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キミは凛として強く 【エドガー編】


エドガーと婚約者の話をずっと書きたいと思っていたので【番外編】として追記しました。

色々思い出しながらとなります(^_^;)


出会いはリリアナがまだ料理修行に行っている頃になります。では、宜しくお願い致します。


いつだって僕の一番はアル兄ただ一人。

そう思っていた事もあるけれど、それと同じくらいアナも大切になった。



だって、出会った瞬間にピンと来たよ。

あ、この人は僕の義姉になるって。ね。



今は料理の修行だかなんだかって言って、遠く離れてるけど全部情報は筒抜けなんだよ。



アナに近づく男が居るって聞けば追い払う仕事は僕の役目。だって、清廉潔白なアル兄には、ほら、色々できないでしょ?色々とさ。



正々堂々してる人だから一対一で決闘を申し込みする!なんて言われたら、逆に相手に同情するよ。なんてったってアルバート・ラングドンとくれば第二騎士団団長でもあり騎士団の総大将だからね。

可愛い僕の大切な義姉(になる予定)リリアナには安心して料理の勉強だけ励んで貰いたいのさ。




そんな事を常日頃から考えいるエドガー・ラングドンこそ、第二騎士団副団長として有名な人物である。



ふわふわした柔らかな金髪。兄であるアルバートより少し薄い碧眼の持ち主で、とても騎士団に居るとは思えないほどの可愛らしい男性だ。あどけなさを残す17歳の青年は、女性とも見間違えるような天使の微笑みをいつも携えている。

そのくせ剣を持てば副団長の名に相応しく、圧倒的な強さで対峙した相手を叩きのめす人物でもあった。



ラングドン家といえば侯爵家という立派な家柄でも名を馳せているが、恋愛結婚主義としても社交界では有名だ。

兄弟は二人共婚約者を決めておらず、社交パーティーが開かれれば世の女性達が自分こそはと意気込む。そのお陰でラングドン兄弟が出席するパーティーは招待状を主催者から買い取る者が出るくらいの大盛況となるのだった。





エドガーはとあるパーティーに参加していた。



本来なら嫡男であるアルバートも出席するような王族主催の場だが、騎士団での仕事が立て込んでおり一人で出席することとなったのである。

アルバートがパーティーに参加した場合は、余程勇気のある女性でなければ声をかけられなかった。

金髪碧眼の美丈夫。がっちりした体躯に無表情からくる威圧感。

美し過ぎるゆえ神話にでてくる神のような神々しさ…。ご尊顔を拝む者や失神する女性までいる。



ようは手が届かぬ存在なのである。



しかし温和なエドガーならいける!と勘違いした女性たちが、彼の周りに先ほどから引っ切り無しにそれこそ入れ代わり立ち代わりやってきては互いに牽制しあって、やいのやいのやっていた。神は無理でも天使なら!!!と意気込みが凄い。



「あ〜、少し席を外しますね。みんな、ごめんね」



と言って給仕からオレンジジュースを受け取ると男性陣の輪に加わった。



「ごめん、僕を助けると思って匿ってくれるかな?」



瞳を潤わせ上目遣いで首をこてんと倒し、集まる男性陣におねだりをする。すると庇護欲が掻き立てられ『もちろんです!我々もエドガー様とお話をしたいと思っていた所です!』と快く受け入れてくれた。

可愛い世渡り上手は小悪魔も真っ青である。



年齢的にはお酒を嗜める年だったのだが、エドガーはお酒を飲むと『アル兄命!』に拍車がかかってしまう。

前に2人で出向いたパーティーで飲んでしまった時はアルバートの背に引っ付いて挨拶に来る全ての人間を追い払い、握手を求めに来ようもんなら『触んないで! ガルルル〜』と噛み付く勢いで追い払った。

アルバートは可愛い弟のする事だからと『噛むのは止めなさい』と言うだけで済ませたが、周りに絡むウザい奴なのでラングドン家からは外出先でのお酒を禁止されたのである。



ただ、アルバートもいない。

リリアナもいない。

この場は退屈であった。実りのない会話にも飽き始めたエドガーは次にどうしようかと考える。



(挨拶も済ませたし、もう帰っちゃおうかなぁ〜)



辺りを何気なく見渡し、人の流れを観察する。

パーティーの顔ぶれや揉め事が起こってないかをチェックするのは仕事がら癖のようなものであった。



(問題は…、無さそうだな。 よし!ご飯をたくさん食べてケーキを食べて帰ろう)



どこの令嬢は素晴らしいだの、縁を結ぶならどこの家が良いだの盛り上がる男達に『僕は(食事を済ませて)そろそろ失礼するよ。みんな、今日はありがとうね』と挨拶をしその場を離れた。



用意されている食事はほとんど残っていた。

目を輝かせ、舌でペロリと唇を舐める。

悩む必要なんてない。

食べたい物を片っ端から取れば良いのだから。

兄がいれば、程々に。と言うかも知れないが、彼に甘いアルバートなら最後には取り皿に乗せてくれるだろう。



痩せの大食いであるエドガーは左の手に料理をたくさん乗せた皿、右の手に多種のケーキが乗った皿を持って人気のないベランダへと出た。口にフォークを咥えた状態なので、リリアナに見られたら怒られるに違いない。



きょろきょろと辺りを見回すとベンチがあったのでそちらへと移動する。



腰をかけてお皿をベンチの上に並べる。



「王族主催のパーティーで食べないなんてみんな馬鹿だなぁー。一流のシェフとパティシエが作ってんのにもったいない」


取ってきた料理にフォークをさし、次々と口へと運ぶ。人気のない場所ではマナーなんて気にしない。細い体のどこに吸いこまれるかと思うような勢いで料理がなくなっていった。



「まだ入るな」



自身の腹をひと撫ですると、おかわりするべく立ち上がる。すると階下から人の声が聞こえてきた。

手に取った皿を再びベンチへ戻すと声のする方へと足を進める。



すると庭へと向かう道から女性の声がしてきた。



「やめて下さい!!」



「やめてって言われてもなぁ、誰も来ないんだよ? お馬鹿なお嬢さんっ」



どうやら酔っ払った相手に庭の奥へと連れ込まれそうになっているようだ。



「まったくバカはお前だ」



自分は役職持ちの騎士団員だ。

しかも王族主催のパーティー。

どうせ庭だって巡回中の第一騎士団が多くいるだろう。

問題を起こせばすぐ家名がわれ、傷が付くというのにゲスなナンパをするとは飽きれる。と思いつつ、女性の気持ちを考えるといち早く助けなければと移動する。

すると、



「何をしているのです?」



凛と響く、落ち着きのある女性の声。



視線の先には、揉めている男女の後ろに立つスラリと背の高い女性がいた。

癖のない金色の髪を高い位置で一本結び、月で青白く光る白い肌は陶器のように滑らかである。イエローグリーンが神秘的で切れ長な目元は気が強そうだが好ましい。

彼女が纏う真っ赤なドレスは体に沿ったタイトなドレスで動きやすいように横に膝から下までスリットが入っていた。



「あぁん? お前みたいなデカ女に用はないんだよ」



「そうですか。奇遇です。こちらもあなたには用がありません。私はそちらの可愛らしい女性に用があります」



月明かりに照らされ、夜の女王のような女が震える女性へと手を差し伸べる。



エドガーはつい見とれてしまったが、すぐに気を取り直し、ベランダから階下へと降りる階段を下った。



「ねぇ、そこで何を揉めているの?」



酔った男が舌打ちをし、新たに現れた男へと視線を向けると目を見張った。



「なっ、こっ、これはエドガー様。なんでもありません、その、この女が…、そう、この女性が間違えて庭に出ていたので会場に案内する所ですよ!」



「へぇー、そう」

訳知り顔の笑顔は目元が笑っていない。



エドガー様がいらっしゃったのなら大丈夫でしょう。などと言って焦った男はその場から立ち去ろうとする。が、横を通り過ぎようとした所で夜の女王が足を引っ掛けて男を転ばせた。



「この方にそんな見え透いた嘘が通用するわけないでしょう? 女性に対する強引なあなたの振る舞い、私は許しません」



彼女の力強い言葉に一瞬怯んだものの、男は倒れた体勢のまま夜の女王の足首を掴もうとする。すると、すかさずエドガーが男の脇腹を蹴り上げた。



「ねぇ、僕から逃げれると思ってるの?」



すっと口元へ左手を持っていけばピーっと良く通る指笛を鳴らす。

数回リズム良く音を鳴らすと、警備にあたっていたであろう騎士達が集まってくる。



「これね、()()()が出たぞーって騎士団内の合図」



にこりと男へ向ける笑顔はとてつもなく可愛らしかった。





駆けつけた騎士達はエドガーに驚いていたが、後を任せ二人の女性へと向き直る。助けて貰った女性はエドガーに頬を染めつつもお礼を言って、夜の女王には手を握って何度もお礼を言うと立ち去っていった。



「夜の女王はなんて名前なの?」



エドガーは心のネーミングをそのまま使用して自分より背の高い女性に質問をする。



「えっ、夜の女王って?わたくしの事ですか?」



長い髪を揺らしながら、辺りをきょろきょろと見回す。



「変なこと言うね。夜の女王って言ったらキミしかいないじゃない」



変な事を言っているのはエドガーである。

ここにリリアナがいたらゲンコツが飛んでくるであろう。



「…そう、でしたっけ?失礼しました。 わたくし、ジャスミン・ベルドと申します」



「あ、ベルド伯爵家の? 昔そこに家族で遊びに行った事があるよ。キミのお兄さんかな?一緒に遊んだような気がするな。…でも、あれ?ベルド家って娘さんいたかな??」



ベルド伯爵家を訪問した際、そこに女子がいた記憶がない。

つい本当の事かと探りを入れるような目を向けてしまったのだが、一般人ならまずエドガーの柔和な眼差しからはそれも気がつかないだろう。

しかし、目の前の女性はわずかに体を強張らせ視線を避けるように目を逸らした。



「はい。お恥ずかしいのですが、その男子と思われる人物は…、わたくしです」



「嘘でしょーーっ!?!?」



エドガーの叫び声が辺りに響いた。







父親の知り合いと言う事で、幼い頃に家族でベルド伯爵家に一週間滞在したことがある。

ベルド領はとても豊かな領地で農業が栄えている土地だった。

自然も多く、都会育ちの二人にとっては新鮮で始めての体験も多く学びも多かった。



特に伯爵家の男の子がやんちゃ坊主で一緒に日が暮れるまで遊んだ覚えがある。



「え? 絶対違うよー。だって真っ黒に日焼けしてて、髪も短くてずっと男の子の格好してたし、なんなら前歯だって一本抜けてたよ? 喧嘩相撲では勝てなかったし。 そうだ、名前はなんだったか…、ジャンって、え、ジャンってジャスミンって事?嘘でしょ?ジャンなの?」



両手で顔を覆い、耳を真っ赤にして『〜〜、わたくしです…。小さい頃は男の子になりたくて…』と言う声は小さい。

野山を駆け巡り、川にある浅瀬の石を飛んで移動するにはスカートは邪魔で男の子の服しか持っていなかった。

髪も森の中を探検するには枝がいたずらをするので短く切ってしまった。

あの頃の自分にはそれが当たり前の日常だったのです。と話してくれた。



二人は先程までエドガーが食事をしていたベンチへと戻って来ていた。ちなみに平らげた皿はそのままエドガーの右隣に置きっぱなしである。



「人って変わるもんだねぇ〜。だって、どっから見てもやんちゃ坊主だったジャンが、今じゃこんなに綺麗な女性になってるんだよ?信じられないよ」



エドガーはジャスミンの両手首を掴むと下におろし、顔をまじまじと見つめた。



わわわっと慌てるジャスミンに構わず、色々な角度から眺めてくる。『本当、よく見るとジャンの面影がある〜』などと呑気な事を言っているが、とうのジャスミンは毛穴という毛穴から汗が吹き出しそうである。



「それを言うならエドガー様だって。昔も可愛い天使のような外見でしたが、現在だって宗教画に出てきそうな美しい外見をしてらっしゃいます」



「だよね、知ってる」



エドガーは外見を褒められる事に慣れている。大体が天使のよう、可愛らしい、美しい。

正直、外見を褒められる事に嫌気がさしていた。

ジャスミンも他の人間と同じか…と少し胸に風が吹く。



「でも、外見に惑わされると痛い目みますけどね」



「どういうこと?」



こてんと首をかしげれば、赤面してカワッ、と言った後ゲフンと咳で誤魔化していた。きっと彼女も可愛いものが好きなタイプの人間なのだろう。



「だってエドガー様ってば、すっごい負けず嫌いですし。当時から私は大きかったので喧嘩相撲では勝ちましたけど、翌日は腕相撲を挑んこられてコテンパンにやっつけられましたよね? それにアルバート様が絡んだ時のエドガー様は、本当に強い…」



そうだ。思い出した。

あんなに楽しかったベルド領での思い出が記憶の奥にしまわれていた理由。



あの時の僕はベルド領のゆったりした雰囲気にのまれて調子に乗っていた。

都会には居ない動物達を見て浮かれていたんだと思う。



広い草原に放たれる羊の群れ。

それを時折追いかける牧羊犬達。元来動物が好きだった僕は、なぜ牧羊犬が居るかも考えずに犬におやつを与え、散歩と称して紐を付けて連れ出してしまった。



すると程なくして羊たちが騒ぎ出した。

慌てて戻ると野犬が羊を狩ろうと追いかけましているではないか。

連れていた犬は仕事を思い出したのか、強い力で走り出し、幼いエドガーは引きづられ倒れてしまった。

すぐに手を離したが倒れた拍子に両足を擦りむいたのである。



ジンジンとする両膝の痛み、野犬と牧羊犬の争う鳴き声、逃げ惑う羊たち。とんでもないことをしてしまった。

幼い心は恐怖に支配され、倒れたまま体が固まりその場から動けなくなる。



「エドガー!!」



兄の声が聞こえると一気に緊張が解け安堵する。

ぎゅっと抱きしめられ、叱るでもなく「もう大丈夫だ」と声をかけてくれる兄に涙が零れそうになった。



だが二人の背後から犬同士の激しい戦いの息づかいが襲ってくる。

アルバートの背中の向こうから迫りくる犬達。このままでは巻き込まれてしまう。



とっさにエドガーはアルバートを突き放し自分の背に庇った。



噛まれるかもしれない衝撃にきつく目をつぶるとギャギャギャンと犬の悲鳴が上がった。



そっと目を開ければ棒きれを持ったジャンが立っている。



「二人とも大丈夫?」



どうやら野犬を棒でぶっ飛ばして追っ払ってくれたようだ。ジャンも怖かったのだろう、手が震えてる。



「怖い思いさせてごめん。牧羊犬は賢いから、野犬や狼から羊の群れを守ってくれてるんだ。彼らは仕事をしていると言わなかったから…、ごめんね」



エドガーが悪いのに、自分も怖かっただろうに二人を守ってくれたジャン。

当時の僕は彼を二人目の兄だと思った。

だが楽しかった思い出は恐怖と重大な間違えを起こしてしまった羞恥から記憶に蓋をしていた。

過去を振り返ってもジャスミンは正義の味方で格好良い。



「あのさ、僕って外見整ってるでしょ?

アル兄より話しかけやすいみたいで地位と綺麗な容姿にすぐ女性が寄ってくる。残念だよ、滑稽」



そういうと自嘲気味に笑う。



唐突な話題に、ジャスミンはきょとんとするが続きを促すよう一つ頷いた。



「僕なんかより、よっぽどアル兄の方が誠実で格好良くて強くて頼れる男なのにね。

ま、アル兄には昔から大切な女性がいるからどんな女の子でも無理なんだけどさ」



「相変わらずエドガー様の中心はアルバート様ですね。見ていて清々しいです」



さらにジャスミンは『アルバート様が総大将になり、強さだけではなく粗野な部分が無くなった。と言うか規律が守られ、洗練された騎士団になったような気がします』と付け加えた。



「僕たち二人にはリリアナっていう幼馴染の女の子が居るんだけど、とっても可愛いの」



彼女の表情がどう動くか確認する。

すると可愛いと言った時に表情が明るくなった。やはり可愛いものが好きなんだろう。



「アル兄はアナが大好きなんだよ」



そう言ってジャスミンの手を握ってみる。

ピクッと反応は示すが、振りほどかれない。



「アルバート様には心に決めた方が居るんですね?」



へぇ〜、とかあのアルバート様に。とか言っているがこの話題が不愉快では無さそうだ。

アルバート狙いではないのだろう。



「僕はね、世界で一番アル兄が大好きなんだ。だからアル兄が一番大切にしているアナも大好き!僕のお嫁さんになる人はアル兄とアナにヤキモチを焼かない人じゃないと駄目」



自分の恋愛観を誰かに語ったことはない。

自分が兄とリリアナを特別に思う感情は他人にはわからないだろう。本当に二人の事が大好きだし、大切だった。



「ははは。エドガー様らしいですね。あなたはそれで良いと思います。大切な方がいるほうが強くなれるお方ですから」



それを聞いてエドガーは確信した。

握る手に力を込める。



「僕はね、今日から一番を増やそうと思うよ」



微笑む笑顔はきっと過去一で良い顔だったであろう。





ラングドン邸の陽当たりが良い東屋でリリアナとお茶をしていた。

婚約者であるジャスミンとの馴れ初めを聞かせて欲しいと強請られたからだ。

話を終えたいま、たまらなくジャスミンに会いたくなっている。



「確かに、勇敢で正義感が強い所がアルに似ているわね」



紅茶を飲んでいたカップを置くと姉が弟へ向けるような慈愛に満ちた目でエドガーを見つめる。



「すらっとしてて格好良いところも似てる。頭が良くて頼りなるし、僕より背が高いのを気にしてるのでさえチャーミングだよ」



「あら、格好良いジャスミンに可愛いエドガーなんて、お似合いな二人ね。早く会いたいわ」



そう言えば、リリアナも僕の事を可愛いと言うが気にならない。そしてジャスミンも一生懸命隠そうとしているが、可愛いものが好きだ。だからジャスミンには積極的に甘えて可愛いをアピールしている。



「なんだ、僕は好きな人には可愛いって思われたいんだな」



「なにそれ」



くすくすと笑うリリアナ。



「それで?いつ婚約って流れになったの?」



「そんなの直ぐに決まってるじゃない。僕はその場でジャスミンに『婚約者になって下さい』ってお願いしたんだよ。彼女は困惑してたけど、絶対に好きにさせるから!って。 パーティーから帰って両親に話して、翌日には一緒にベルド伯爵家に出発して…」



話の途中でリリアナに『ちょっと待って!翌日!?』と驚かれるが当たり前だ。

あんなに魅力的な女性をほっとけるわけが無い。



「エドガーは情熱的なのね」



と紅茶で喉を潤して言うリリアナにふふんと笑う。



「兄さんみたいに寛大じゃないからね。ジャスミンが旅になんて出たら騎士団辞めて追いかけるよ」



エドガーは兄の結婚が先だと言ってジャスミンとの入籍を先延ばしにしていた。

リリアナが帰って来てくれて一番安堵したのは自分かもしれない。



「ゔっ、スミマセン」



首をすくめて気まずそうに渋い顔をしている。飾らない彼女は多分、僕の初恋。誰にも言わないけどね。



「じゃ、僕は最愛のジャスミンに会いに行ってくるよ」



凛として強いキミに花束を持って会いに行こう。




ジャスミン(Side)


父親から『私の友人であるラングドン家のご家族が来週から一週間滞在する事になった。年の近い兄弟が二人来るから遊んで貰いなさい』と告げられる。



年の近いお友達が泊まりに来る。と聞いただけで期待に胸が躍る。

何して遊ぼう。

どこへ連れて行こう。

すでに来週が待ち遠しくて落ち着かない日々を過ごす。



だが前日の夜に気が付いてしまった。



「お迎えする時に着るワンピース、持ってないや」



侍女も『一着もありませんね』と困った顔をする。ジャスミンは一瞬悩んでから『ま、いっか。これ着よう』と言って上下お揃いの生地で出来たジャケットとズボンを取り出した。



『まぁ、素敵。ではリボンを付けてみたら女子力上がりますわ』と言って紺色の蝶ネクタイを出してくれた。



ラングドン家を迎える当日、服装を見た母が『あら。これはジャスミンってより、ジャンって感じね』と言って誕生したのがジャン・ベルドだった。



「それが今じゃ妖艶な夜の女王、ジャスミン。だもんなぁ~。僕は気が気じゃないよ。本人無自覚だからさ」



ベルド領に久し振りに遊びに来た可愛い婚約者が何やら拗ねている。

離れてる間、会いたくて、触れたくて、死んじゃうかと思った!とぐずった後だ。

愛おしくてにやにやしてしまう。



「夜の女王などと言っているのはエドガー様だけです」



ふわふわの髪を撫でてあげる。

二人は大きな木の下に座り、放たれた羊の群れを眺めていた。



「私ははじめからエドガー様に憧れていたんだと思います。帰られた後もラングドン兄弟は有名で、私の元までお二人のご活躍は届きました。…私なんかがおこがましいのですが、可愛いエドガー様を見て女性らしくなりたいと思ったのです」



頭を撫でる手をエドガーに掴まれる。

ゆっくりと口元へ運ぶとジッと見せ付けるように指先にキスをした。

真剣な眼差しに視線が釘付けになる。



「私なんかって言わないで。僕のジャスミン。例えばキミが気にしている身長差だって、ほら。こうすれば全く気にならない」



肩をトンと押し、背中を支えて後ろに倒す。

上に被さると大好きな人の顔が近付いてくる。



ちゅっ、と軽く触れるだけのキス。

それだけで全身が熱くなる。



「え、あの。エドガー様、外だから」



「安心して。ギャラリーは羊しかいないから」



その言葉にエドガーの肩越しから陰る気配に目をやれば、周囲を羊の群れに囲まれていた。



きゃあ!と叫べはエドガーの笑いが弾け飛ぶ。



「あ〜、やっぱキミの隣は幸せ」



羊たちの鳴き声と二人の笑い声が響いた。



これでエドガー編終了でございます。

ジャスミンSideを書いていて、ラスト一行!という所でデータが飛びました!!

長文でしたが、同じ物は書けません。

がっかりです。

そして再びチャレンジし、書き上げて読み直していたら保存前に操作ミスで無くなりました。

終わらない…。怖い!と思って書いたのがこちらです(笑)



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