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魔力ゼロって言われたけど、無限に溜まってたのでダンジョンから国を作ります  作者: 蒼井テンマ


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第3話 それ、こうやると簡単じゃない?

――結論から言うと。

黙っていようとした僕の努力は、一時間ももたなかった。


実技棟に入った瞬間、空気が違った。


昨日までの「見学席の人」扱いじゃない。

ひそひそ声のベクトルが、明らかに僕に向いている。


「……あれが、フェルド?」

「昨日、主任と話してたよな」

「魔力ゼロなのに?」


(うわ、注目されてる。最悪だ)


目立つ=面倒。

これは世界共通の真理だ。


「フェルド」


嫌な予感しかしないタイミングで、実技主任が僕を呼んだ。


「今日は、少し参加してもらう」


(来た……)


「もちろん、危険なことはさせない。ごく簡単な実演だ」


(“ごく簡単”ほど信用ならない言葉はない)


僕は結界内に立たされた。


対面には、昨日煽ってきた貴族っぽい少年――名前は確か、ルーカス。


「おい、ゼロ」


(呼び方が雑)


「口だけじゃなくて、実際にやってみろよ」


取り巻きが笑う。


「理論だけなら誰でも言えるからな」

「魔法は才能だぞ?」


(うん、分かる)


(だから僕は、やりたくない)


実技主任が間に入る。


「ルーカス。挑発は不要だ」


「いえ、主任。本人が言い出したんです」


(言い出してない)


「“通せば楽”だとか何とか」


(言葉って、こうして独り歩きするんだな)


主任は僕を見た。


「フェルド。可能か?」


ここで「無理です」と言えば、たぶん終わる。

でも、それはそれで「逃げた」と言われる。


(どっちも面倒……)


僕は、小さくため息をついた。


「……簡単なもので、いいなら」


ルーカスが鼻で笑う。


「簡単? 魔法は“簡単”じゃない」


(それを今から説明するんだけどな)


指定された課題は、基礎火球。


・詠唱あり

・出力最低

・的に当てるだけ


学園一年の定番メニューだ。


「じゃあ、先にルーカス」


ルーカスは、にやっと笑って前に出る。


「見てろよ」


詠唱開始。


魔力を集め、圧縮し、押し出す。

典型的な“正解ルート”。


火球は……

まあまあ。


的に当たって、軽く焦げ跡がついた。


「どうだ?」


取り巻きが拍手。


(うん、普通)


「次、フェルド」


(はいはい)


僕は的の前に立った。


……正直、何をすればいいのかは、もう分かっている。


押さない。

溜めない。

圧縮しない。


通す。


蛇口をひねるみたいに。


(昨日より、イメージは明確だ)


胸の奥の“重さ”に、意識を向ける。


(出口、ここね)


一瞬、世界が――静かになった。


「……え?」


誰かが小さく声を漏らす。


詠唱はしない。


代わりに、僕は軽く息を吐いた。


火球が、すっと現れた。


爆音も、反動もない。

でも――


的が、きれいに消し飛んだ。


焦げ跡どころじゃない。

中心から円形に、抉り取られたみたいに。


静寂。


風が吹いて、灰が舞う。


(……あ)


(ちょっと、通しすぎた)


「…………」


ルーカスの口が、開いたまま止まっている。


「……え?」


取り巻きも、誰も声が出ない。


実技主任が、ゆっくりと歩み寄ってきた。


「……フェルド」


(怒られるかな)


「今のは……」


主任は的の跡を見て、僕を見る。


「……基礎火球か?」


「はい」


「出力は?」


「最低です」


(感覚的には)


主任は、頭を抱えた。


「……嘘だろ」


「な、なあ!」


ルーカスが叫んだ。


「今の、なんでだよ!?」

「詠唱してないだろ!?」

「魔力ゼロじゃなかったのか!?」


(質問多いな)


僕は、正直に答えた。


「押さなかっただけだけど」


「……は?」


「押すから、歪むんじゃない?」


「通せば、楽だし」


完全に理解不能、という顔だった。


(まあ、そうだよね)


補助教官の一人が、震える声で言った。


「……魔力消費、測定値……」


「ほぼゼロです」


(またゼロ)


主任が、目を閉じて天を仰いだ。


「……フェルド」


「はい」


「もう一度聞く」


嫌な予感しかしない。


「君は、本当に……」


「魔力が、ないのか?」


僕は、少し考えた。


正確に言うなら。


「……出してない、だけだと思います」


沈黙。


その言葉が、訓練場に落ちた。


「ふざけるな!」


ルーカスが叫ぶ。


「そんなの、才能自慢だろ!」


「ずるい!」


(ずるいって言われても……)


「みんな、苦労して……!」


「苦労してるのは分かるよ」


僕は、被せるように言った。


「だから言ったんだ」


「……?」


「こうやると、簡単じゃない?」


その瞬間。


空気が、ざわっと揺れた。


怒り。

困惑。

羨望。

恐怖。


全部が混ざった視線が、僕に集まる。


(……あ、これ)


(完全にやらかした)


実技主任が、深く息を吸った。


「本日の実技は、ここまでだ」


「全員、解散!」


生徒たちは、ざわざわしながら出ていく。


ルーカスは、僕を睨んだまま動けない。


(恨まれたな……)


主任は、僕にだけ聞こえる声で言った。


「フェルド」


「はい」


「……君は、学園向きじゃない」


(ですよね)


「いや、褒めている」


主任は、苦笑した。


「ここは、君を縛る場所だ」


その言葉で、僕は確信した。


(あ、これ)


(外に出る流れだ)


その夜。


地下観測室。


水晶は、もはや隠す気もないくらい明るく光っていた。


《異常記録》

出力:未測定

消費:検出不能

現象:通過型魔力行使

危険度:未評価


記録係が、乾いた笑いを漏らす。


「……ゼロじゃないな、これ」


僕は、まだ知らない。


この一言――

「こうやると簡単じゃない?」


が、


・学園の魔法教育

・冒険者の戦い方

・国家の軍制

・世界の魔力循環


全部を壊す合言葉になることを。


ただ一つ分かるのは。


(……明日から、静かに過ごせる気がしない)

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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