第4話「迫りくる軍勢」
コンドラッド伯爵家の仕えるカーライム王国は、大陸の最東端に位置する自然豊かな小国である。
当然、海に面する東の港町では、交易が盛んに行われ、大いににぎわっていた。
それに対し、西のほうは青々とした田園風景がひたすら広がっており、少し寂れているというかのんびりとした印象を受ける。
コンドラッド伯爵家が位置するのもその西のほうであった。
そして、王宮から出兵命令が出された理由もそれであった。
「むぅ……まさかジェルメンテが攻めてくるとはな」
シューベルは思わず唸った。
ジェルメンテとは国の名前でカーライムの西にある大国である。
昨日夜、ジェルメンテ軍約3万が国境付近に姿を現した。
そして本日朝、国境を越えたという。
王宮の使者が言うには、本隊が駆けつけるまでの間、近隣諸侯と協力してこれを足止めせよという。
「ううむ、厳しいな……」
「厳しいですね……」
シューベルとユイナは頭を抱えた。
いまコンドラッド伯爵家が出せる兵は約1000。近隣諸侯の軍を含めてもせいぜい1万にいくかいかないかといったところであり、とてもジェルメンテ軍と対抗することなどできない。
「まあ、とりあえずわしは近隣領主と話し合ってくる。ユイナはこのことをすぐに皆に伝え、いつでも兵を動かせるようにしておいてくれ」
「はい!」
そう言うと、シューベルもユイナもあわただしく動き出した。
そしてしばらくし将兵全員にこのことが伝わると、先ほどまで静かだったコンラッド伯爵家は一転喧騒に包まれる。
そんな中、オータスは何をすればいいかわからず、ただぽつんと部屋に佇んでいた。
国境を越え、カーライム領内へと侵攻したジェルメンテ軍は、カーライム人から『フェービスの野』と言われているところで休息を取っていた。
「伝令!カーライム軍1万がこちらへと向かっております!」
「1万……我らの3分の1か。フン、適当にあしらってやるぜ……」
伝令の報告を聞き、そう吐き捨てるのはシャイビット=グレオン。ジェルメンテ軍の総大将である。
だが、そんな強気な発言とは裏腹にシャイビットの額には大量の汗が流れていた。
なにを隠そう今回が初陣なのである。
彼はただ家柄だけで一軍の総指揮官になったのだ。
そのため、将兵からの信頼も低い。激しく忌み嫌っている者すらいた。
だからこそ、彼はなんとしてでもこの戦に勝利し、自分の力を皆に見せつける必要があった。
求めるものはただの勝利ではない。圧倒的な勝利。1万の小勢などに遅れをとるわけにはいかない。
しばらくして、カーライム軍から事情を聞く使者がやってきたがシャイビットはこれを斬った。
こうして、両軍の激突は避けられなくなったのである。