02世話係として雇ってくれますか?
ストレスで暴れたり、喧嘩したりしている。
「みんな言うことを聞いてくれないんだ。強引に魔法で抑え込むのも可哀想だし」
フィルストは魔王のくせにめちゃくちゃ優しい気質。
「任せてください。専門分野です」
腕まくりをした。
「ドラゴン! 爪が伸びすぎてる、切らせて! ケルベロス喧嘩しない! 真ん中の首が寂しがってる! キマイラは食事のバランスが悪い、野菜も食べて!」
動物園仕込みの指導と、絶妙な撫で回しテクニックにより、わずか数時間で魔物たちは大人しくなった。みんな、気持ちよさそうに周りで寝転がっている。
「すごいな。魔法も使わずに従わせるなんて」
フィルストが目を丸くしている。
「彼らは寂しかっただけですよ。ねえ、魔王様。この子たちの世話係として雇ってくれますか?」
「もちろんだ! 君がいてくれれば安心して眠れる……いや、執務に集中できる!」
魔王は手を取り、跪いた。
「君を魔獣宰相として迎える。給金は言い値で払う。頼む、ずっとここにいてくれ」
こうして、新しい職場が決まった。毎日もふもふに囲まれて、優しいイケメン魔王様に感謝される日々。天国かな?
そんな一人の追放者が頬を緩めている頃、去った王国では大変なことが起きていた。
「どういうことだ! 魔物が大人しくならないぞ!」
ニラール王子が叫んでいた。マクレラを追放してから一週間、封印の森の魔物たちが活発に動き出していたのだ。
いつもならマクレラが定期的に餌と遊びを提供していたため、魔物たちは森の奥で満足していのだが彼女がいなくなった今、空腹と退屈に襲われていた。
「グルァァァ!(マクレラがいない! 腹減った! 飯よこせ!)」
魔物たちは森を出て王都近くの畑を荒らし始め、被害は日に日に拡大していく。
「大丈夫ですわニラール様! 浄化して見せますから!」
リスボンが自信満々に前へ出た。彼女は騎士団を引き連れ、暴れる巨大イノシシのグレートボアの群れと対峙した。
「穢らわしい獣たち! 聖なる光に焼かれなさい! ホーリー・フラッシュ!」
杖を掲げると目潰しのような閃光が炸裂した。これこそが聖女の力。なわけもなく、すごく眩しいだけの光。
今までならマクレラが「ごめんね、妹が悪戯して」とフォローしていたから、魔物たちも我慢していたが今は違う。
「ブギィィィッ!!(眩しいんだよコラァァァ!!)」
イノシシたちは激怒した。空腹でイライラしているところに、LEDハイビームのような光を浴びせられたのだ。キレて当然である。
「え? あれ? 消えない? なんで?」
リスボンが慌てる間に暴走したイノシシたちは騎士団の盾を吹き飛ばし、リスボンに向かって突進。
「きゃあああ! 汚い! 来ないでぇぇ!!」
リスボンは泥水たまりに派手に転ぶと、自慢の白いドレスが泥まみれになる。さらにイノシシたちは彼女の聖女の杖を奪い取り、バキバキに噛み砕く。
「ひっ……ひぃぃ……!」
騎士団が命からがら、救出したが王都軍は壊滅状態。さらに悪いことに、森の奥から主クラスの魔物たちまで動き出しそうになっていた。
ルッチチのブラックフェンリルが「マクレラを返せ」と遠吠えを上げているのだ。声は王城まで響き、ガラス窓をビリビリと震わせた。
「な、なんだあの声は……ひぃ!?」
国王が震え上がる。
「報告します! 封印の森の魔物たちが、かつてない規模で暴走しています! どうやら飯の時間が遅れていると怒っているようで……恐らくですが!」
「飯!? 奴らは人を食うのではないのか!?」
「いえ、それが……目撃情報によると、以前はマクレラ様が何かを与えていたと」
ここでようやくニラールも気づく。マクレラは闇の魔女として儀式をしていたのではない。魔物たちを管理し、抑え込んでいた猛獣使いだったのだと。
「あいつがいなくなったら、誰がこの化け物どもを止めるんだ!?」
答えは誰にもわからなかった。唯一わかっているのはこのままでは国が滅びるということだけだ。
追放者は現在、魔王城のテラスでフィルストとお茶をしていた。膝の上には子猫に見えるが、実はベビータイガーが乗っている。
「はぁ、マクレラ、君の国から使者が来ているが……どうする?」
フィルスト様が呆れたように言う。城門の前にはボロボロになったニラール王子と泥だらけのリスボンが立っていた。騎士たちに守られながら、必死に叫んでいる。
「マクレラ話がある! 出てこい!」
頼む側のくせに上から目線だなと、クッキーをかじりながら下を見下ろした。テラスに出たこちらを見つけると、ニラール王子が目を輝かせる。まだなにも言ってないのに?
「おお、マクレラ無事だったか! 許してやる! 今すぐ国に戻って魔物どもを止めろ! そうすれば追放を取り消してやるぞ!」
「お姉様ぁ! もういいから早く戻ってきてよぉ! あの犬たち全然言うこと聞かないの! 臭いし怖いし最悪なのよ!」
リスボンも泣き叫んでいるし、相変わらずだ。自分が許す側だと思っているし、魔物をどうにかする道具としか見ていない。




