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魔力ゼロって言われたけど、無限に溜まってたのでダンジョンから国を作ります  作者: 蒼野湊


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第1話 魔力ゼロって言われたけど、なんか無限にある気がする

魔力測定の水晶が、うんともすんとも言わなかった。


「……魔力量、ゼロ」


ざわめき。ひそひそ声。人生終了の空気。


でも僕は思った。


(ゼロって、軽そうでいいな……)


――その時、学園の結界がなぜか少しだけ“楽”になったことを、誰も知らない。

魔力測定の水晶が、うんともすんとも言わなかった。


「……魔力量、ゼロ」


ざわめき。ひそひそ声。人生終了の空気。


でも僕は思った。


(ゼロって、軽そうでいいな……)


――その時、学園の結界がなぜか少しだけ“楽”になったことを、誰も知らない。


王都魔法学園の入学式前日。

僕、リクス・フェルド(十五歳)は、人生最大級の公開処刑を受けていた。


測定官が、僕の手のひらと水晶を交互に見て、困ったように咳払いをする。


「……もう一度、お願いします」


(やめて。二回目はメンタルに効く)


言われた通り、もう一回、手を置く。


……。


…………。


………………。


水晶は沈黙したまま。

まるで「知らんがな」と言っている。いや、たぶん水晶は喋らない。喋らないよね?


「……やはり、ゼロです」


「ゼロ!?」「そんな馬鹿な」「最低値でも反応は……」

見学席の新入生と保護者がざわつく。


僕の母は、笑顔で手を振っていた。

(母さん、今それやる場面じゃない。応援はありがたいけど、余計に目立つ)


「測定器の故障では?」


誰かが言うと、測定官は即座に否定した。


「正常です。先ほどまで二十名連続で反応しています」


(僕だけ異常ってことじゃん。言い方ァ……!)


ここで空気を変えるように、壇上に立つ初老の男が前に出た。

学園長――白いローブの上からでも分かる“偉い人オーラ”がすごい。


「リクス・フェルド」


名前を呼ばれて、僕は背筋を伸ばす。

こういう時だけ人は礼儀正しくなる。生存本能って偉大だ。


「確認する。君は、これまで魔法を使えたことがあるか?」


「ありません」


「火は?」


「出ません」


「風は?」


「出ません」


「水は?」


「出ません」


「……光は?」


「出ません」


学園長は少し考えてから、なぜか優しい声で言った。


「……キラキラする、とかは?」


(雑な希望を乗せないでください)


「しません」


会場に、妙な同情が流れるのが分かった。

“かわいそう”って空気だ。僕はこの空気に慣れている。慣れたくなかったけど。


「つまり……魔力ゼロ、か」


前列にいた貴族っぽい少年が、小声で笑った。


「そんなのが学園に来るんだ?」


隣の取り巻きが、もっと小声で言う。


「記念だな。“ゼロ”を見るのは」


(……まあ、ゼロってレアだよね。ポケモンで言えば幻枠……いや、やめよう。自分を慰める例えが悲しい)


学園長が咳払いをして、会場を静めた。


「魔力量が測定不能、あるいは反応ゼロの者は、原則入学不可――だが」


“だが”が出た。

“だが”は人生をひっくり返す接続詞だ。ニュースでもそう言ってた。


「本学園は、魔法の可能性を研究する教育機関でもある」


学園長は水晶を見下ろし、僕を見た。


「リクス・フェルド。君を――」


一拍。


「観測対象として入学を許可する」


会場が「えっ?」と同時に息を飲んだ。

僕も「えっ?」と思った。口には出さない。口に出したら取り消されそうだから。


「ただし条件がある」


条件。来た。人生に条件はつきものだ。


「実技は原則見学。危険行為は禁止。許可なく魔法の行使は禁ずる」


(……使えないので、守れます)


「はい」


返事をしてから、僕は心の中でそっと付け足した。


(そもそも、できないんだってば)


測定が終わって帰り道。


母が、やっと僕に近づいてきた。


「リクス、入学できたじゃない!やったね!」


「うん……やった、のかな」


「やったわよ。ほら、普通の子は“入学許可”って言われないもの。特別よ特別!」


(母さんのポジティブ力、国家運営に使えそう)


「観測対象って、何するの?」


「さあ? 観測するのよ」


(説明になってない)


母は明るいまま、僕の肩を叩いた。


「大丈夫。あなたは昔から、ほら……」


「昔から?」


「……なんか、こう……“変”だったし!」


(うん。そこは言い方を考えよう。僕の心は繊細だ)


寮に入って、荷物を置いて。


夜。


僕はベッドに仰向けになった。


(魔力ゼロ、ねえ……)


正直、慣れている。

五歳の測定でゼロ。十歳でもゼロ。十四歳でもゼロ。今回もゼロ。

ゼロは僕のアイデンティティになりかけている。なってほしくないのに。


だけど、今日も“あれ”はあった。


胸の奥の、重さ。


痛いわけじゃない。

苦しいわけでもない。


ただ――何かを抱えている感じ。

ずっと、ずっと昔から。


(これが“魔力がない”って状態なのか?)


魔力がないなら、空っぽのはずじゃないか。

空っぽなら、もっと軽いはずだ。

なのに、僕はいつも“重い”。


(……ゼロって、軽いはずなのにな)


そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ――沈んだ。


(うわ、今、重くなった)


僕は慌てて呼吸を整える。

深呼吸。深呼吸。ほら、落ち着け。


「……寝よう」


明日から学園生活だ。

せっかく入れてもらったのに、初日から寝不足は嫌だ。

僕は、合理的に生きたい。できれば楽して。


(……楽して、って言うと、悪いことみたいだな)


でも本音だ。

疲れるのが嫌だし、面倒なのも嫌だ。

苦しい顔で詠唱するくらいなら、もっと簡単にやりたい。


――そういう僕の願いは、たぶん、世界と相性が悪い。


翌日。


実技訓練場は、想像以上に“魔法学園”だった。

天井まで届く魔導灯。

床に刻まれた結界の紋。

空気がうっすら光って見える――らしい。僕にはよく分からないけど、みんなが「おお…」って顔をしている。


「本日は基礎放出。魔力を“押し出し”、形にして放て!」


教官の号令で、周囲が一斉に構える。


「うおおお……!」

「いけ……っ!」

「詠唱、間違えるな……!」


(……みんな、苦しそうだな)


僕は壁際の見学席で、正直にそう思った。


魔法って、そんなにしんどいものなのか?

出すだけで息が切れてる。

汗だくで、膝に手をついてる。


(魔法って、もっと……こう……水を流すみたいにできないのかな)


押すから苦しいんじゃないか?

水だって、無理に押し出したら腕が疲れる。

蛇口をひねって、流せばいい。


(……蛇口、ねえ)


そこで僕の脳内に、ふと疑問が浮かぶ。


(僕の“重さ”って、蛇口閉めっぱなしだからじゃない?)


やばい。

思考が変な方向に行ってる。

でも止まらない。


目の前では、結界の中で魔力弾が飛んでいる。

小さく、弱く、それでも必死。


(……通したら、楽になるんじゃない?)


その瞬間。


胸の奥が――ふっと軽くなった。


(あれ?)


本当に軽い。

いつも感じている重さが、一瞬だけ抜けた。


(……え? 今、僕……何した?)


何もしてない。立ってただけだ。

でも、確かに軽くなった。


そして、次の瞬間。


訓練場の結界が、かすかに鳴った。

「ピン」とガラスを指で弾いたみたいな音。


「……ん?」


教官が眉をひそめる。


「結界出力、上がったか?」


補助教官が首を振る。


「いえ、操作していません」


教官は周囲を見回した。

もちろん、誰も自分がやったとは思っていない。僕も思っていない。思っていないけど――


(……僕、今、軽くしたよね?)


“軽くする”って何だ。

僕の中の何かを?

それとも、結界を?


(やばい。これ、バレたら面倒だ)


僕はすぐに、余計なことを考えるのをやめた。

思考を止める。頭を空っぽにする。


空っぽに――


(空っぽ?)


空っぽにしようとした途端、胸の奥がまた“重く”なる。


(うわ、戻った!)


まるで、世界が僕に「空っぽになるな」と言っているみたいだった。


(なにそれ。怖いんですけど)


実技が終わるころには、僕は確信していた。


僕は、魔力が“ない”んじゃない。

たぶん――


(……溜まってる)


ずっと、溜まってる。

閉めっぱなしの蛇口みたいに。

だから重い。


なのに測定水晶はゼロと言った。

つまり、僕は“出せてない”。


(出し方が違う?)


“押す”んじゃなく、“通す”。

その感覚が、今、一瞬だけあった。


(……これ、もし本当にできたら)


僕は、思った。


(みんな、そんな苦しそうにやらなくていいのに)


その考えが、また世界とズレている気がした。


その夜。


学園の地下深く、誰も入れない観測室。


古い水晶が、ひとりでに淡く光った。


《異常記録》

反応:微量

変動:循環安定

原因:未特定(観測対象付近)


記録係が首をかしげた。


「……ゼロのはずだろ?」


そして、誰もいないはずの部屋で、もう一度呟く。


「……いや、逆か」


「ゼロだからこそ、入ったのか?」


僕はまだ知らない。


自分の魔力が無限に“溜まり続けている”理由も。

そして――


“通す”という選択が、世界の前提を壊すことも。


ただ一つ分かるのは。


(明日、ちょっとだけ試してみよう)


その“ちょっと”が、たぶん、ちっとも小さくない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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