第20話「第二幕」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
彼女が本当に神崎を裏切ったのか、それとも誰かに利用されているのかは、まだ明確ではない。
城戸正宗の言葉が落ちたあと、会場の空気はすぐには動かなかった。
「第二幕」
その言葉は、芝居のようにも聞こえる。だが、この部屋にいる記者たちは全員理解していた。城戸正宗は比喩で言っているのではない。本当に、この社会を「舞台」として見ている。
そして今、舞台の幕を上げようとしている。
最初に沈黙を破ったのは外国メディアの記者だった。
「城戸さん、第二幕とはどういう意味ですか?」
城戸は慌てる様子もなくグラスの水を一口飲み、ゆっくりとマイクの位置を整えた。
「七年前の話をしましょう」
そう言ってから、少しだけ会場を見渡す。
「当時、神崎修司という俳優がいました。人気があり、影響力もあり、テレビも映画も順調だった。業界の誰もが、次のスターだと考えていた人物です」
数人の記者が神崎の方を見る。
城戸は淡々と続けた。
「つまり、物語の主人公としては申し分ない人物だったということです」
会場の空気が、わずかに緊張する。
「ただし、物語には必ず転落が必要になる」
城戸は小さく笑った。
「英雄は堕ちるからこそ、観客はその物語に夢中になる。そういうものです」
その言葉を聞いた瞬間、神崎の表情がほんのわずかに動いた。
神崎はゆっくりとマイクの前に歩いた。記者たちの視線が一斉に集まる。
「つまり」
神崎は城戸を見据えた。
「俺の転落も、あなたの脚本だったということですか?」
会場が静まり返る。
城戸はすぐには答えなかった。ほんの数秒、沈黙が流れる。その沈黙は、意図的なもののように感じられた。
そして城戸は、小さく笑った。
「いいえ。そこは少し違います」
神崎の眉がわずかに動く。
城戸は落ち着いた声で続けた。
「あなたは予想外でした。普通、あの状況に追い込まれた主人公は舞台から消えます」
記者たちのペンが走る音が聞こえる。
「ですが、あなたは戻ってきた。しかも今度は、舞台そのものを壊そうとしている」
神崎は何も言わない。
城戸は神崎を見ながら、少し楽しそうに言った。
「それは脚本家として、なかなか興味深い展開です」
神崎は静かに息を吐いた。
「つまり」
「まだ脚本の中にいるってことですか?」
城戸は肩をすくめた。
「人間はみんな、何かの物語の中にいます」
そしてゆっくりと言った。
「違うのは、自分がそれに気づいているかどうかだけです」
会場が静まり返る。
そのとき、後方の記者席でざわめきが起きた。誰かがスマートフォンを見て声を上げた。
「スポンサーが降りました!」
一瞬、会場の視線がそちらへ向く。
別の記者が続ける。
「三社です。テレビ局の番組スポンサーが同時に降板しています」
記者たちが一斉にスマートフォンを確認する。SNSとニュース速報が同時に動いていた。
神崎はポケットからスマートフォンを取り出した。
画面には真壁からのメッセージが届いている。
「予定通り」
神崎はそれを見て、小さく笑った。
城戸はその表情を見逃さなかった。
「なるほど」
城戸はゆっくりと言った。
「あなたの作戦ですね」
神崎はスマートフォンをしまい、城戸を見た。
「スポンサーはテレビ局より世論を怖がる。だから世論を動かせば、番組は止まる」
城戸は感心したように頷いた。
「観客を奪う作戦ですか」
神崎は答える。
「脚本を書き直してるだけです」
会場の記者たちは、二人のやり取りを息を止めて見ていた。まるで舞台の芝居を見ている観客のようだった。
城戸は少し考えるように黙った。
それから、ゆっくりと笑った。
「いいでしょう」
そして会場全体を見渡しながら言った。
「それでは第二幕を始めましょう」
記者たちのざわめきが再び広がる。
神崎はその言葉を聞きながら、初めてはっきり理解した。
この戦いは、単なる復讐ではない。
芸能界と報道の争いでもない。
これは――
物語の支配権を巡る戦争だ。




