第3話「漆黒の剣」
オータスとユイナはシューベルに案内され、執務室の隣にある小さな部屋へと通された。
そこは客人をもてなすときに使う部屋のようだった。
「立ったまま長話というのもあれかと思うての。オータスさん、どうぞお掛けくだされ。ユイナも」
シューベルに言われ、オータスとユイナは並んで椅子に腰を掛ける。
そしてテーブルを挟んだ向かいにシューベルが腰掛けた。
シューベルの指示で侍女がテーブルに紅茶と焼き菓子を運ぶ。
上品な甘い香りが部屋を包み込んだ。
「さて……では初めから全て話してくれんかの。記憶を失ってから、この屋敷に足を運ぶまでの出来事を全て」
「はぁ、では……」
オータスは言われたとおりこれまでの経緯を全て話した。
気がついたら見知らぬ森にいたこと。
その森をわけがわからず彷徨っていたところをユイナに助けられたこと。
そしてユイナの家に泊めてもらったこと。
すると、黙って聞いていたシューベルは突如ニヤリと笑みを浮かべ、ユイナのほうを向いた。
「ほほう、家に……。19にもなって噂すらないから心配しておったが、なんだ大丈夫そうじゃの」
「そ……そんなんじゃありません!もう!」
意味を理解したユイナは頬を赤らめ全力で否定する。
その慌てふためく姿にシューベルはガハハと笑った。
ただオータスだけが一体なんの話かわからず首を傾げていた。
「まあ、冗談はこれくらいにして……。オータスさん、記憶を取り戻すための手がかりみたいなものもないのかの?」
「手がかり……」
先ほどとはうってかわり真面目な表情のシューベル。
本気でオータスの力になってやりたいという強い意思が伝わってくる。
オータスも必死に森で目を覚ましたときのことを思い返す。
そして、あることを思い出した。
「黒い剣……。そうだ、俺の近くに黒い剣があって……確かあのあとユイナに」
オータスはユイナのほうを向く。
森を出るとき、黒い剣は念のためにユイナが預かったのだ。
「ああ……その剣なら一応持ってきました。これです」
ユイナはそう言うと黒い剣をシューベルに渡した。
受け取ったシューベルはゆっくりと鞘から剣を抜く。
そしてその刀身の色に驚く。
「刀身も黒いとはなんとめずらしい」
シューベルはそう言うと剣をまじまじと見つめ、感嘆の息をもらした。
「はぁ~、こいつは業物じゃの。もしかしたらオータスさんは位の高い騎士かなにかだったのかもしれんの」
「俺が騎士……?いやいや、まさか」
オータスは即座に否定する。
だが、辻褄が合うのも確かだった。
刀身の黒い剣などというめずらしいものを一兵士が持っているわけがない。
持っているとすれば騎士、それもかなり位の高い者だろう。
それならば、森で倒れていたのも戦で敗れ、逃げている途中で気を失い倒れたのだと説明できる。
もちろん、傭兵や作った鍛冶職人その人という可能性もあるし、武器の売買をしている商人という可能性だってあるが。
「まあ、記憶はあせらずゆっくり思い出せばいい。思い出すまではこの地でゆっくりして行きなされ。この剣は返しますぞ」
シューベルはそう言うと剣を鞘に戻し、オータスに渡す。
剣を受け取ったオータスはそれをしばらくみつめた。
(俺は一体何者なんだ……。この剣を一体なにに使っていたんだ。もしも伯爵の言うとおり騎士だったのなら、国に忠義を尽くすべくこれを振るっていたのだろうか……)
そんなことをふと考えていた時であった。
部屋の扉がノックもなしに勢いよく開かれた。
「シューベル様、大変でございます!」
部屋に飛び込んできたのはシューベルの副官であった。
息を切らし、大量の汗をかいている彼の姿から火急の用件だとわかる。
「どうした?」
「それが、王宮から使者が先ほど参り、急ぎモルネス全ての兵を率い出陣せよと!」
「なに!?」
突然のことに驚くシューベル。
いま王国では戦乱の暗雲が立ち込め、それはコンドラッド伯爵家を、そしてオータスをも巻き込もうとしていた。




