二人の師
「セルヴァス。悪いけど後片付けをお願い」
「お嬢様……?」
「時間がないの。すぐにでも修業を始めないと」
「お帰りになられた今日ぐらいはゆっくりされても……」
「それはできないわ。ただでさえ足でまといなんだから」
学校では最優秀であっても実戦においてはただのお荷物だったという事実。
それはミラにとって今までの努力が一蹴される悪夢のような出来事だったが、前に進むためには最優秀であるという自負を捨てて自らがが弱者であることを認めなければならない。精神的にも肉体的にも疲れてないと言えば嘘になるが現実を理解した今、悠長なことを言っていられる余裕はなかった。
「ご指導のほどよろしくお願いします」
ケジメとばかりに師となる二人に深々と頭を下げるミラ。
「へえー……」
一瞬は呆気にとられた二人の師は互いに顔を見合わせ、示し合わせたかのように笑った。
「よせよ。俺は師匠なんて柄じゃねえ」
「私達は居候のようなものだし師匠面なんてできないわよぉ~」
「でも……」
「遠慮せず普段のあなたらしく振る舞えばいいの」
「ありがとう。ネイロさん」
「ネイロでいいわよ。よろしくねミラちゃん」
「はい! こちらこそ!」
先刻のいざこざはどこへやら――仲良しとばかりに手を取り合うミラとネイロ。
美少女と美女いう組み合わせはそれなりに絵になったが、おいてきぼりを食らった四条要にとってはなんとも言えない孤立感があった。
「お前らな。修業するか仲良しごっこするかどっちかにしろよ」
「無粋ね……」
「これだから男はダメね~」
「うるせーよ。それより俺の事はカナメと呼べ。いつまでもフルネームは不自然だろ」
「別にそうは思わないけど。たしかに変な名前だとは思うけど、あなたの国の名前を侮辱する気はないわ」
「うわぁ……可愛くねー……」
「うっさい。なんかあんたに言われるとすっごいムカつくんだけど!」
「そうゆうことなら気が変わった。やっぱ俺の事は師匠と呼んで土下座して崇めろ」
「それだけは死んでも嫌ッ!」
「上等だ。今日は足腰立たないぐらい可愛がってやるから覚悟しろよ」
徹底的に上下関係を叩きこんでやると言わんばかりにバキボキと手を鳴らす四条要。
そんな四条要に対してネイロが待ったをかけた。
「それはダメ」
「あん……?」
「今日の修業は私が見るからカナメ君はこの部屋の掃除を手伝ってあげて」
「はあ……!?」
「よろしくお願いしますね。ネイロさん」
「さっきも言ったけど、ネイロでいいわよ」
「ネイロさんの方が呼びやすいんでそう呼ばせて下さい」
「うふふ、まあ好きに呼んでもらってかまわないけど」
「ありがとうございます。では屋敷の裏手に修行場があるんで行きましょう」
親友さながらに談笑して部屋から出て行くミラとネイロ。
部屋に残されたのは敗残兵のようなオーラを醸す憐れな男二人となった。
「水でもお持ちしましょうか……?」
「いや、いい……」
ネイロに言われた通りせっせと部屋の片付けを始める二人。
お互い何を言っていいのか分からないうちに片付けだけが順調に進んだ。




