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パパラッチ・パパラッチ  作者: 礼嗣


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第21話「観客」

『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧

■神崎(かんざき) 修司(しゅうじ)

本作の主人公。

元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。

現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。

芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、

メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。



■真壁(まかべ) 葵(あおい)

パパラッチ・パパラッチの調査責任者。

元新聞記者。

報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。

理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。

神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。



■佐伯(さえき) 圭一(けいいち)

神崎の元マネージャー。

神崎が新人だった頃から担当していた人物。

しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。

神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。



■黒川(くろかわ) 真也(しんや)

週刊誌記者。

七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。

仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。

神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。



■相良(さがら) 宗一(そういち)

芸能界の大物プロデューサー。

テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。

神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。



■城戸(きど) 正宗(まさむね)

広告業界の伝説的存在。

日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。

テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。



■有里(ゆり)

神崎の元恋人。

七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。

現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、

神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。

彼女が本当に神崎を裏切ったのか、それとも誰かに利用されているのかは、まだ明確ではない。

城戸正宗の「第二幕を始めましょう」という言葉のあと、会見室は一瞬だけ沈黙した。


その沈黙は長くは続かなかった。記者たちが一斉に動き出したからだ。椅子の音、シャッター音、英語と日本語が入り混じる質問の声。さっきまで舞台の芝居を見ていた観客が、急に現実に引き戻されたような騒ぎだった。


「城戸さん! スポンサー降板についてコメントを!」


「神崎さんとの対立は事実ですか?」


「七年前の件について説明してください!」


質問が飛び交う。


城戸は慌てる様子もなく、その騒ぎを静かに見ていた。まるで自分が作った芝居を観客がどう受け取るのか、楽しんでいる演出家のようだった。


神崎はそれを見ていた。


この男は焦らない。世論がどう動くかを、誰よりも理解しているからだ。スポンサーが三社降りたくらいで動揺するような人物ではない。


城戸はマイクに向かって言った。


「スポンサーの判断については、企業の自由です。ただし一つ言えることがあります」


会場が少し静まる。


「スポンサーは視聴者を見ている。つまり、世論を見ているということです」


数人の記者が頷く。


城戸は続けた。


「そして世論とは、つまり観客です。観客が何を見たいか。それがメディアの方向を決める」


神崎はその言葉を聞きながら、小さく笑った。


城戸が言いたいことは分かっていた。


世論は操れる。


そして操れるものを使うこと自体は、悪ではない。城戸はそういう思想の人間だ。


神崎はマイクを取った。


「城戸さん、一ついいですか」


城戸は穏やかに頷く。


「どうぞ」


神崎は会場を見渡した。国内のテレビ局、海外メディア、新聞社、週刊誌。日本の情報を作る人間のほとんどが、この部屋に集まっている。


「さっきあなたは言った。人は物語を求めるって」


城戸は頷く。


「その通りです」


神崎は続けた。


「でも、それは半分だけだ」


会場が少し静かになる。


「人は物語を求める。でも、それと同時に、嘘も嫌う」


城戸は黙って聞いている。


神崎は言った。


「七年前、俺は嘘の物語の中に落とされた」


数人の記者が顔を上げる。


「証拠もない。断定もしない。ただ“そうかもしれない”っていう記事が並んで、テレビがそれを流して、世論がそれを信じた」


神崎の声は落ち着いていた。


怒りは感じられない。ただ事実を話しているようだった。


「そのとき俺は思ったんだ。この世界は、物語を作る側が強すぎるって」


城戸が静かに聞く。


神崎は続けた。


「だから今、俺はやってる」


「パパラッチ・パパラッチ」


会場の何人かがその名前を書き留める。


「記者を取材する。情報を作る人間を取材する」


城戸はそこで少し笑った。


「それはつまり、脚本家を取材するということですね」


神崎は頷いた。


「そういうこと」


城戸は椅子にもたれた。


その表情は、むしろ面白がっているように見える。


「神崎さん」


城戸は言った。


「あなたは面白い」


神崎は何も言わない。


城戸は続けた。


「でも一つだけ、あなたは勘違いしている」


神崎が目を細める。


「観客は、真実を求めているわけではありません」


会場の空気が変わる。


城戸は淡々と言った。


「観客が求めているのは、納得できる物語です」


神崎はその言葉を聞きながら、少し考えていた。


そしてゆっくり答えた。


「じゃあ」


会場を見渡す。


「試してみよう」


城戸の眉がわずかに動く。


神崎は言った。


「観客が、本当に何を見たいのか」


その瞬間、会場の外でまたざわめきが起きた。


誰かがドアを開けて入ってくる。テレビ局のスタッフらしい男だった。


「速報です!」


会見室の空気が揺れる。


「スポンサー、さらに二社降板です!」


記者たちが一斉にスマートフォンを確認する。


SNSのトレンドが急上昇している。


「メディア構造」

「神崎修司」

「スポンサー撤退」


神崎はその様子を静かに見ていた。


そして、城戸を見る。


城戸は数秒間スマートフォンの画面を見ていた。


それからゆっくり顔を上げる。


そして、微笑んだ。


「なるほど」


その声は落ち着いていた。


「観客を動かすのは、なかなか上手ですね」


神崎は答えた。


「まだ始まったばかりだ」


城戸は小さく頷いた。


「ええ」


そして静かに言った。


「第二幕ですから」


会見室の空気が、また少しだけ変わった。


神崎はその変化を感じていた。


城戸正宗は焦っていない。


むしろ、戦いを歓迎している。


そして神崎は理解していた。


この男は敵ではあるが、同時にこの戦いの観客でもある。


つまり――


この物語は、まだ本当に始まったばかりなのだ。

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