19 黒い太陽
山の麓に着いた。すでに沢山の岩がごろごろしている。カニバーリェス卿は地図を頼りに、洞窟の位置を確認し始めた。そして、地図を懐に仕舞うと、部下に松明を持たせ、一つの洞窟へ入っていった。セルヴァンテスは、ウィリアムを抱き上げたまま、カニバーリェス卿に続いた。
洞窟の中には、確かに以前、人が使っていたのであろう痕跡があった。蝋燭の短くなったものや、刃こぼれした剣、それに骨が大量にあった。よく見れば、大型の動物の骨もある。壁には色あせて剥がれかけてはいるが、絵が描かれている。洞窟を進むにつれ、骨の量はますます多くなっていった。
水場に出た。鍾乳石がたくさんあり、上からも下からも角のように生えている。水は青く濁っていて、飲めそうにはない。カニバーリェス卿は、一切を気にせず、水の中を、音を立てながら進んで行った。セルヴァンテスや他の部下もそれに倣ったが、どうやら水底にも骨はあるらしく、何人かが引っかかって転んだ。ウィリアムはセルヴァンテスの服を今まで以上にぎゅっと握った。
水場を通り過ぎて少し歩くと、広い空間に出た。だが、行き止まりだった。扉があり、その前に祭壇がある。カニバーリェス卿は無言で立っていた。
「閣下、どうなさったんです。」
セルヴァンテスが不思議そうに尋ねた。それと同時にウィリアムを降ろした。
「ここは、クシュ族がアゼルの扉と呼んでいた祭壇だ。中には、国王陛下の御所望の品がある。」
「陛下の・・・?」
「そうだ。制海の宝玉と言われている。マリアネという名の石だ。これを手にすれば、海の魔物を統べる力を得、この世の七つの海を制するという。スペインこそが・・・太陽の沈まぬ国が、全てを制するべきなのだ。」
兵士達がどよめくのが分かった。
「だが、この扉を開ける為には、あるものが必要だった。」
カニバーリェス卿はしゃがみこんで、扉の前の祭壇らしきものの水入れに、いつの間に汲んだのか、先程の水場の水を注いだ。
「前にここに来た時は、我々はその存在すら知らなかった。だが今は違う。」
カニバーリェス卿はそう言うと、くるりと振り返った。そして、ウィリアムの方に手を伸ばし、一気に左目の包帯を剥ぎ取った。周りにいた者が、セルヴァンテス以外、後ずさった。
「竜の涙だ。」
ウィリアムの目が恐怖に見開かれた。




