第二十二話「親玉」
広場の噴水がかつてないほど吹き上がり、異形の機体に悲鳴を上げていた。
両腕がワーム、腹から股下にかけてはチップソー。両肩には多弾追尾ロケット。
脚は三角キャタピラで、背中には無数の触手と特大ブースター。
そして首から上は、目も鼻もない、裂けた口が印象的な滑らかな蛇のようなフォルム——。
「うげぇ」
「…趣味悪い」
「汚物かよ」
「ああはなりたくないね」
「ゴミだな」
「原型も留めないほど粉々にしましょ〜」
「え、これ全員言う感じ!?えっと……に、人気出なそう…」
トーテム・ワームは無言のまま、両手のワームを肩幅に突き出して突進してくる。
「怒ったぁーー!!!」
「いやぁー!反対にもいるんだったーー!!」
「二手に別れて対応しましょう、コメット!行きますよっ!」
「指図しないで欲しいんだけどぉ〜?」
二人は異形に突進していった。
「僕たちは大きい方を!」
「やってやるよぉ〜!」
「……英雄に…私はなるっ」
「ショウは退避してろよぉ!」
「ぼ、僕だって……」
遠くから声が響いた。
「お〜い、ショウきゅ〜ん!!」
「きゅん?」
バレッタが横から抱きついてきた。
「はぁはぁ……ショウきゅん……はぁはぁはぁ……」
「うわあああ、バレッタさん!?どうしたんですか!?」
スリスリしながら彼女は答えた。
「ナニって〜、助太刀だよ〜?」
「ありがたい!増援ですか!?」
「うん、ワタシだけぇ〜」
「いや、ひとり!?」
その後ろから、息を切らせた女性たちが現れる。
「あのっ!私たちも戦わせてくださいませんか!」
「あなたたちは街の……」
「今まで戦ったことなど一度もありませんが、何かお役に立てると思うんです!」
「このままでは天井が崩れて皆潰されてしまう……」
「死んでいった息子たちの弔いに、希望を繋ぐ戦いに、微力を尽くしたいんです!」
バレッタは噴水の跡地を見つめ、数秒考え——頷いた。
「……わかりました、では作戦をいいます!
噴水の周りは漏水で液状化しています。そこにワームを落とします!
貴方たちは街に落ちているちぎれた電線を集めて!」
「はいっ!!」
「ショウきゅんはシンにメルダのハンマーを取ってこさせて!」
「うん、わかった!」
「きゃわわっ♡」
---
——ギガワームはその場でグルグルと回転し、全てを薙ぎ払っていた。
「おいおい、これじゃ近づけねぇぞ?」
「弾も弾かれるよぉ〜」
「…別のアプローチが必要」
「別の……?」
「…ショウに頼む」
後ろからショウが走ってきた
「シンっ!メルダさんのハンマーが必要なんだ、悪いけど取ってこれる?」
シンが走り出す。「お安い御用だよ!」
「...ショウ、いいところに来た.....頼みたいことがある。」
「え?」
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「よしっ見つけた!早く戻ろ、重ぉぉ!!」
メルダが瓦礫の間に残したハンマーを回収し、シンが戻る。
エリナはショウが組み上げた銃を手にブツブツと呟ていた。
「……フフッ、念願チャージショットガン……」
「エリナさん、ちょくちょく怖いよぉ〜!!」
「持ってきたよショウ!」
「ありがとうシン! バレッタさん持ってきました!」
「ショウきゅん、しゃいこうぅ♡」
「電線も集め終わりました!」
「よし! 電線は片側を輪っかにして、もう片方はワームを中心にして柱に括り付けなさい!」
「ハンマーはどうしますか?」
「ハンマーは〜、シンがフルスロットルでカチ上げて噴水に沈めるの〜!」
「了解!」
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——一方、コメットたちの戦線。
「フハハッ!どうした? やはりウィルスなど取るに足らんなぁ!」
「クッ、両手のワームが厄介だな」
「ええ、表面にも回転刃が付いていて……悪趣味な攻撃だこと」
「戦術と言え!戦術と!!」
振り回されるワームを、コメットはリンボーダンスのように避けていく。
だが、セレナは避けきれず吹き飛ばされた。
「セレナ!?」
落下する寸前、ショウがキャッチする。
「ぼくがセレナを守るよ! 安心して戦って!!」
「ロン……あなたは、何時だってセレナのヒーローなのね?」
コメットが感激で顔を覆う
そして異形のほうへと向き直り、顔が三つとも憤怒に変わる。
「テメェ、うちの娘に手ぇ出してタダで済むと思うなよ?」
鉄パイプを掴み、紅修羅は静かに揺れた。
「マーシャ、あっちに加勢しな。こいつはアタシが消す」
「ほぅ……やってみるがいい」
ショウの腕の中でセレナがかすかに囁いた。
「ロン……アタシのお願いを聞いて」
「セレナ!?どうして?いやそんなことよりっ.....わかった、ぼくにできることなら、何でも言って!」
「アタシを……言った通りに改造して欲しいの……」
「!?」
---
——その間も、現場は動く。
「準備完了! 総員、ケーブルをギガワームに投げるのよ!!」
バレッタの合図で一斉にケーブルが掛けられ、ワームが硬直する。
「今よっ! シン!!」
『フルスロットル・ハンマー!!』
極太ワームが跳ね上がり、噴水跡へと叩き落とされた。
「やったー成功だー!!」
「まだよ! このままコアを破壊する!! コール、爆弾をありったけ放り込んで!!」
「言われなくてもなぁ!」
しかし、喉奥の鉄板が邪魔をする。
「これじゃトドメが刺せねぇ!」
「…私に任せて」
エリナが助走をつけ、跳び、回転しながら特大ショットガンを突き立てる。
『二連チャージバースト!!』
炸裂音とともに口が花のように咲く、
「コール、今っ!」
「言わずもがなぁ!」
『ナイン・トス・ボム!!』
ボゴォォォォンッ!!!
花が散り、ギガワームは沈黙した。
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——背後。
「オラオラオラァ!! 崩れろ砕けろ細切れろぉぉぉぉ!!!」
コメットの狂気的な咆哮。
誰かが呟く。「紅修羅……」
「グッ、グガッ、ガガッ、ガァー!!!」
「娘の痛みを思い知りなぁー!!」
トーテムの反撃。細いワームがコメットの足をすくう。
「!!?」
「ここまでだ、そろそろ潰れるがいい……!!」
その瞬間——
「コメットさん、セレナ返します!」
ショウのボードが横から飛び出す。
ボードに括りつけられたセレナの口が黄色く光った。
『チャージブレス!』
目の前まで迫っていた両腕ワームが弾け、トーテムの体勢が崩れる。
「ママ、ただいま!」
「……おかえり、セレナ。これを片付けたら……みんなでお祝いしましょう」
『六槍・怒髪天!!』
六本の槍が加速してトーテムを何度も何度も串刺しにする。
「ぐぉおおお! ウィルスなんぞにぃぃぃぃ!!!!」
——コアが砕け、鉄屑は塵と化す
長き戦いの末、人機軍が勝利を掴んだ。




