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悪役令嬢に転生した私は破滅フラグを回避したいだけなのに、なぜか貴族社会の救世主扱いされています  作者: おーちゃん


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第12話 王太子アレクシス後編


 面会を終えたあとも、アレクシスはリリアナのことを考えていた。

 室に戻っても、書類に目が通らない。

 あの態度あの言葉のすべてが、以前のリリアナとは違っていた。

 なぜだろうか。

 その違いが、本当に心からの変化なのか。それとも、別の理由があるのか。

 アレクシスは複雑な感情に揺さぶられていた。

 数日後、彼は情報を集めることにした。

 使用人たちの話。ガルド騎士団長の報告。セレス魔導士と会ったとも。

 すべてが、同じ方向を指していた。


「本当に変わったのか」


 使用人への態度が変わった。侍女を泣かせなくなった。むしろ励ましているという噂まである。学園の同級生たちとの関係も、改善されているらしい。

 本当に変わったのかと、アレクシスは、自分でも驚くほど彼女のことが気になっていた。

 王太子としての冷静さを失うわけではないが、個人的な興味は、確実に深まっていた。

 変化の理由を探る必要があると考える。

 それは、王太子としての義務であり同時に、個人的な興味でもあった。


 近衛騎士団長ガルドがアレクシスの執務室に現れた。


「殿下。お時間をいただきたい」


 彼は真面目な表情で、以下のように報告した。


「リリアナ様は命を救ってくださったのです」


 アレクシスは思わず目を瞬いた。


「リリアナが?」


「はい。馬車の暴走から俺を。彼女は自分の身を顧みず、俺を引き倒してくださいました。助かりました」


 ガルドは、その時の情景を詳しく説明した。

 馬車の急襲。自分が気づかず、その進路上にいたこと。そしてリリアナが、咄嗟に自分を引き倒し、危険から救ってくれたこと。

 あのリリアナが、ガルドを?

 アレクシスは内心で驚いた。

 ガルドは、リリアナに対して最も警戒心を持つ人物の一人だ。平民出身の部下を見下すリリアナの態度を、嫌悪していたはずだ。

 そのガルドが、今、リリアナのために命を救われたと言っている。


「本当か」


「はい。疑いようもありません」


 ガルドは誇張するタイプではない。むしろ、必要最低限しか話さない男だ。

 そのガルドが、目を輝かせながら語っている。


「リリアナ様の行動は、純粋な慈悲だと思います。彼女は、自分の身を守るために、他者を救った。その行動こそが、真の優しさです」


 アレクシスは、言葉に思わず引っかかった。


「自分の身を守るために他者を救った?」


 ガルドの言葉は、少し奇妙だった。違和感は、すぐに別の思考に覆い隠されてしまった。

 本当に、何があったのかと、アレクシスの興味は、さらに深まった。


 その夜、アレクシスはセレスに会った。


「君はどう思う。リリアナの変化について」


「ふぅん。興味があるんだ、王太子殿下も」


 セレスは本を片手に、楽しそうに微笑んだ。


「リリアナは変わった。ただし、その理由は不明。だが、変化は本物だ」


「理由は不明、か」


「リリアナの瞳には、絶望と希望が同時に存在している。それは、何かから逃げるために、必死で別人になろうとしている者の瞳だ」


 セレスの言葉は、鋭かった。


「ただし、その別人になろうという努力そのものが、本物なのだ。リリアナは、ただ単に嘘をついているのではなく、本当に変わろうとしている。それが見える」


「そうか」


 アレクシスは、セレスの言葉を深く受け止めた。

 リリアナは、何かから逃げているのか。

 逃げ方は、本気の変化を伴っていると思っていた。


 夜、執務室で一人になったアレクシスは、窓の外を眺めながら静かに呟いた。


「リリアナ君は何を考えている?」


 変化の理由は分からない。確かなのは君は以前より、ずっと魅力的という事実だった。

 冷酷で傲慢なリリアナも、確かに令嬢としての美しさはあった。

 今のリリアナの方が、ずっと魅力的に見える。

 必死で何かを守ろうとする瞳。誰かのために、自分の心を変えようとする努力。

 その奥に隠された秘密。


「君の秘密は何だ?」


 アレクシスは、彼女の真実を知りたいという欲求に駆られていた。

 同時にもう一度、話したい、そう思ったとき、アレクシスは気づいた。


「私は君に興味を持っている」


 それは、王太子としてではなく一人の男としての感情だった。

 アレクシスは自分の胸に芽生えた感情を、確認した。

 それは、恋と呼べるものなのか。

 まだ、アレクシスは確信を持っていない。


「確かなのは君が分からないということだ」


 リリアナは、予測不可能だ。

 計算高い行動をしているようでいて、その奥には純粋な本能を感じる。

 自分を守ろうとしているようでいて、同時に他者のために動いている。

 その矛盾が、王太子の心を揺さぶった。


 次に会った時、アレクシスはリリアナに言った。


「リリアナ。私は君を信じる」


 今の言葉は、王太子としてではなく、一人の男として。


「君の考えを、もっと知りたい」


 アレクシスは気づかない。

 リリアナが破滅フラグ回避のために、必死で低姿勢を貫いていることを。

 リリアナの行動がすべて保身であることを。実は生き延びたいという本能だけで動いていることを。

 アレクシスは、リリアナの変化をすべて誠実さと受け取った。

 まるで心から改心し、自分のために変わろうとしているかのように。

 実際には、すべてが保身、計算、必死の努力なのに。


「君は本当に、面白い」


 アレクシスは、静かに興味を深めていく。恋という感情が、確実に膨らんでいくのを感じながら。

 王太子は、ただ、令嬢に心を奪われていくのだった。

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