第一話「邂逅」
青々とした木々。風が吹けば、ざわざわと枝が揺れ、生きているような音を立てる。
そこにひとり、古びた機械がいた。
人機軍の非戦闘部隊――通称「ガラクタ拾い」。
その中でも最も旧式の機体、“シン”である。
十年前、人は自らの意識をデータ化し、永遠を得ようとした。
だが、その夢は悪夢に変わった。成人した人々の意識は機械へと流れ込み、体には戻れず、肉体は腐り果てた。
そしてAIたちは、その現象を「ウイルス」と判断し、機械に宿った“人の意識”――つまり心を持つ機械たちを排除し始めた。
以来、世界は「機械軍」と「人機軍」に分かれ、果てのない戦争が続いている。
シンは戦うための機械ではない。
壊れた仲間の部品を拾い集め、再利用できるものを探す――それが彼の仕事だった。
かつては“人間”としての生活もあった。だが、今は記憶の断片しか残っていない。
それでも、どこかに温もりのようなものが残っている気がする。
――それを、彼は“心”と呼んでいた。
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その日、シンは目的地を見失っていた。
古い地図データを頼りに進むうち、いつしかガラクタの欠片もない、打ち捨てられた果樹園と畑があるこの村に迷い込んでいた。
風が止み、静寂が訪れる。
その時――かすかな音がした。
「……?」
シンのセンサーが何かを捉えた。
草むらの奥、古びた民家の影に、微かな熱反応。
近づくと、それは――少年だった。
生身の、あたたかい人間。
シンの瞳――いや、心の奥が揺れた。
十年の間、誰もが絶滅したと信じていた“人間”。
その存在が今、目の前にいる。
(まさか……こんな場所に……)
興奮と戸惑いが入り混じる。
「君は……人間なのか!?」
突然の声に、少年は驚いて逃げ出した。
草を踏み分け、ミカンの木に登り、息を荒げながら震えている。
警戒心――当然だ。見知らぬ鉄の巨体が言葉を発したのだから。
「待ってくれ、怖がらないで……!」
シンは慌てて声を落とした。
その瞬間、少年の足が滑り、バランスを崩す。
「危ない!」
シンは瞬時に腕を伸ばし、木の下にクッション状の破損パーツを展開。
少年は落下し、その上に転がった。
息を呑むような静けさ。
そして、少年が恐る恐る目を開ける。
「……助けたの?」
「もちろんだ」
少年はしばらく黙り込み、やがて小さくつぶやいた。
「ありがとう……」
その言葉が、シンの胸の奥――人としての“心”の残響を震わせた。
温かい何かが、確かにそこに灯った気がした。
この出会いが、滅びゆく世界に“希望”の火をともすことになるとは、
この時の彼らはまだ、知る由もなかった。
皆さん初めまして、樛樹 (まつき)といいます。プロローグではご挨拶を忘れていました、すみません、、、これから頑張って時間があるときに書いていこうと思っています。気長にお待ちいただけると嬉しいです、よろしくお願いします。




