエル抽出液。
不眠や神経過敏の鎮静、術前の不安緩和などに用いられる、穏やかな鎮静成分だ。
医療現場でも扱われるもので、決して違法な薬物ではない。
作用は緩やかで安全域も広く、致命的な影響を及ぼす類のものでもない。
だが、摂取量を誤るか、あるいは悪条件が重なれば、話は別だ。
……とはいえ、仮に口にしたとしても、軽い眩暈や一時的なふらつきが出るかどうかといったところ。
わたくしの失態を狙う以外に、なにかあるのかしら……。
他に思い当たる節がないのが、かえって不気味だわ。
どちらにしろ、王太子妃という“結果”を左右するには、あまりに重みに欠ける。
祝賀という公の場でそのような真似に及ぶのは、どう考えても浅慮だ。
――エリーズ・スタイナーは、もっと計算高いと思っていたのに。
少し、がっかりしてしまう。
「焦っているのかしら」
「その可能性は高いかと」
彼女を買い被りすぎたかしら。
取るに足らぬと断じようとした、その時だった。
リリムが、ほんの少しだけ言いにくそうに、含みを持たせた声を漏らした。
「あいにく本筋とは逸れるのですが、少々気になる話を拾いまして……スタイナー令嬢と、フィデル卿が接触していたという情報も掴んでおります」
……は?
思わず耳を疑った。
「スタイナー令嬢は機嫌が良く、距離も近く……身体に触れる場面も確認されています」
なん……ですって……!
その瞬間、頭の中で何かが、ぷつりと音を立てて切れた。
わ、わたくしだって!
ディノ様をお見かけするたび、そのまま抱きついて頬ずりしたい衝動を、どれほど必死に、抑え込んでいると思っているの!?
それを――身体に触れる、ですって……?
……これは、見過ごせる話ではない。
「……エリーズ様。貴女のことは嫌いではありませんでしたけれど」
ここにはいない、赤毛の王太子妃候補に向けて、地を這うような低い声で呟く。
「評価が、一瞬で変わりましたわ。わたくしの許可なくディノ様に触れるなんて、万死に値する愚行です」
「さようですね。……消しますか?」
リリムが、瞳孔の開いた真顔で淡々と尋ねる。
わたくしが首を縦に振れば、彼女は今夜にでも実行に移しかねない。
この子の前で、あまり物騒な言葉を軽々しく口にするべきではないわね。
少し、落ち着かなくては。
「……いいえ。今のは、わたくしの言い方が過ぎたわ。反省します」
――だからといって、エリーズ様を許す気など、微塵もありませんけれど。
この侍女は、わたくしの世話係であり、密偵であり、そして護衛でもある。
わたくしが表立って動けない分、文字通り影となり、手足となって動いてくれる存在だ。
……本人に伝えれば、きっと恐縮して否定するのでしょうけれど。
わたくしは、彼女のことを友だと思っている。
決して裏切ることのない、心を許せる数少ない人物。
だからこそ、彼女にだけは――血で手を汚すような役目など、背負わせたくなかった。
「疑問なのだけれど。エリーズ様とディノ様に、接点なんてあったかしら?」
「確かに。フィデル伯爵家は政治に関与せず、権力闘争にも無頓着な、いわば可もなく不可もない家柄。……ですが、ここ七、八か月ほど前から、新たな事業に乗り出しているようです」
「実務型の……確か、文書管理の事業だったかしら」
「はい。実際に動いているのはフィデル卿のご両親とご長兄ですが、王宮の文書標準化に関わる公務の一環で、協力を仰いだ貴族ともやり取りをされているとか。かの方も手伝い程度には関わっておられるのでしょう。……それならば、仕事上でスタイナー令嬢と接点が生まれても不思議ではありません」
「そうね……」
仕事上の付き合い。
それならば、顔を合わせる機会くらいはあるかもしれない。
……けれど。
身体に触れるなどという真似、仕事関係という言葉で片付けるには、あまりに不自然極まりない。
普段の彼なら一定の距離を保ち、軽率な行動はしないはず。
それとも、あちらの接近を躱す余裕さえ、今のディノ様には残っていないというの?
文官としての公務に加え、実家の家業。
きっと友人も多く、お付き合いも欠かせないのでしょう。
それに加えて、あの難儀なお兄様の相手までされている。
精神的な負担は相当なものに違いない。
……目の下に差していた隈も、おそらくその心労のせい。
過労で倒れてしまわないか、案じてしまう。
そんなわたくしの内心の推測をなぞるように。
リリムはさらに別の可能性を付け加えるように告げた。
「あるいは――どちらかが、見初めるなどして明確な好意を持って近づいたか」
「…………」
一番考えたくなかったことを、わざわざ言葉にしないでほしい。
わたくしは思わず真顔になり、不快感を示すように口を真一文字に引き結ぶ。
「やはり、排除なさいますか?」
……まだ、何も言っていないわ。
勝手に察して、短絡的な解決策を導き出さないで。
ちらりとリリムを見遣る。
忠実で優秀な侍女だけれど、時折先走るところがある。
彼女のように結論を急いではいけない。
どのような事態であろうとも、今は冷静に、何より冷静に考えなければ。
何の計画もないまま感情で動けば、状況を悪化させるだけだ。
だから「消す」のは、あまりに分が悪い。
せめて、エリーズ様が仕掛けてくるのと同程度の、ささやかな嫌がらせに留めておくべきで――
――待って。
その瞬間、思考の歯車が、音を立てて噛み合った。
薬……そして、この体質。
もしかしたら、使えるのではないかしら。
エリーズ様とディノ様の関係は気になるけれど、ひとまず脇に置く。
あの方は、誠実さゆえに決してこちら側へ踏み込んでこない。
そしてこちらもまた、"けじめ"をつけずに踏み出すことは許されない。
王太子妃候補である限り、この距離は縮まらないのだ。
何より、自身の迂闊な一動は、彼を「排除すべき対象」へと変えてしまう。
だからこそ。
この立場にいる限り、永遠に「そこ」へは辿り着けない。
……ならば、やるべきことは決まっている。
ずっと頭を悩ませていた「王太子妃候補から外れる方法」。
その具体策が、今ようやく形になりかけていた。
――さて、感傷はここまでにしましょう。
わたくしは顎に手を当て、視線を遠くへと漂わせて思案にふける。
複雑に絡まりかけた思考を整理しようとする横で、リリムはただ静かに、佇んで見守ってくれていた。
その沈黙が、焦りそうになる心をわずかに鎮めてくれる。
それでも、意識は同じ場所を巡るばかりで、決定的な糸口が掴めない。
答えの出ないもどかしさに小さく息を吐いたその瞬間、リリムがまるで見透かしたように、銀の小皿に甘い菓子を添え、淹れたてのお茶を差し出した。
「――お疲れのようです。どうぞ」
「……さすがね、リリム。ちょうど、糖分が欲しかったところよ」
甘味を口に運び、糖分が染み渡るのを感じながら、考えを組み立て直していく。
わたくしが案を出し、リリムがそれを容赦なく指摘し、修正し、補強する。
それはまるで、バラバラだった絵札が、一枚ずつ正しい場所へ並べられていくような感覚。
あちらが用意した舞台を、こちらが望む結末へと書き換えるための準備。
考えすぎた反動で、頭の芯がじんと痛み始めた頃――その計画は、ついに確かな形を成した。
わたくしは空になったカップを静かに置き、満足げに口角を上げる。
懸念すべきは、エリーズ様の動向。
彼女が祝賀の席で何かを仕掛けてくることは、すでに把握している。
まず、ラディエル抽出液は命に関わる薬ではない。
仮に予定を変えて毒を盛られたとしても、致命的な量でなければ対処は可能だ。
なぜなら――王太子妃となる宿命を見据え、候補になる少し前から毒に身体を慣らされてきたのだから。
最初は昏睡に近い状態に陥り、命の境を彷徨ったこともある。
けれど、徐々に耐性は形成され、今では軽い薬程度では反応すら鈍い。
これは、家族以外の誰も知らない秘匿事項だ。
王太子妃候補に選定される際、一通りの健康診断と薬理反応の確認は行われている。
だが、それはあくまで当時の状態に基づくものであり、その後の変質までは想定されていなかった。
あの頃は、わたくしの身体に異常は見られなかった。
毒への耐性も、まだ発展途上に過ぎなかったからだ。
その後も簡易的な診察は行われていたが、日常生活に支障がない限り、薬理反応の詳細な再検査までは実施されていなかった。
しかし、段階的に施された処置によって体質は変貌し――結果として、通常の薬理すら安定して受け付けない、不確定な状態へと変質していた。
ならば――この体質を、逆に利用する。
大筋は、こうだ。
健康面での「客観的な不適格」。
それこそが、王太子妃の座から降りるための最短ルートだ。
エリーズ様の仕掛けは、承知の上で受ける。
薬が適切に作用せず、不自然な反応を示すこの体――これこそが、わたくしを自由にするための鍵となる。
空腹による低血糖、式典の緊張、そして祝杯のアルコール。
――そうした体調の揺らぎは、この場において決して珍しいものではない。
そこに、わたくし自身の特異体質という不確定要素が重なれば、結果は一層曖昧になる。
それらが偶然重なった「不運」に見えるよう整えたうえで、祝賀の場で彼女が持ち込んだ成分に過剰反応してみせればいい。
数多の視線が注がれる中で鮮やかに倒れてみせれば、嫌応なしに医師の介入を招くことができるはず。
事前に買収を済ませた医師による診断――彼には、このように証言させる。
薬が適切に作用しない体質である以上、万が一の際、医療的な対応が成立しない恐れがある。
通常であれば問題にならない程度の鎮静成分であっても、この体質においては作用が極端に偏る可能性がある。
過剰な抑制か、あるいは予測不能な反応か――いずれにせよ、制御不能であることに変わりはない。
特に、王太子妃として避けて通れない「出産」の場。
鎮静や止血、不測の事態への処置など、薬理的な介入が必要な場面で投与量の調整が利かないとなれば、医療側は母子の安全を担保できない。
それはすなわち、次代を成す責務を果たすには、あまりに危険が大きすぎるということだ。
――かつて二十七年前にも、同様の事情による“事故”を契機に、王妃選定が再考に至った前例がある。
この異常を王家が看過するはずもなく、いずれ王宮医師による厳格な診察が執り行われるだろう。
だが、薬への異常な反応そのものは紛れもない事実。
この体質を前にして「安全である」と断言できる医師など、この国には存在しないのだ。
そもそも、王家というものは常に最も安全な道を選び取る宿命にある。
その上で、さらに一押し。
彼にはこうも言わせておく。
「改善の可能性は否定できないが、いつ、どの程度まで回復するかは不明である」――と。
不治とまでは断言せず、かといって保証もしない。
その曖昧な状態こそが、後継問題を危惧する王家に「この者を王太子妃の立場に留めておくことはできない」という決断を促す決定打となる。
たとえ正規の診断を仰いだとしても、最終的な結果に大差はないだろう。
だが――医師の口から告げられる、ほんの僅かな判断の揺らぎ。
それが積み上げた計画のすべてを覆す可能性を、完全には否定しきれなかった。
不確定要素は、最初から切り捨てておく必要があった。
もし、医師の買収という「保険」をかけなければ。
「確かに危険ではあるが、経過観察で様子を見るという手も……」
そうした余地を、王家に残してしまうかもしれない。
だが――それでは、足りない。
「母体としての安全は担保できない」
「次代を担う王太子妃としては、不適格である」
医師の口からそう示されれば、王家が迷う理由はなくなる。
……その一言で、すべてが決まってしまうのだとしても。
王家にとって致命的なのは、選定の過程で起きた不祥事そのものではない。
それを見抜けず、不適格な者を選び続けてしまったという「王家の判断の誤り」だ。
王太子妃候補の一人が、祝賀の席で他候補の身体を害する暴挙に及んだ。
片やもう一人には、次代の安泰を揺るがしかねない、体質ゆえの制約が突きつけられた。
あろうことか、そのいずれもが祝賀という公の場で、衆目に晒される形で露呈した。
ここまで条件が揃えば、もはや候補者同士の比較や情けなど入り込む余地はない。
どちらか一人を残すこと自体が、「王家は問題を承知の上で選んだ」と公に認めることになる。
ゆえに、導き出される答えは一つ。
両名を、候補から外す。
結果。
わたくしは“健康面の問題”で、正式に候補から外れる。
同時に、薬を盛ったエリーズ様も処分の対象となる。
それが毒であるか否かは、もはや重要ではない。
祝賀の席で、私的に持ち込んだ薬理成分を用い、他候補の身に異変をきたさせた。
――その事実だけで、断罪するには十分だ。
それに――
彼女を王宮に残せば、再びディノ様に接触する機会を与えかねない。
真意は測りかねるが、災いの種は小さいうちに摘み取っておくに限る。
こうして憂いを断った上で、わたくしはこの不安定な体質を理由に療養という名目で、王宮を離れる。
世間の評価は、「可哀想だが致し方ない」といったところに落ち着くだろう。
ラディエル抽出液を使うかどうかは、あちらの選択。
けれど――使わせるための条件は、すべて整っている。
……それでもなお、何も起きないのなら。
その時は、わたくし自身の手で、幕を引くしかない。
――すべてを終わらせるために。
一連の計画を聞き終えたリリムは、心底感じ入ったような、感服の色を隠せない表情を浮かべていた。
「……やはり、お嬢様は天才です」
「大袈裟よ」
「いいえ。神が人の世に与えた奇跡の一つが、お嬢様なのです。慈悲と理性を併せ持ち、勝利のために自らを犠牲にする。その在り方こそ、真の高貴」
「褒めすぎだわ」
すべてを真に受けていては、それこそ傲慢令嬢一直線だ。
適度に聞き流さなければならない。
「それに、リリムが手伝ってくれたお陰だもの。これからも頼りにしているわ」
「お嬢様……!」
両手を組み、潤んだ瞳で熱っぽく見つめられる。
またしても称賛の言葉が溢れ出しそうだったので、茶菓子の片づけを口実に、彼女を部屋から退出させた。
――方向性は決まった。
あとは、当日を待つだけ。
わたくしは静かに微笑む。
「エリーズ様。祝賀――楽しみですわね」
もし、おとなしくしていれば。
エリーズ様も王太子妃という栄華を掴める道があったのかもしれない。
けれど、祝賀の席で動くと決めたその瞬間に、彼女の末路は定まっていた。
もう、後戻りはできない。
運命の分かれ道は、すぐ目の前に迫っている――
ヘスティアの作戦が分かりにくかった、という方へ。
簡単にまとめたものはこのようになります。
・過去の検査時には問題がなかったため、特異体質は見逃されている。
・その体質を逆手に取り、祝賀の場で薬をあえて受ける。
・不自然な体調不良を演出し、異常な薬理反応を公にする。
・買収した医師に「王太子妃として不適格」と断言させる。
・薬を使ったエリーズの責任も含め、両者とも候補から外させる。
・何も起きなければ、別の手段で自ら辞退する。




