第七話「休息と修復」
補足ですが、この世界の成人は十八歳です。
ショウは部屋に着いた途端、急に眠気が襲ってきた。
シンと出会い、機械軍からの逃走、そして夜明けの拠点到着――。
疲れているのも当然だった。
三兄弟に促され、急ごしらえながらも寝心地の良さそうなエアバッグベッドに身を沈める。
まだ朝の光が薄く差し込み、埃がきらめく。
ショウはまぶたを閉じ、静かに深い眠りへと落ちていった。
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――その頃。
工場区画では、ダンとシンが並んでいた。
鉄の扉を抜けると、金属の響きとオイルの匂いが漂う。
窓から差す午前の陽光が、工具やパーツを淡く照らしていた。
「君は、一度もコンバートしたことが無いのか?」
ダンの声は、どこか試すようでもあり、心配そうでもあった。
「はい。僕の記憶の中では一度も……」
「ふむ。確かにこんな辺境では、設備もパーツも満足に揃わんからな。」
ダンは作業台の上の工具を手に取りながら言う。
「だが、ここに来る前はどうだったんだ?」
シンは少し間を置いて答えた。
「……ここに来る前の記憶はあります。でもすごく曖昧で。
ただ――人間だった頃の記憶だけは、少しだけだけど鮮明に思い出せるんです。」
ダンは静かにうなずいた。
「そうか。まあいい。」
少しの沈黙のあと、彼は語り出す。
「知っているとは思うが、コンバートは“現在の機体から別の機体へ意識を移す”技術だ。
中央都市では、コンバート専用の機体も多い。
――因みにだが現在確認されている、どの生命体にも意識の移行は不可能だ。」
「不可能……?」
「そうだ。理由は解明されていない。
おそらく、“適応できない”のだろう。意識が、他生物の肉体に。」
ダンは言葉を区切り、少し遠い目をした。
「これは仮説に過ぎんが……意識の入っていない人間のクローン体であれば――」
言いかけて、ダンは口を閉ざした。
「……いや、この話はやめておこう。現状では意味のないことだ。」
重たい沈黙が、短く落ちた。
そしてダンは咳払いをして、話題を戻す。
「さて、コンバートは完成された別の機体に意識を移すから特に問題は起きない。
だが――“別のパーツを現在の機体に取り付ける”となると話は変わる。」
「どういうことですか?」
「こちらも原因は不明だが、必ず“拒否反応”が出る。」
「きょ、拒否反応……?」
「そうだ。よくある例が、取り付けたパーツを無理やり外そうとする。
錯乱状態になり、自分を攻撃し――最悪の場合は破壊に至る。」
シンは不安げに肩をこわばらせた。
「ぼ、僕は……大丈夫なんでしょうか?」
「私の技術があれば、“最悪の事態”だけは避けられる。」
「そ、それ以外は……?」
「それは――頑張ってくれ。」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんな危ない橋渡りたくなっ――」
「少年を助けたくないのか?」
ダンが食い気味に言う。
その言葉に、シンの演算回路が一瞬凍りついた。
――ショウを守る。
あの時、確かに誓った。
「……守ります。僕が必ず!」
ダンは満足そうに軋んだ金属音を鳴らす。
「いい覚悟だ。」
二人の視線が交わる。
鉄と光が反射し合う中、どこか人間的な温もりが宿っていた。
ダンがふっと笑い、何かを取り出した。
「これは私のとっておきだ。携帯型リペアツール。
このツールを使えば、自由にパーツを交換できる。
まだ試作品だがな。大事に使えば、何度かは持つだろう。」
彼は小さな装置を三つ、シンに手渡す。
「いつでも取り出せるよう、衝撃を受けない場所にしまっておけ。」
「……あの、なぜこんなにも親切にしてくれるんです?」
ダンは少し目を伏せた。
「ただの親切心ではない。
――あの少年に“希望”を託したいのは、私も同じなのだよ。
過去の過ちを、繰り返さないためにもな。」
シンは静かに頷いた。
「……そうですね。」
「湿っぽい話はやめだ。まずは腕以外の破損を調べよう。
この椅子に座ってくれ。」
シンは指示に従い、作業椅子に腰を下ろす。
ダンの手が、精密な工具を操りながら、慎重にシンの機体を調べていく。
カン、カン、と工具の音が軽く響く。
工場の天井から差す光が、金属の表面で反射し、細い線のように揺れていた。
部屋に掛けてある時計から、朝を知らせる機械鳥の音が鳴り始めていた。




