第10話 共食い
森の中を一心不乱に駆ける、説明を求めて来るベンには簡単に説明をしたところ、ベンも事の重大さをすぐに理解してくれ、それ以降は何も聞かずにブレンドン達が待つ野営地へ向かっている。
俺達が持ち帰る情報だけでは情報不足かも知れないが、現場で判断をしてしまうと取り返しが付かなくなる恐れが有るため、再び斥候に出る事も考えて早めに帰路に付いた。
当然時間よりも早く帰って来た俺達にブレンドンは驚いたが、ベンも共に帰って来たために一瞬で冷静さを取り戻した、
「ベンも帰って来たという事は、二人が最善だと判断したって事だろう。本来なら全員集まってからのが良いが、一刻を争う程の事態って事だよな」
ブレンドンの言い分を聞き、俺は即座に状況を説明した、
「まず、大量のハンマーヘッドの死体を見つけた。今回の任務は尻尾を持ち帰る事だから、いくらでも入手は可能だ」
「狩らずとも手に入るという事か、それで試験に合格と言うのもあまり喜ばしい事では無いが」
「もちろんそれはわかっている、そのハンマーヘッドを殺したのもハンマーヘッドみたいなんだ。足跡を丹念に調べてみたが、体重違いの足跡が有るだけで、ハンマーヘッドを殺す程の生き物の存在は確認できなかった」
「ハンマーヘッドは共食いをするのか、それは聞いた事が無いな」
「俺も無いさ、ただ、共食いならまだマシさ」
俺の言葉にブレンドンは少し驚きの表情を見せたが、すぐに平静を取り戻して、
「まだマシと言うのは、どういう事だ」
「言っただろう、大量の死体が有ったと。つまり、ハンマーヘッドを大量に喰う為じゃ無く、ただ殺して回るヤバい個体が居るって事だ」
「な、なんだってー」
ブレンドンも大声を出さずに叫んだ、しかし、ルイスとダンは叫び声をあげた後で口を手で押さ、空いた手を差し出して謝罪の意を伝えて来た、もう遅いけど。
野営地は死体発見現場から離れてはいるものの、嗅覚が優れた生物なら俺達の後をつけて来る事も考えないといけない。当然夜に行動していた事を考慮すると、聴覚も優れているだろう。
恐る恐る後ろを振り返り、地面に耳を当ててみたけれどそれらしい足音は聞こえず、ほっと胸を撫で下ろした。
「ロバートとバーナードは大丈夫かな」
嫌な空気を変えるために、ブレンドンが斥候に出ている他の二人の心配を口にした、俺達もその事は気がかりだったが、探して回るにも範囲が広すぎるし、あの二人も狩竜人学校の卒業生なのだから、心配では有るが二人を信用するしか出来る事は無い。
「二人が帰って来てからこれからの事を決めよう、尻尾を持ち帰れば任務は達成だ。納得は出来ないだろうけれど、どんな方法でも依頼を達成する事は最重要任務だから、それに関しては問題は無い。問題が有るとすれば、その異常個体が襲って来た場合、逃げるか、戦うか。戦うにしてもシリルたちが持ってきた情報は少なすぎる、逃げるとしたら・・・、逃げ切れるかなぁ」
「わからない、あれだけ大量のハンマーヘッドを追いかけて殺してる個体だ、逃げるって選択肢は悪手かも知れないね」
ここで俺の悪い癖がじわりと溢れ出て来てしまう、逃げるよりも戦いたい、どれぐらいの強敵なのだろうか、俺は今どれくらい強いのだろうか、俺は顔を見られない様にみんなに背を向けた。
逼迫した深刻な状況の中で、みんなに顔を見せる訳にはいかない。
今、俺の顔は笑っている筈だから。




