少女の焦り
窓から入る月夜光が照明代わりとなる倉庫の一角。
二人の師の悩みを知らない少女は己の非力を呟きながら瞑想していた。
「もう誰の足も引っ張りたくない……」
絶対的強者である二人の師を間近でみているうちにミラは悟った。
いかに正義や正論を口にしようとも結局のところ《力》がなければそれらはまったくの無力であり理不尽な暴力に蹂躙されるだけなのだと。
だからこそ欲するは己の正義を貫けるだけの力。理不尽な暴力に対抗できる強さ。
ミラは二人の師の圧倒的な強さを心の底から渇望していた。
「もう少し……もう少しでコツが掴めそうなのに……」
時折感じる波打つような魔力の高まりと何かを掴めそうで掴めないモヤッとした気持ち。その頻度は日に日に増しており、ミラは薄々とだがその正体に気付きつつあった。
――限定魔法の開花。
十代にして魔法使いが到達する究極の境地とされる限定魔法の習得など世界的に見てもそう多くはない。そのほとんどは幼少期より神童や問題児と呼ばれ“例外”扱いされてきた人種であり、模範的で秀才タイプのミラとはほぼ対極に位置するような存在だった。
しかし例外と呼ばれる者だけが限定魔法を習得するわけではない。
つまるところは才能であり天賦の才なくして限定魔法の習得は事実上不可能だった。
「……ダメだ。また消えた」
ロウソクの火が消え失せるように霧散する魔力の高まり。
何もかもが元通りとなり、思い出したように疲労がどっとミラの全身に押し寄せる。
「今日はもういいか。風呂に入って明日に備えよう」
ここ最近は毎日が繰り返すように同じでそれに慣れてしまっている自分がいる。
焦る気持ちはあるが、自分ではどうにもできないもどかしさ。
ミラは険しい表情をして少しでも自力できることはないかと考えた。
「…………ッ」
そんな中で不意に感じた視線に釣られてミラは窓の外を眺める。
「今、屋根の上から誰かが見ていたような……まさかね……」
感覚的ではあるが、目の端で刹那それを捉えた気がした。
しかし改めて見てみると人っ子一人いない。
修業で疲れて幻覚でも見たのだろう。そう思い納得するのが普通だった。
「修行中に倒れるわけにもいかないから今日は早く寝よう……」
ミラの頭の中に今の出来事はすでになかった。
そもそも今はそれどころではないのだ。
なぜなら明日は二人の師匠が合同で修業に付き合ってくれる特別な日。
ミラにとっては実力を示し修業内容をステップアップしてもらう絶好の機会の場だった。




