十一話 あとのまつり
「では、私はこれで。旦那様もお疲れでしょうから、自室でゆっくりお休みになってください。書類仕事は終わらせておきましたので」
そう言って、ルチナはコツコツと軽快なヒールの音を響かせながら階段をのぼって去っていく。
俺は……その様子を、ただ呆然と眺めることしかできなかった。
____俺は、なんという思い違いをしていたのだろうか。
噂だけで知った気になって勝手に決めつけて、挙句の果てには初対面であんな言葉を言い放って……。
なのに彼女は、俺の妻として努めようとしてくれている。
心臓がドクン、と脈打つ。
胸の辺りが変だ。
それに……顔が、焼けるように熱い。
わかっている。
俺の中にある感情は、三つ。
まずは、ルチナに取り返しのつかないようなことををしてしまったという、罪悪感。
それから、今までの自分がなんて幼稚だったのかということを思い知らされた恥ずかしさ。
それから最後は……
「……バートン、俺が今から彼女との仲を深めることは、可能だろうか?」
「奥様は素晴らしい女性です。旦那様が心を込めて謝罪し、歩み寄る姿勢を見せれば……不可能ではないかもしれませんよ」
バートンはそう言って、ゆるりと微笑んだ。
……彼のこんな表情を見るのは、久しぶりだな。
「そうか。……では、早速今日の夕食はルチナと共に摂りたい。そこの……スーザンと言ったか。ルチナにそう伝えてくれないだろうか」
「ひぇっ、か、かしこまりました!」
俺が頼むと、スーザンという侍女はバタバタと階段を駆け上って行った。
「俺も一旦自室に戻る。各自持ち場へ戻ってくれ」
使用人たちにそれだけ告げて、俺はゆっくりと歩き出す。
鳴り止まない胸の鼓動と顔の熱が、少しでも治まることを祈りながら。
「…………バートン、俺は単純だと思うか?」
「それだけ奥様が素晴らしいということですよ」
「……そうか」
____俺の中に芽生えた最後の感情。
それは…………ルチナに対する好奇心と、異性としての興味だった。




