第32話 学園は、遅れて気づく
会議室の空気は、重かった。
「……結論から言う」
学園長が、深く息を吐く。
「我々は、判断を誤った」
誰も反論しなかった。
反論できる材料が、もう残っていない。
問題①:学園ダンジョン
「安定化が、追いついていません」
主任教官が報告する。
「魔力循環が乱れています。
原因は……不明です」
「不明?」
「ええ。
制御理論の範囲外です」
別の教官が、苦々しく言った。
「……“通界式”と呼ばれているやり方が、
外部で確認されています」
沈黙。
その名前は、誰もが知っている。
問題②:教育の限界
「最近の生徒は、伸び悩んでいます」
「指導は、変えていないだろう?」
「ええ。
だからです」
空気が、さらに冷える。
「通界で研修した者だけ、
明確に成長速度が違う」
「……つまり」
「我々の教え方が、古い」
口にした瞬間、
それは“学園の敗北宣言”だった。
問題③:流出
「優秀な生徒が、残りません」
事務局長が、数字を叩き出す。
「冒険者登録後、
通界を経由して外に出る」
「戻らない?」
「はい」
理由は、分かっている。
通界は、
止まらない
待たせない
命令しない
そして――
結果が出る。
誰の名前が出たか
「……では」
学園長が、静かに言った。
「我々は、誰に頼る?」
沈黙の後。
一人の老教官が、ぽつりと答えた。
「……彼しかいません」
「元生徒の?」
「はい」
「追い出した相手だぞ?」
「それでもです」
老教官は、視線を下げない。
「今の学園には、
“正しい魔法”がありません」
痛烈な言葉だった。
呼ぶ理由
「在籍を求めるのではありません」
学園長が、決断する。
「命令もしない」
「では?」
「見せてもらう」
どうやって学園が壊れかけているか。
どうすれば立て直せるか。
「教わる立場に、戻る」
誰も、異を唱えなかった。
封書
学園長は、震える手で封を押した。
協力のお願い
一時的な助言
身分・在籍に関する拘束なし
それは、かつての学園なら
絶対に書かなかった条件だった。
「……遅い、でしょうか」
誰かが呟く。
学園長は、正直に答えた。
「遅い」
一拍。
「だが、間に合わなくなる前だ」
学園長の独白
夜。
一人残った学園長は、窓の外を見た。
遠く、通界の方角。
光が増えたと聞く。
「……育てる場所、か」
呟く。
「育てられているのは、
こちらだったな」
学園は、ようやく理解した。
問題は、
あの男が規格外だったことではない。
世界が、先に進んでいたことだ。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




